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10・クロウ伯爵、悪のボス。

レッドと戦うクロウ伯爵の身体の動かし方に既視感がある。


体格は、翼の様にひるがえるマントに隠れ見にくいが、ちょっとした仕草や、革の手袋に包まれた指先の動きに目が行く。



「これ絶対に真弓だって!!」



「仮にそうだったとしたら、あんたのその神鷹さんセンサーは何なのよ。

ちょっと怖い位だわー。」



クロウ伯爵はレッドの飛び蹴りを受けて後退って倒れ、真弓じゃない声で「ウアァ!」断末魔の叫びをあげて、その後派手に爆発した。


え?


何かクロウ伯爵ばかり目で追って、内容が全く入ってこない内に戦闘が終わったんだけど。


クロウ伯爵の爆発と共に、倒れていた悪役全員が爆発した。

残ったヒーロー達が、何か決め台詞的な言葉を言っているが、全く頭に入って来ない。


何だ、この……どーしょーもない感じ。



茫然としたままの俺は、監督、脚本、カメラなどなど同じ名前が連なるエンドロールを見る。


そのエンドロールの最後の方に、クロウ伯爵━━神鷹真弓の文字を見つけた。



「ほらぁ!ここ!神鷹真弓って書いてあ………

あああっ!!!」



エンドロールの後に、オマケ映像らしきものが入っていた。

ヒーロー役の5人の大学生と悪役達が、マスクを外した状態で決め技なんかの流れと段取りを談笑しながら確認していくような映像だったが……



レッド役の大学生と、くちばしのついたマスクを外した真弓が話しているシーンが映った。

肩を越えた長さの金髪を縛った真弓が、落ちてくる前髪をうざったそうに気怠く掻き上げる。

カメラに気付いて一瞬こちらを見たが、すぐにフイと背を向けてカメラから外れた。

真弓のかわりにレッド役の青年が、カメラの前を占領してワザとらしくピースしたりと、テレビに映りたい野次馬のようにふざける。



「真弓が若い!!

ちょっと!レッドお前邪魔!!」



若々しい真弓が可愛い!可愛くてキレイ!

そして、とても美人だ。



「お母さん!何なのこれ!

どこの大学!?いつ!?何で真弓出てんの!?」



「私に聞いても分かるワケ無いでしょー。

お父さんが帰ったら聞いてみなさいよ。

あんたは、本当に神鷹真弓って俳優さんが好きなのねぇ。

ラファエル皇子の頃みたいに女の子っぽくは無いのに。」



さりげなく、もう一度エンドロールから再生。

レッド役の青年と話しながら気怠げに前髪を掻き上げる真弓は……………


凄くセクシーだと思った。



「…………ぅわ色っぽ………。」



思わず、本音を呟いてしまった。





「ああ、見たんだねストレンジャーファイブ。

なかなかにシュールな作品だろ?

時間不足、人手不足、予算不足、色々不足する中で、文化祭で上映するために無理矢理、短時間で作ったらしいんだよね。

特撮ファンの間では、幻の迷作と言われてるよ。」



仕事から帰って来たお父さんに玄関で突撃。

興奮醒めやらぬ状態の俺は、玄関に立ったまま靴も脱いでいないお父さんに話し掛けた。



「それ!!真弓が出てたよ!!」



「あ、気付いたんだ。

あれは確か10年前の作品だから、真弓くんが22歳位の頃かな。」



「お父さん何で、こんな作品がある事知ってんの!?

素人が作ったモンでしょ!?

何で特撮ファンの間では有名なの!?」



まさか、特撮ファンの間ではメタトロンにちょっとだけ出ていた神鷹真弓が有名なのか!?


と、真弓を独り占めしときたい俺は変な焦り方をしてしまう。

俺の他にファンとか、いなくていい!



