第3楽章 出会い
第3楽章 <出会い>
今日は朝から宮殿に向かい、依頼をいくつかすることにした。
僕の当分の間の目標としては、強くなること。具体的には、冒険者ランクをCまであげること、にした。パート無しの僕にはとても難しいかもしれないが、この先の計画を実行するためには必要不可欠なものだった。
宮殿に到着し、Eランク冒険者専用の依頼ボードへ向かう。
ここでは、自分のやりたい依頼の紙をボードからはがし、受付にもっていくと依頼が成立し、その後達成確認がされると依頼完了となる。
依頼の内容を確認していき、受付のお姉さんに紙をもっていった。
「「ソーリトの採集」と「魔獣プリモの討伐」ですね。プリモ討伐の方は、プリモの耳を持ち帰っていただくと討伐成功となります。武器などの貸し出しはあちらでやっています。
初依頼頑張ってください。」
「ありがとうございます。頑張ります。」
お姉さんは笑顔で送り出してくれた。
今回の依頼の中の「ソーリト」とは回復草の一種であり、初歩的な薬草だ。今回は12本が1依頼分の換算だ。そして、「プリモ」とは魔法攻撃をしてくる魔獣で、小柄で少しぽっちゃりとした体形で動きがゆっくりのため、冒険者始めたての人にはもってこいの敵である。こっちは、耳3つで1依頼分だ。
僕は、宮殿で貸し出されている、ナイフを借りて、早速、2つともの依頼場所である森へ向かった。
森へ到着してすぐに一つ目の依頼の「ソーリト」が見つかった。そのあとも森を歩いているとちょこちょこと見つかったので二つ目の依頼の「プリモ討伐」を主体に進めていくことにした。
森の少し奥まで行くと一体のプリモを見つけた。
向こうもこちらの接近に気付いたらしく、向かい合う状況になる。
数秒の沈黙の後、プリモが仕掛けてくる。
「グぉぉ」
とプリモの声の後、火の玉が僕めがけて飛んでくる。
しかし、僕はプリモの声の後のノイズの音、「ド」の音を聞き逃さず、
すかさず身を屈め躱した。
間髪入れず、プリモがまた声を上げ、魔法を打ってくる。
今度は水の玉が飛んでくる
が、僕は再び躱した。
二度も魔法を避けられたプリモは動揺していた。その動揺を見逃さず接近し、ナイフでトドメをさした。初めて魔物をしとめることができ、自分の耳の凄さを改めて実感するのと同時に、冒険者でもやっていけるという自信がついた。
そして、同じ「ド」の音でも、違う種類の魔法が来ることを知り、疑問がまた浮かんだが、それは今度考えることにした。
そのあとは、順調に討伐することができ、帰るころには6体ものプリモを倒していた。ソーリトも20本ほど集めることができた。
依頼達成の報告のため宮殿に戻り、朝の受付のお姉さんに話しかける。
「「ソーリトの採集」と「プリモの討伐」でしたね
とってきたものを見せてください」
僕はうなずき、見せると
「お、多いですね。初めてでこれだけ集めてきた人はいませんよ」
「そうなんですか。つい、夢中になっちゃって」
「夢中になりすぎて、あまり森の奥にはいかないようにしてくださいね。
あと、今日の達成報酬の800シリングです。」
「はっ、800シリング!?そんなにもらえるんですか?」
「はい、プリモ6体討伐で500シリング、
ソーリトがちょっと少ないけどおまけで2依頼分の300シリング、
合わせて800シリングです。」
僕は驚きながらもそのお金を受け取る。
「また、次回も頑張ってくださいね。」
と笑顔で見送ってくれるお姉さんに会釈をし、大切に抱えながら家に帰った。
僕はお金に気を取られていて、物陰から僕を見ている何かに気付くことはなかった。
家に帰り、おばさんに今日のことを知らせるととてもほめてくれた。今までのお礼として、いくらかお金を受け取ってほしいと頼んだけど、軽くあしらわれ、冒険に必要なことに使いなさいと言われた。
僕はいつかおばさんにも恩返しをすると心に決め、眠りについた。
次の日、僕はまた朝から依頼の場所へ向かっていた。
今回は昨日の二つに加え「アジリタの討伐」を加えた三つの依頼を受けた。
アジリタは魔法攻撃をしてこない物理攻撃のみの魔獣である。
昨日のお金で少し高めのナイフを買って、同じ森へと向かった。
