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18・神鷹真弓の意外過ぎる一面。

「どぅわぁあ!!!」



無防備な真弓の白く大きな背中に、いきなり俺が抱き着いてしまったもんで、驚いた真弓が道の真ん中で大声をあげた。


何事かと、周りの人達の視線が集まる。

そして、俺達の姿を見た人達が更に「何事?」と不安げな表情を見せた。


ハタから見たら、ガラの悪い金髪オッサンの背中にしがみつく小学生。

確かに意味不明かも。



「な、ナニしやがるんだ!いきなり!!」



振り返った真弓は、真っ赤な顔をしていた。

真弓はハーフだって、お父さんから聞いたけど、目の色からして白人さんぽいんだよな。

だから肌の色も意外に白くて、赤くなったら分かり易い。



「お母さんに、お土産頼まれてたの忘れてた。

何か、美味しそうなケーキとか買って来てって。」



「マジか!何で、もっと早く言わないんだよそれ。

……ケーキ……だと?」



立ち止まって貰う為に抱き着いた事にした。


お母さんにお土産を頼まれていたのは本当。

ムラムラして衝動的に真弓に抱き着いてしまった言い訳を考えた時に、お母さんにお土産を頼まれていた事を思い出した。


ナイスタイミングで思い出したのはいいんだけれど、咄嗟に口からケーキって出てしまった。


お母さん、スイーツなら何でもいいって言ってたよな。


真弓が本気で悩み出した。

ごめん、バイクでケーキを運ぶのはキツイよね……。


それにしても、俺のお母さんへのお土産で本気で悩むなんて。

見た目に反して根が真面目なんだよな真弓って。



「ご、ごめん…多分、ケーキでなくても大丈夫。

何か、クッキーとかでも大丈夫かな…ははは。」



お土産の事を真剣に悩んでくれちゃった真弓の頭からは、俺がいきなり抱き着いた事は飛んでしまって忘れたっぽい。

いや、ホントにごめん…真弓。

抱き着きたくなっただけなんだ、実は。

お母さんのお土産なんて、俺もすっかり忘れてたし。



「………仕方がねェ。

ボウズ、明日の日曜は空いてるか?」



「空いてる………けど?」



「今日は、このまま帰ろう。

遅くなっちまったしな。

明日、俺んチに来い。アップルパイを作る。」



空の色を見た真弓が決断を下したかの様に重々しく口を開いた。

その重々しい口ぶりから出た意外すぎる真弓の言葉に、俺の思考が止まった。

少し間を空けて止まった思考を動かし、真弓の言葉を改めて整理してゆく。



何かの司令官みたいな渋い声の真弓もかっこいい。

明日も真弓と会える。ワーイ。

しかも真弓の家にお呼ばれした。ワーイ。

真弓がアップルパイ作るって。ワーイ……?



「アップルパイ!?作る!?真弓が!?

真弓が、スイーツ男子だとは今朝知ったけれども!

お菓子、作る事も出来るの!?」



「いや、アップルパイしか作れんのだが。」



何なの!その意味不明に偏り過ぎたスペックは!

何か潔くて真弓、男らしい!カッコイイ!大好きだ!


いや、真弓に対する俺が大好きなポイントも、ちょいちょい変な偏り方をしてきた気もする。



「今日はこのままボウズを送って行く。

お母さんには俺が謝っておくわ。」



「謝るとか、そんな事はしなくていーよ!」



ホント、真弓は見た目に反して変なトコで真面目だ。


バイクを停めてある駐車場まで行き、ジャケットを羽織らせて貰いヘルメットを被せてもらう。

再び、おんぶ紐(タンデムベルトとか言うらしい)を身に着け真弓と密着。


革ジャンがあって、真弓との密着度が少ない…。

やはり、さっき抱き着いてしまった真弓の背中の感触とは程遠い。


湿ったTシャツ越しに感じた生暖かい体温も、腰回りからの腹筋の硬い感触も、ほのかに香る汗と革ジャンと柔軟剤ぽい香りがミックスされた真弓クサい匂いも。


生々しいほどオッサン臭くて、それがナマの真弓で…。




「はぁ………加齢臭っぽ」



「オイ待て、聞き捨てなんねぇぞ。

32歳はまだ若いだろうが、加齢臭なんかするか!」



俺の家の前に到着し、ヘルメットを脱いだ俺の第一声に真弓が抗議した。

バイクで走ってる間ずっと真弓の事を考えていて、ヘルメットを脱いだタイミングで思わず口からポロッと出てしまったけど、俺としては貶す意味で言ったんじゃなかった。



「じゃあ真弓臭?」



「何だそりゃ」



ピンポン押す前にバイクの音で気付いたのか、家の中からお父さんとお母さんが出て来た。


お父さんが真弓にお礼を言って、真面目な真弓はお母さんにお土産の事を謝る。

お母さんはケラケラと笑って手の平を左右に振っていた。



「そんな謝る様な事じゃないですよー!