「走は本当に特撮関係以外のテレビには興味が無いんだねぇ。

あれに出ている敵の女性、彼女は現在それなりに有名なタレントさんだよ。

だから、彼女のレアな過去映像って事で有名なんだ。

作品自体は……かなり……アレだからね。」



「そうなんだ。タレント…

確かに、キレイな女の人だとは思ったけど。」



注目を浴びる理由が真弓でなくて、俺はホッと胸を撫で下ろした。

でも、他の疑問も浮かぶ。

真弓が出演しているって事は……真弓は、この大学に通っていたのだろうか。



「どこの大学かとか、真弓くんが出演していた理由までは分からないからね。」



お父さんは俺が聞こうとした事に先回りして答えた。



「どうしても知りたいなら、お父さんが真弓くんに電話で聞くけど……。」



「なんでだよ!やめてよ!

なんでお父さんが真弓と電話でおしゃべりしたりすんのさ!

俺だって、真弓と電話で話した事無いのに!」



これは嫉妬だと自分で分かった。

そして、お父さんもそれが分かったようだ。

少し困った顔をしたのが分かった。

その表情に危機感を覚える。


嫉妬とは言っても、友達を取られたくないと思うのだって嫉妬だ。

好きな人が自分以外の誰かと仲良くするのが嫌ってだけとは限らない。



「俺に初めて出来た大人の友達なんだから!

しかも、あの、神鷹真弓だよ!?ラファエル皇子だよ!?

お父さんのが大ファンの俺より仲良くしちゃ駄目じゃん!!」



「そうだね。ごめんごめん。

ママ、ただいまー。」



お父さんは笑いながら靴を脱いでリビングに向かった。

俺は、リビングに向かったお父さんの背を見送りながら胸を押さえた。

動悸が激しい。

かなり、焦っていたみたいだ。


小学生が、会ったばかりの赤の他人の中年男にベッタリって……

そりゃおかしいよな。

真弓の中身が実際には紳士でも、あの風貌だし……

知らない大人が見たら、不良への道を勧められてるとか思われそう。


俺の真弓好きが度を過ぎれば、もう会うなって言われるかも知れない。


それだけは避けなきゃならない。


だから、真弓とお父さんが仲良くなるのに嫉妬なんかしちゃいけない。

お父さんと真弓が仲良くなって信頼関係を築いてくれたら、お父さんと仲良しの真弓に俺が懐いたって不思議じゃないはずだ。



「真弓と会えなくなるのだけは絶対…ヤダ。」



真弓と会えなくなったら━━そんな事を考えただけで胸がギュンっと苦しくなる。

ラファエル皇子に会いたい、会いたいと思っていた時なんかよりもっと、もっと辛くなる。


会いたいって、会いたくてたまらないって

大きな声で叫んでしまうかも知れない。


会ったばかりで既に加速気味のこの気持ちは、誰かに話したってきっと理解されない。

一時的なものだと思われてしまうだけだろう。


実際の所、俺自身でも「何で、オッサンなんか好きだと思ったりしてんだろな」と疑問に思う事も無いわけじゃないんだけど……。



▶▶おやすみボウズ



「真弓からの、おやすみメッセージ来たぁあ!

嬉しいぃ!!」



もう理屈なんか関係なく真弓との繋がりが、ただ嬉しい。


真弓が俺の事を、僅かでも気にしてくれてると考えただけで、もう心臓がバクバクする。

スマホを両手で掲げた状態でベッド上で悶絶してしまう。



「そう言えば……真弓って、スマホに出る名前が真弓じゃないんだよな……。

なんて読むんだろARCHERって。」



こんな時、スマホって便利だなって思う。


すぐ調べられるし、調べたらすぐ分かる。


アーチャー。

弓を射る人。



「あー真弓だからか。

真弓のあだ名って事かな。」



自分で呟いた言葉に、ザワッと逆毛が立つ様な何とも言えない嫌な感情が起きた。


あだ名があるって事は、真弓をあだ名で呼ぶ親しい人物が居る。

そう思っただけで………



「俺って、嫉妬深い男だったんだなぁ……ハハハ……。」



俺が知らない真弓を知っている人間が居る。

ラファエル皇子の時から、今に至る20年もの間の真弓の姿を見てきた人達。


それが悔しくて、妬ましい。


いつか


俺しか知らない真弓をたくさん独り占めしたい。


……具体的に、どんな真弓をどうやって独り占めするんだか……


さっぱり分からないんだけど……。


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