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8・御剣走、学校にて毎度のトラブル。

「すっ…!スクショ!このページを保存したい!

お父さん!!お父さん!!」



「どうした、走。

シューベルトの魔王みたいになって。」



「シューベルト?魔王?意味分かんない!!

そんな事より、スクショやり方教えて!!忘れた!!」



俺は必死になってスクリーンショットの撮り方を教えて貰った。


俺がそんな必死に訴えてまで何をとっておきたいのか、お父さんは気になったみたいだけど……


とりあえず俺の機嫌が悪かったのが収まり、お父さんがやらかした事を責めなくなったので、下手に掘り返さない方が良さげだと判断した様だ。


何も聞いて来なかった。


保存した真弓とのメッセージのやり取りのページには、真弓の方から送られた「キス」と「デート」の単語が残った。


キスは冗談だって分かってるし、デートだって深い意味は無いんだろうけど。


真弓から俺に向けて、その単語を投げ掛けたってだけて心臓がバクバクする。



「デート……って、ナニするんだろう……

大人はデートで……き、キスするんだよな?」



俺はまだ大人じゃないからキスはしてくれないだろうけど…

でも…でも……真弓は大人だし!!



その後、混乱状態になった俺が質問を含めたいくつかのメッセージを真弓に送ったけど、その日は俺が眠りにつくまで俺のメッセージに既読がつく事は無かった。





月曜日になり学校に登校した俺は、まず最初に真弓が越して来た事を教えてくれた奴に礼を言いに行った。



「ありがとうな!!お化け屋敷、行って来た。」



おとなしい性格の男子が三人でつるんでいる机に両手をついた俺は、身を乗り出すようにしてお礼を言った。

三人は驚いた様に少し身を引いて俺を見た。



「御剣くん、あの家…怖いオジさんがいるだろ?

身体の大きい外国人みたいな……大丈夫だった?」



「まゆ………神鷹のオジさんは怖い人じゃないよ。

見た目は怖そうだけどな。」



つい、癖で真弓って呼び方が口から出そうになった。

咄嗟に頭の中に真弓の名を誰にも真弓だと知って欲しくない。

そんな気持ちが生まれた。


真弓の名前を知り、真弓を真弓と呼べるのは俺だけだ。


誰にも真弓って名前を知って欲しくない。

口にして欲しくない。


そんな気持ちが働いて、外国人みたいな怖いオジさんの名前が真弓だということを隠した。 



「へー、じゃあ見に行って見ようかな。」



俺たちの会話をたまたま聞いていた奴が、会話に混ざる様に俺の隣に顔を突っ込んで来た。


コイツは先生達の中での男子グループ分けで、俺と同じ活発系、しかもやんちゃな男子の筆頭にあがるヤツだ。



「神鷹のオジさんは、普通の大人の男の人だ。

見に行って、どうするんだよ。金森。」



金森は、俺とは気が合う事もあれば、全く気が合わずに喧嘩をする事もある。

俺もコイツも絶対に負けを認めたくないタイプなので、喧嘩をしても決着がついた事はない。


そして、喧嘩の発端はいつもくだらない些細な事ばかりだ。



「別に。でも気になるじゃん。

オンボロのお化け屋敷に住んでる外国人の怖いオッサンなんて、まるでモンスターみたいじゃん。」



俺は、真弓の事を怖い人じゃないと言った事を後悔した。

見に行く気も起こらない程、怖い人だと思わせておけば良かった。


真弓は怖そうな見た目をしているけど優しい大人だ。

自分をからかう目的で見に来た小学生なんて、実際は相手にはしないだろう。


……でも相手にしてしまったら?

俺みたいに、そいつと何かのきっかけで仲良くなってしまったら?


真弓が、俺だけの真弓でなくなってしまう

そんなの、絶対にイヤだ!



「チッ…金森、お前やめとけよな…

そーゆーガキみたいな事すんの。

小学五年生にもなってさぁ。」



俺は、金森に対して苛ついてしまった。

コイツが真弓と仲良くなったらどうしようと考えた瞬間、もう金森に対してムカつく感情しか湧いてこない。


真弓を取られたらと考えただけで腹が立つ。

思わず舌打ちまでして、苛立ちをあらわにした。



「ハァ?何で御剣は良くて、オレは駄目なんだよ。」



金森も、最初は何となく「見に行ってみようかな」と言っただけかも知れないけど、俺がムキになったもんだから引っ込みがつかなくなったようだ。



「そういう問題じゃなくてな!

