第2楽章 実感
第2楽章 <実感>
あれから何日たっただろうか。
家が全焼してしまってからは、何も食べずに野宿していた。しかし、空腹感が絶望感を上回って、食べ物を見つけるため、町を歩き始めることにした。
ふらふらと街を歩いていると、聞き覚えのある声がする。
「海空じゃないかい?」
振り返ると、いつもの店のおばさんが立っていた。
「誕生日の日の事故の後からいなくなったって聞いて、心配したんだよ。こんなに、体を汚して何してたんだい」
「ごめんなさい」
「大丈夫かい?」
「・・・・・」
僕が答えられないまま、黙っているとおばさんがフッと息を吐き
「まーとりあえず、あたしの家に来なさい」
そういって僕の手を取り、歩き始めた。
おばさんの家兼店の前に着くと、
「さすがにそんなに汚かったら、家には上げられないね」
と言って、
「ショルタメンテ」
と唱えると
'' シ~ ''
とあの時聞いたピアノのような音が単音で聞こえた。
その後すぐに僕の泥まみれの服がきれいになっていく。
僕はびっくりして固まってしまった。魔法の凄さにではない。魔法を唱えたときに鳴る音に驚いた。その音は、誕生日のときの家の前で聞いたあの音にそっくりだったからだ。
僕はすぐにおばさんに聞いた。
「おばさん今の何?!」
「何って、援護系の魔法だよ。海空も知ってるだろう」
「魔法じゃなくて、音だよ、音」
「音?ノイズのことかい?魔法は周りの空気を変形して発動するから、普通に生活しているときには全く気にならないぐらいとても小さい音だけど、音が鳴るのよ」
今まで全く知らなかったし、気づかなかった。
「よく聞こえたね。あたしは聞こえないよ」
僕は、焦るようにおばさんに頼む。
「おばさん、他の魔法も唱えてみて」
「わたしゃ、援護系以外得意じゃないんだけどねぇ」
そう言いながらも、唱えてくれる。
「ドローレ」
そして、「ド~」という音の後に小さい炎が上がる。
僕は少しの違和感を覚える。さっきの音と今回の音少し音が違ったからだ。
今回の音はさっきよりも低い音だった。
違いを確かめようともう一度頼んだが、先に風邪をひかないようにお風呂に入ってから
と言われてしぶしぶ家の中に入っていった。
風呂から上がると、おばさんがご飯を作って待ってくれていた。
久しぶりの温かいご飯を食べながら、魔法について教えてもらったり、見せてもらったりして分かったことがある。
まず、僕の誕生日のことは事故ということになっているらしい。
そして、ノイズは魔法を使う魔物もしくは人間が一つの魔法を発動するときに鳴る音ということ、魔法は二つ以上同時に打てないということ。ノイズは魔法の系統によって音が変わるということ。
おばさんに協力してもらい調べたところ
攻撃系は「ド」の音
回復系は「ソ」の音
援護系は「シ」の音 であった。
「レ」や「ファ」などの音はおばさんの使える魔法の中には無かったが、守備系などが残っているのでそれらの魔法が当てはまるのだろう。
ノイズの音の違いをおばさんに伝えても音が小さすぎてそもそも音が聞こえないと言っていたので、相当耳が良くないと聞こえないということ。
これらのことから、誕生日の日の家が燃える前に聞こえた音の正体と謎が生まれた。
家が燃える前に聞こえたあの不協和音は二回だった。
僕の記憶が正しければ
一回目は「シ」と「ミ」
二回目は「シ」と「ド」と「レ」 だった。
この音は家に魔物がいたとは考えにくいので、誰かしらが魔法を使ったということになる。
そして、同時発動できないので少なくとも三人いたということになる。
あの日のことは事故ではなくて、事件だったことになる。
一体誰が、どうしてそんなことを……。
怒りが心の奥底からふつふつと湧き出てくる。
そんなことを考えていると、
「海空!み・そ・ら・ちゃーん!」
「わぉ、びっくりした」
「ちょっと疲れてるんじゃない?今日はもう寝なさい、ベッド貸してあげるから」
「うん」
そういって、ベッドに横になる。
それからすぐに、飲み込まれるように眠った。
翌日、おばさんが作ってくれた朝ご飯を食べながら昨日のことそして誕生日の日のことを考えていた。
なぜ音がいきなり聞こえるようになったのか。おそらく、祭神式が原因だろう。
「パート無し」と鑑定されたが、鑑定には映らないが耳が良くなる何かを授かったのか。
しかし、あの時このことに気付いていても、母さんを助けることができなかっただろう。無力だった僕にとてもムカついた。そして、お母さんを殺したであろう犯人たちにもそれ以上の怒りを抱いた。
そんな時、おばさんが話しかけてくる。
「まーた、そんな怖い顔しちゃって。どうしたのよ」
「ちょっと、自分の弱さにむかついて」
「なんだい、そんなことかい
海空は冒険者になるんじゃなかったのかい?」
「パート無しじゃ冒険者にはなれないでしょ」
「そんなことないさね、冒険者登録は宮殿で誰だってできるんだよ」
「そうなの!?」
「知らなかったのかい?」
「じゃあ、冒険者登録に行ってくる」
そういって家を出ようとすると、
「ちょっと待ちなさい、これは大事なものなんでしょ。忘れて行っちゃだめよ。」
と言って、笛を掛けてくれた。
「汚れていたから、洗っておいたわよ」
「ありがと。行ってきます。」
「行ってらっしゃい」
おばさんは笑顔で僕を見送ってくれた。
宮殿に向かっていると、村長さんと出会った。
「海空くん、久しぶりじゃないか。大丈夫だったかい?」
「はい、なんとか。」
「これから、どこか行くのかい?」
「今から、宮殿に冒険者登録をしに行くんです。」
「ぼ、冒険者かね。でも、君はパート無しだったんだろ?」
「パート無しでも冒険者になれると聞いたので」
「そうかね、頑張りなさい」
そういって村長は微笑んだ。
宮殿に到着し、冒険者のブースに入ると、そこは冒険者で賑わっていた。そして、ほとんどが僕に目を向ける。「パート無し」として有名になっていたからだろう。
しかし、パートがないことは異例と言われながらもそこからの手続きはスムーズにいった。
冒険者にはE~Aランクがあり依頼や魔物討伐をしていくと上がっていくらしい。
説明を受けている最中に
「「ランク無し」は一生Eだろ」と何度もヤジを飛ばされたが
冒険者になれた喜びの方が大きかったので放っておいた。
一通りの手続きが終わったので今日は帰ることにして、明日から討伐や依頼にいそしむことにした。
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「○○さま、海空が冒険者登録をしたそうです」
「なに!?
あんな奴は、世に出してはならぬ。何としてでも阻止せねば最悪の事態になるぞ」
「どうしますか?」
「Eランクのうちに始末しておけ、方法はお前に任せる」
「ははっ」
「今に見ておれ、海空」
感想や意見どしどし送ってくれるとありがたいな~。
絶対音感の方がいらっしゃれば、この表現は違うとか指摘してくださるとありがたいです。
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