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1・御剣走7歳。運命の人との出逢い。

━━彼と俺との出逢いは、運命だった━━



【ラファエル皇国━━郊外の森】



「皇子、デーモン族の追手がそこまで来ております!

早く森を抜けて隣国の港へ行き、大陸を離れないと!」



「分かっている…。

僕を逃がすために戦い倒れた父上…そして母上…。

まだ幼い僕は、何と無力なのだろう……

僕は必ず…必ず、戻って来る!

祖国ラファエルを取り戻すために!

デーモン族を倒せる、伝説の仮面騎士メタトロンとなって!」




【次週!天界仮面騎士メタトロン!幼き日の決意を胸に!】




あの日、小学一年生7歳だった俺はテレビの前で画面に釘付けになった。


大好きな特撮ヒーロー番組の中で、主人公の子供時代を演じたラファエル皇国の皇子役の少年の美しさに目を奪われ、同時に心も奪われた。


緩く波打つ金色の髪と、同じ色のまつ毛に縁取られた水色とも灰色とも見えるキレイな瞳。


見た感じでは皇子は10歳ほど。


その皇子様は今まで見たどんな特撮ヒロインよりもキレイ過ぎて、俺は強い衝撃を受けた。



だから当時、まだ7歳だった俺は…

あまりにもキレイなラファエルの皇子様を女の子だと思っていた。



「お父さん!!

ラン、この皇子さまと結婚する!!」



目を輝かせながらテレビを指差し、声高らかに宣言した俺の言葉を聞いたお父さんが、口に含んだコーヒーを思い切り噴き出したのを覚えている。



「え?えぇ?……この子は男の子だよ?

男の子と言うか……うーん……。

走にはまだ難しいかな。」



テレビの前の俺の隣に座ったお父さんが困った顔をして笑い、俺の頭を撫でながら何かを言いあぐねて説明するのをやめた。



当時の俺は将来の自分のお嫁さんを見つけた気になっており、皇子が男の子だと言われた事すら、大した事じゃないと思っていた。



「うーん神鷹真弓クンかぁ……最近見ないねぇ。」



あの時お父さんが呟いた名前が、ラファエル皇子を演じた彼の本当の名前である事だけは幼いながらも理解した。


その日から俺の頭の中に深く刺さるように、神鷹真弓って名前が俺の将来のお嫁さんとしてインプットされてしまった。




さすがに小学五年生ともなるまでには、男を相手に嫁は無いだろと気付いたが……


それでも神鷹真弓って名前が頭から消える事はなかった。



あの皇子様は、小学五年生の今の俺と同じ位の年齢っぽかった。


初めてラファエル皇子の彼を見たあの日から、もう4年位経ってるから、今の神鷹真弓は中学生か高校生位かも知れない。


でもきっとキレイな人なんだろうな…。


主人公であり天界仮面騎士メタトロン本人、成長したラファエル皇子を演じていた俳優の城之内ヤスヒロよりも。



その城之内ヤスヒロも、最近全然テレビに出てないらしいけど。

俺、テレビは特撮以外見ないから分からないけどさ。





そんな俺に、ある日突然運命の女神が舞い降りた。



夏休みが明けたばかりの教室で帰り支度をしている俺の耳に、帰ろうとしているクラスの男子が数人集まっての会話がたまたま聞こえただけだったんだけど━━



「うちの近所にさぁ、引っ越して来た人がさぁ……

表札に神鷹真弓って書いてあるから女かと思ってたらさぁ

なんとそれが男だったんだよなぁ!

それもさぁ、オッサ………」



「それホントかよ!!!」



俺は食い気味に、ソイツの腕を掴んだ。


ソイツはクラスの中では、どちらかと言うと大人しい系のグループのヤツで、いきなり俺に腕を掴まれて驚きの余り身体をガチガチに強張らせた。


俺は活発男子系グループに属してるようで、大人が言うにはやんちゃ系男子枠に入ってるらしい。


そんな俺にいきなり腕を掴まれて顔を寄せられたソイツと、ソイツの笑い話を聞いていたつもりだった同じグループの男子二人が、どうして良いか分からずにアワアワとパニクってしまった。


俺を苛つかせるような何かをしてしまったんだっけ?

そう思ったのだろう。



「ご、ごめん、御剣くん!オレ達、うるさかった?」



「神鷹真弓が近所に越して来たって本当!?」



俺はソイツの必要の無い謝罪を無視して、興奮気味に訊ねた。


ソイツの顔が間が抜けたように「へ?そっち?」と言いたげな顔になる。



「こ、越して来たけど……?」



「どこ!!そのウチ教えて!お前んチの近所なんだろ!

あ、俺お前んチ知らねー!地図!

地図書いて!早く!」



俺は目をおっきく開いて、せっつく様に興奮気味にソイツに詰め寄った。



「地図?ま、待って…今書くから…」



ノートを一枚切り取って、鉛筆を握りながらソイツが悩みだした。

俺に地図を書けと急かされて、どう書いて良いか分からずにソイツが焦り出す。

だが俺はもう、ソイツの困った顔なんて目に入ってなくて。

頭の中は彼の事でいっぱいだった。



神鷹真弓!!神鷹真弓!!ラファエル国の皇子!!


俺が将来、結婚したいと思った人!!



やっと本人に会える!!