ソーリト採集は昨日と同じように、討伐系の依頼の合間にすることにして、まず、プリモを探すため森を散策する。
散策していると、
「たすけて」
と遠くの方から小さな声が聞こえた。
急いで向かうとそこには、三体のプリモに囲まれて、真ん中に同い年くらいの女の子が座り込んでいた。
すると、一体のプリモが女の子に攻撃しようとしていたので、背後からナイフで刺す。
思わぬ攻撃によりプリモたちが動揺して動きが止まっている間にもう一体も殺す。
高いナイフということもあり、とても切れ味が良く簡単に切れた。
僕は残る一体のプリモと向かい合う。昨日と少し違うところは、女の子が僕の後ろに座り込んでいるところだ。これでは、昨日のように、魔法を避けると女の子に当たってしまう。
「君、動ける?」
僕がそう尋ねると、女の子はうなずく。
「じゃあ、僕がよけろと言ったら、右側に思いっきりジャンプだ。」
再び女の子はうなずき、涙を拭きながら立ち上がった。
プリモが声を上げ、魔法を放つ
と同時に、僕は
「よけろ!」
と言う。女の子は右へ大きくジャンプ。
そして、僕はよけながら、プリモとの間合いを詰める。
昨日さんざんやった僕なりのプリモの討伐方法だ。
避けられたことに気付いたプリモはもう一度魔法を唱えようとする
が、時すでに遅く、僕のナイフがプリモの首を断ち切った。
「大丈夫?怪我はない?」
僕は女の子に尋ねる。
すると、女の子はいきなり僕にしがみついて、泣き始めた。
女の子を落ち着かせ、話を聞いた。
年は僕と同じ12歳の名前は須藤怜奈。パート鑑定ではロンドと鑑定され最近冒険者になったばかりだそうだ。魔法もファイアボールほどしか使えないらしい。
僕は女の子を送り届けるため、「アジリタ討伐」は諦め、宮殿に向かい歩き始めた。
何事もなく安全に帰れると良かったがそうはいかず、不運にもアジリタと遭遇してしまう。
僕はナイフを構え、攻撃に備える。
すると、どこからか
'' シ~ ''
と音がして、アジリタの目の色が変わった。
その直後、目にもとまらぬ速さで僕らめがけて突進してくる。
僕はとっさに、怜奈を飛ばす。
が、自分の回避が間に合わずもろにお腹に食らう。
激痛の走るお腹を押さえながら、
「怜奈、後ろの草むらに隠れておけ」
「でも、海空が、、」
「俺は大丈夫だ。早く!」
怜奈は、戸惑いながらも草むらへ入っていった。
怜奈には大丈夫と言ったが、結構まずい状況だ。
今まで戦ってきた、プリモは魔法攻撃で次の攻撃が読みやすかったが、アジリタは物理攻撃で攻撃が読めない。
それに、さっきの音はノイズか!?
「シ」の音だったから、援護系の魔法だろう。
そのせいで、アジリタの動きがかなり素早くなっているのか。
再びアジリタが突進してきたが、次はぎりぎりのところで躱す。
そして、見つける。
アジリタの後ろにある木の背後に隠れている人影を
「怜奈、アジリタに向けてファイアボールを打てるか?」
怜奈は、頷き、すぐに魔法を唱え始めた。
アジリタは突進の構えを始める。
「ドッピオ」
怜奈から火の玉が放たれると同時に、アジリタが突進を開始。
火の玉は、アジリタには当たらなかった。
しかし、人影のあった木に当たる。
その直後、アジリタの目の色が元に戻り、動きが少し遅くなった
余裕ができた僕は、ナイフでアジリタを切り裂いた。
すぐに木の方に目を向けたが、人影は既に無くなっていた。
そのあと、怜奈に魔法を当てられなかった謝罪と、怪我の心配をされたが、大丈夫だと言って頭を撫でてやると、満足そうに笑った。その笑顔はどことなく僕のお母さんに似ているような気がして、胸が高鳴った。
宮殿に着き、依頼達成の報酬を受け取った。「アジリタ討伐」も結局達成だったが「プリモ討伐」は怜奈に譲ってあげたため、今日の合計は550シリングだった。
宮殿を出るときに怜奈に話しかけられた気がしたが、今日一日の疲労感がどっとやってきて、僕はただ無心に家に向かって歩き、すぐに眠りについた。
絶対音感の方がいらっしゃれば、この表現は違うとか指摘してくださるとありがたいです。
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