あそこは、もうお化け屋敷じゃないんだよ!

小学生が見に来たら住んでる人が嫌な思いするかも知れないだろ!」



「何でそんなムキになるんだよ!怪しいよな!

なんかあるんなら教えろよ!言えないのかよ!」



オロオロするおとなしい系の奴らの席の前で、金森と俺が互いの服を掴んで引っ張り合いを始めた。



「なんにもネェよ!

ただ、金森があまりにもガキみたいな事ばかり言うからムカついただけだよ!!」



「御剣、お前こそ優等生ぶって、キモいんだよ!

乱暴モノのクセに!」



取っ組み合いになりかけた所でチャイムが鳴り、教室のドアが開いて先生が中に入って来た。



「朝から何してるの。

ほら、早く席について。朝礼始めます!」



先生にギロッと睨まれた俺と金森は、互いの手を離して「フン!」と互いに悪態をつき、それぞれの席に着いた。

先生はパンパンと手を叩いて注目を集め始める。



「はい、皆さんに報告しときます。

さっきの話を先生もドアの外で少し聞いてたんだけど、東区にあったお化け屋敷と言われていたおウチには、今、前に住んでいた方のお孫さんが住んでらっしゃいます。」



え…?そうなんだ、知らなかった。

俺が小学三年生の頃、肝試し感覚で見に行った時は既に誰も住んでおらず、庭も荒れて廃屋みたいな状態だった。

それ以前におじいちゃんか、おばあちゃんが住んでたなんて知らなかったけど、真弓はその人の孫なんだ。


金森がぶすっとした表情で、手をスッとあげた。



「先生、何でそんな情報知ってんの?」



「先週、この学校の生徒があの家を見に行き、家の前で熱中症で倒れたの。

あの家の方が学校に連絡を下さって、その際にお願いされました。

近所迷惑になるから、空き家だった時の感覚で見に来られたり、庭に入られたりしても困るから、生徒さん達にそのように指導して下さいってね。」



それ、俺の事だな……

俺の場合は、空き家だと思って行ったのではなかったけど。


家の前で大声で喚き散らしてぶっ倒れたもんな…。


金森にはあんな言い方したけど先週末の俺、サイコーにサイテーな大迷惑なガキだった。


俺が寝てる間に学校に電話したって真弓が言っていたからな…

その時かぁ……

今更だけど、恥ずかしい……。


クラスの中が「ダレ?」「違うクラスじゃない?」なんて話し声でザワザワうるさくなる。

俺と、俺に真弓んちへの行き方を教えてくれた三人だけ、無言で目が泳いだ。



「とにかく!あそこは人が住んでらっしゃる普通のお宅なんです!

肝試しだとか、どんな人が住んでるか見に行くとか、小学五年生にもなって、そんな面白半分に人に迷惑をかけるような事はしないよーに!」



担任の先生は、若い女の人だけど男みたいなサバサバした体育会系の先生だ。

生徒には人気の先生だが、怒らせると怖い……。


その先生にギロッと睨まれた。

思わずヘラっと笑って誤魔化す。


そりゃ先生は……真弓の家で熱中症でぶっ倒れたのが俺だって知ってるもんね。



「つまんねーの。怖いオッサンてーのも見たかったのによ。」



金森は頭の後ろで腕を組んで、つまらなさそうに呟いた。

真弓の家を探検感覚で見に行きたがっていた金森が諦めたようで、俺は内心ホッとしていた。


さっきまで、真弓の事で俺が気分の悪くなる想像が頭にいっぱい浮かんでいたから。



真弓は優しいから、子どもが家に来たら俺みたいに受け入れちゃうかも知れない。

そんな子どもが増えて、真弓の家にいっぱい子どもが居る様になって……

真弓がみんなに懐かれて……真弓おじちゃんとか呼ばれて!


そんなの絶対にヤダ!!



「……そんな、おじいちゃんがテレビに出てたな。」



子どもが段々と家に集まる様になって、みんなに懐かれたおじいちゃんが、子どもの面倒見るようになって子ども達の親にも感謝されて。

最後は、数年前に遊びに来ていた小学生が高校生になっててお礼を言いに来る的な。



真弓がそんな風になるとか、絶対ヤダ!

真弓は………みんなの真弓になって欲しくない。



ずっと、俺だけの真弓で居て欲しい。



そんな事を考えていたら………

すっごく、真弓に会いたくなった。


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