思い出さなかった走が悪いんですから。

よほど楽しかったのねー。」



うん、その通りだよお母さん。



「その代わりと言っては何ですが、僕がアップルパイを作ってお持ちしますので。

明日、走君をお手伝いにお借りして良いでしょうか。」



え?はい……??



そんな顔をして、お父さんもお母さんも無言で固まった。


真弓がアップルパイを作るって聞いたら、そんな反応せずにはいられないよね。



「……えっと……神鷹さんがアップルパイを…作る…?」



最初にフリーズが解けたお父さんが真弓に確認する。

俺と話す時には、真弓の事を真弓くんて呼ぶお父さんだけど、本人を眼の前にして呼ぶ時には神鷹さんなんだ。

そりゃそうか。古くからの友人てワケでもないし。



「ええ、そんな手の込んだ本格的なモノではないのですが。

ケーキを買って来る事が出来ませんでしたので、せめてパイでも焼いて、お渡ししようかと…。」



「嬉しい話ですが、今日一日ウチの子の相手をしてもらってお疲れでしょう?

明日はゆっくりとなさった方が…。」



お父さんが遠慮がちに言う隣で、お母さんがもう「手作りアップルパイ」で頭の中がいっぱいな、期待に満ちた表情をして目を輝かせている。

お母さんって、そういうヒトだよな。

遠慮が無いと言うか…自分の欲望に正直と言うか。


ホント、俺とそっくり。


だから俺も絶対に「駄目です、やめときなさい」なんて言わせない。

なので、ここはお母さんに明日のお許しを交渉する。



「それで明日、俺が手伝いに行こうと思ってるんだけど。

いいかな。お母さん。」



「もちろん、構わないけど!!

でも神鷹さんは、いいんですかー?

また一日、走の面倒を見る事になっても。」



真弓の方に向かせた俺の両肩に手を乗せたお母さんの中ではもう、俺が手伝いに行く事は決定しているみたいだ。


お母さんは「どうぞどうぞ」と言わんばかりに俺を真弓の方に押しつつ、遠慮がち風な言葉だけを一応口に出している。


お父さんも、お母さんを止める事が出来ずに困った風な笑顔で、真弓とお母さんのやり取りを黙って見ている。



「それは構いません。

僕も今日一日楽しかったですし。

では、明日ウチに来て貰おうか。」



「分かった!今日はありがとう!!

また明日ね、真弓!!」



ブンブンと手を振りながら両親の前で思い切り呼び捨てで名を呼んでしまった。

あ、ヤッベ。

俺の後ろに居るお母さんが、「またっ!」と俺の呼び捨てを叱ろうとした。

肩に乗ったお母さんの手に、力がこもる。

また、うるさい小言が始まる…うざっ………


 

「あぁ、また明日な。

ラン。」



バイクにまたがった真弓が、ヘルメットを被る前に笑いながら俺の名を呼んだ。

このタイミングで……まるで、俺達は普段から互いをそう呼び合ってるんで、と教えるみたいに。



「ええっ、神鷹さん本当に呼び捨てを許可してんの!?」



「うん、そう。」



お母さんの問いに短く答えて頷いた俺は、バイクで走り去って行く真弓の姿を見送りながら、動悸の激しくなった胸を押さえた。


真弓に名前で呼ばれた。

今までも何回か呼ばれたけど、さっきのタイミングで呼び捨てで名前を呼ばれたの……

会心の一撃並みに攻撃力スゴ…。

動悸激しいの、おさまんない……。



「走、家に入って今日の楽しかった話、聞かせてくれるかな。」



「あ、うん!サンダルフォン見て来たから、その話もする」



「あらすじ、ネタバレはやめてね。

お父さんも見に行く予定だから。」



お父さんに声を掛けられ、ハッと我に返った。

お母さんと一緒に家の中に入る。


玄関のドアが締まる前に、完全に夜になった空を見上げた。



「走、なんでニヤニヤしてんのよ。」



「に、ニヤニヤなんかしてないし!

お母さんのがニヤニヤしてるじゃん!

楽しみなんだろ?アップルパイ!食いしん坊!」



俺のニヤニヤの原因なんて、真弓しかない。

しかも自分で気付かずにニヤニヤしていたなんて…ヤバいな俺。



今日という一日が幸せ過ぎて…

真弓と一緒に過ごして、ますます真弓を好きになって。


明日も真弓に会えるって考えただけで、嬉しい気持ちが止まらない。


俺はきっと明日、もっと真弓を好きになる。


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