第6楽章 昔話
第6楽章 <昔話>
いつもの綺麗な空模様とは異なり、今日は雨が降っていた。
そんなどんよりとした雰囲気の中に、おばさんの明るい声が響く。
「海空~。迎えが来たわよ~」
怜奈が来たことを知らせるおばさんの声に準備をしながら、返事を返す。
手短に準備を終え、怜奈と昨日約束した司書館へ向かって歩いた。
司書館とはこの世の本が全て集まっているとも言われている、ここらで一番の大きな建物で、いつもたくさんの人が本を読みに来ている。
今日の僕たちの目的は、怜奈が昨日言っていた昔話についての本を見つけ出すことである。
僕と怜奈は初めての司書館で、簡単に本なんて見つかるだろうと思って向かっていた。
司書館に到着して、入館して僕らはその光景にただ無言でたたずんでいた。
それもそのはず、想像していた何十倍もの広さに数えきれないほどの本が並んでいたからだ。
「こ、これは大変そうね」
「うん。とりあえず、手当たり次第に探してみよう。」
そうして、僕らは司書館の中を探し回った。
探し始めてからどれだけの時間がたっただろうか。窓の外を眺めると、朝には降っていた雨がやんでおり、オレンジ色の夕日が差し込んできていた。一日中探していたため、さすがに疲れが溜まってきて怜奈と少し休憩をすることにした。
怜奈は机に突っ伏しながら悲鳴を上げていた。
「全然見つからなーい。ほんとにあるのかな」
「一日探しても、探しきれないなんてほんとに広いね。
何か手掛かりの一つでも見つかればいいんだけど…。」
考え込んでいると、遠くの方からの視線を感じた。
そちらの方を見ると、何かが本棚の向こうに隠れるのが見えた。
僕はその何かを見に行くが、そこには何もなかった。しかし、奥の方からノイズ音が聞こえた。長い廊下のような暗闇の中を歩いていくがその先は行き止まりだった。
不思議に思い、行き止まりの壁に向かってノックする。
「ご、ごめんくださーい」
僕は少しおびえながら、小声で尋ねる。
「海空、何で壁なんかに話しかけてんの?」
怜奈が怪訝そうに話しかけてくる。
「そうだよね。壁なんかに何かいるわけないよな。」
「そうよ。何怖いこと言ってんの!今日はもう疲れたから帰るわよ」
「そうだな」
そういって、僕らが帰ろうとすると、背後から不気味な笑い声が聞こえる。
「フフフ、フフフっ」
僕はとっさに振り返り壁の方を見る。怜奈にも聞こえたのか、僕の腕にしがみついておびえている。
「なによ今の声。海空が変なこと言うからほんとにお化け出てきちゃったんじゃないの?!」
「そんなこと言うなよ。僕もお化けは無理なんだから。」
そんなおびえた会話をしていると、再び声が聞こえる。
「フフフ、見つかったのは、初めてだよ。嬉しいな。」
「誰だ!」
僕は声のもとに問いかける。
「フフフ、怖がらないで。僕もたくさん話したい事があるんだ。入っておいでよ」
謎の声がそういうと、行き止まりだった壁に扉が現れた。
「ほら、早く」
怜奈と僕は顔を見合わせ、息をのみおびえながらもその扉に手をかけ中に入っていった。
扉の中に入ると、そこには古そうな本がたくさんある、なんとも趣深い部屋が広がっていて、椅子には髪の短い女の子?が笑顔で座っていた。
「僕の部屋へようこそ。僕の名前は香井雫音。シズって呼んでね」
シズはそう流ちょうに自己紹介をした。僕も怜奈もまだ頭の整理が追い付いていないながらも自己紹介をした。
「まだ何が何だかわかっていない感じだね。とりあえず、座ってよ。」
シズに促され、椅子に座り、用意してくれた紅茶を飲む。僕らが少し落ち着いたのを確認してから話し出した。
「僕は1000年以上前からこの司書館にいるんだ。ここにある本を管理するためにね。ここに1000年以上もいると本は読みつくしちゃったし、することもなく暇になったから司書館の人たちをばれない様に観察するようになった。そしたら今日、一日中本を探し回っている君たちがいたから気になって、見に行くと君に見つかっちゃったんだ。でも、よく壁に気付いたね。自信あったのにな。」