俺は放課後、書いてもらったグチャグチャな地図を握りしめ神鷹真弓が住んでいるという家を探した。


補足や書き直しを何度も重ねて書かれた地図は、何だか黒ずんでよく分からなくなっている。


結局書いてる本人も分からなくなって、ソイツが途中まで案内しようかと言ってくれたけれど、俺は学校の玄関からダッシュして行くからと断った。



地図を書いて貰ってる時に、ソイツのグループの一人がオドオドしながら一番役立つ情報をくれた。



「東区にカエルの変な置き物のある古い薬屋さんがあるの知ってる?

ショーワのヤッキョクって呼ばれている。

御剣くん、あそこの近くに草がボーボーでお化け屋敷って呼ばれていた家あったの分かるかな?」



東区は学校を中心にしたら、西区の俺の家とは全くの逆方向にあり、友達もそちら方面には居らず余り馴染みが無い場所だ。


だけど古い建物が多いその地区にある、お化け屋敷と呼ばれていた家の存在は有名で、俺も知っていた。


その家は無人の古い平屋の家で、見た目がおどろおどろしく、お化けが出ると噂もあり、怖いもの見たさで見に行く小学生の間では割と有名だった。



「そこに引っ越して来たんだって。」



「へー!!お化け屋敷かぁ!分かった!」



そこなら俺も3年生の時に怖いモノ見たさで友達と自転車に乗って見に行った。

だから、何となく場所を覚えていた。



学校が終わり靴を履き替えた俺は、ランドセルを背負ったままで玄関からダッシュした。

1分、1秒でも早く神鷹真弓に会いたかった。


俺が、お嫁さんにしたいと思ったあのキレイな少年に。



どんな風になってるんだろう?あれから4年。

今の神鷹真弓は中学生?高校生?


天界仮面騎士メタトロンを演じていた城之内ヤスヒロは、茶金髪のカッコいいニイチャンだった。


お父さんはよく城之内ヤスヒロの事をお母さんに「彼はホストみたいだよね」と言っていた。


そんな城之内ヤスヒロの子供時代を演じた神鷹真弓。


城之内ヤスヒロより絶対にカッコ良くなってるに決まってる!

ううん、キレイになってる!


俺とは男同士だし、お嫁さんは無理だけど………


とにかく会いたい!





学校からダッシュすること10分ちょい。

俺は、噂のお化け屋敷の前に着いた。



「ハァッ!ハァッ!きっつ!!あっつ!」



まだ9月。

メチャクチャ暑い。


辿り着いたお化け屋敷はボーボーだった草がキレイに刈り取られていて、ボロかった家も何だか直されて小綺麗な感じになっていた。


そして低い垣根に括り付けられた赤い郵便受けに、筆のような物で手書きで豪快に「神鷹真弓」と書かれているのを確認した。



その字を見ただけで、俺のギュッと結んだ口の端がヒクヒクと上がるのを感じた。


拳をグッと握って嬉しさに大声で叫び出したいのを耐える。


喜ぶのはまだ早い。


まだ我慢。まだ我慢しなきゃ!

会わなきゃ!顔を見なきゃ!

喜ぶのは神鷹真弓に会ってからでないと!


スーハースーハー。


俺は大きく深呼吸を繰り返して、走り続けて乱れた呼吸を整える。

手の甲で汗を拭って、ボサボサになった髪の毛も手の平で撫でて整えた。


彼にカッコ悪いトコを見せたくなかった。



いざ、神鷹真弓の家へ……………


その家は、古いガラス張りの引き戸。

俺の友達の中に、引き戸の玄関の家に住んでるヤツは居ない。

初めて引き戸の家の前に立った。

これ、左右のどっちから開けるんだろう。


それに……ピンポンするボタンが無い。

え、中の人をどうやって呼んだらいいの?これ。



早く会いたくて気持ちがはやる。

でも、ピンポンが無い。ノックするドアも無い。

ガラスの扉はグーでノックしたらきっと割れる!



「わぁあアァあ!!!

真弓!神鷹真弓!!ラファエル皇子!神鷹真弓ィ!!」



俺は大声で名前を連呼しながらガラスの引き戸を手の平でベチベチ叩いたり引き戸の左右をガシャガシャ交互に開けようと試みたりした。


残暑の日差しが、ネイビーのTシャツを着た俺の背中をジリジリと焦がすように熱くする。

意識が朦朧としかける。



「わあわあ!神鷹真弓ぃ!真弓ィィ!

ラファエル皇子ィ!

神鷹真弓ぃ!神鷹まゆっっ……!」



引き戸をベチベチ叩いていた俺の手がスカッと空振って、俺は前によろけた。



いつの間にか目の前にあったすりガラス戸が開いており、目の前には………



ジーンズに白いタンクトップ姿のでっかいゴッツい……



無精ヒゲ面に丸いサングラスをした金髪オールバックのいかついオッサンが立っていた。



「わァァァ!!!オッサンだれーー!!!」



遥か高い位置にあるオッサンの顔を見上げた状態で、驚きの余り大声をあげて叫んでしまった。



「うるせえぞ!ボウズ!ダレ、は俺の台詞だ!

誰なんだお前は!

バンバン扉を叩いて人の名前を連呼しやがって!

借金取りか!お前は!!」



人の名前?神鷹真弓………オッサンが神鷹真弓?

じゃあ、同姓同名の別人?


ラファエル皇子じゃないんだ。


ウソ……やっと会えると思ったのに……違ってたなんて……。



俺は身体から魂が抜ける様にスッと力が抜けてしまい、クラリと目眩がして膝から崩れ落ちた。


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