「ノイズが聞こえたから聞こえた方に来ただけだよ。」
「へ~、君ノイズが聞こえるんだ。すごいね。だから気付いたんだ。
それで、君たちはなんの本を探してたの?僕なら分かるかもよ。」
「おとぎ話の本を探してたんだ」
「おとぎ話?」
「うん、怜奈が昔聞いた、感覚共有をしていた人の話を詳しく知りたいと思ってね」
「それって『マエストロ神話』の話かな?」
「マエストロ神話?」
そういってシズは本棚から一冊の本を取り出して、僕らに見せてきた。本は少し古びていて、表紙には笛のようなものが描かれていた。
そして、シズはこの本について話し始めた。本の内容をまとめるとこうだ。
【昔、この国は魔物との戦争をしていた。力は拮抗していてとても長い間その戦争は続いていた。そこにある一つのクワイアがあった。彼らは一糸乱れぬチームワークでまるで意識を共有しているかのような動きで次々と魔物達を倒していき、ついには魔物を全滅させこの戦争を終結させた。の戦いの後に彼らは忽然と消えてしまった。そのクワイアのリーダーが戦闘のときに杖のようなものを振りながら仲間に指示をし、その姿が指揮者のようでありマエストロと呼ぶようになり、語り継がれることとなった。】
シズは説明を終えると、一息つき尋ねてくる。
「でも、どうしてこの話が知りたかったんだい?」
「戦闘のときに、僕が聞こえるノイズを怜奈に伝え、それを聞き怜奈が行動するんじゃ遅くなってしまうから、そのラグをどうにかなくせないかと思ったときに怜奈からこの昔話の存在を教えてもらったんだ。」
「なるほど。でも、あまり手掛かりになりそうなことは書かれてなかったね。ごめんね」
「シズが謝ることないよ。違う方法を探してみるよ。」
僕はふと怜奈がおとなしいなと思い目を向けてみると、怜奈が本の表紙を眺めうなっていた。
「怜奈、どうかしたの?」
「うーん、この笛どっかで見たような気がするんだけど、どこだろう。」
僕はもう一度、その笛を見て思い返してみる。すると、思い当たる物が一つふと浮かんだ。
それと同時に怜奈の「分かった!」という元気な声も聞こえた。
僕は怜奈と目を合わせ、笑みを浮かべる。
シズは何の事やら分からないような顔をして、尋ねてくる。
「二人だけでずるいよ。僕にも教えてよ!」
僕は首にかけていた笛を外し、本の絵の横に並べてみる。
「わぁ~。全く一緒だ。どうしてこれを海空が持ってるの?」
シズは少しテンションが上がったのか、ぴょんぴょんと跳ねながら尋ねてくる。
「これは、母さんからもらった笛なんだ」
「じゃあ、お母さんに聞けばわかるね」
「そうだね」
何も知らないシズと怜奈が何気なく言った言葉に僕の胸が痛む。そして怒りもふつふつとわきでてくる。僕が少し黙っていると、何かを感じたのか二人が僕を心配してくる。
僕は、怒りと胸の痛みをこらえながら二人に伝える。
「僕の母さんは、死んだんだ。殺されたんだ、たぶん」
怜奈とシズは驚いた顔をして、すぐに僕に謝ってきた。
「「ごめん」」
「いや、いいんだ。シズはともかく怜奈にも伝えてなかった僕も悪いしね。」
少しの間沈黙が続いた。
僕は気まずい雰囲気を壊すため、僕は笛を口にくわえ、音を鳴らす。
“シ~ソミド”
「「綺麗な音~」」
怜奈とシズは笛の音を聞き、うっとりとしていた。
がしかし、僕は、驚きを隠せなかった。なぜなら前に一度聞いた時とは全く違ったように聞こえたからだ。
僕は、また疑問が生まれた。
香井雫音海空怜奈
絶対音感の方がいらっしゃれば、ここの表現は違うなどの意見を送ってもらえると嬉しいです。
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