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 薄暗い路地でも光輝くような金色の髪に、澄んだ青空のような青い瞳。

 背が高く痩身だが、ラネを庇ってくれた腕は力強く、相当鍛えているのだろうと察せられた。彼は片手でラネの腕を掴んでくれた男を引きはがし、さらに空いた手で支えてくれたのだ。

「……お前、ランディか。改心したというのは、嘘だったようだな」

 呆れたような声だが、底には相手を威圧するような響きがある。

 黒いローブの男は、敵意がないことを示して両手を上げ、大きく首を横に振った。

「とんでもない! 俺はただ、このお嬢さんがひとりでこんなところを歩いていたから、安全な場所まで連れて行くつもりで」

「脅していたようだが?」

「こんなところに長居をしていたら、危ない目に合うぞって警告するつもりだったんだ」

 ローブを脱ぎ、露になった顔は思っていたよりも若く、まだ少年のように見える。

 茶色の髪は肩まで長く、ひとつに結んでいる。あまり身綺麗にしていないから、彼もまたこの辺りの住人なのだろう。

 だが同じ少年でも、路地裏からラネを見つめていた彼らとは、まったく違う。だからその言葉を信じることにした。

「わたしを助けようとしてくれたのね。ありがとう。暴れてごめんなさい」

「……本当に、世間知らずのお嬢様みたいだな」

 呆れたような声でそう言うランディを、助けてくれた金色の髪の青年が小突く。

「彼女の好意に感謝しろ。そう言ってくれなかったら、詰め所に突き出すところだった」

「そ、そんな。すみません、お嬢さん。ありがとうございます」

 頭を下げるランディに、ラネは慌てて首を振る。

「わたしはお嬢様じゃないわ。田舎から初めて王都に来て、人に酔ってしまったの。だから休める場所を探していたら、こんなところに入り込んでしまって」

「なんだ、田舎もんか」

 そう言ったランディは、再び小突かれて頭を押さえる。

「痛い! あんたの力は常人離れしてるんだから、手加減してくれないと頭が砕けてしまうよ」

「まったく、懲りていないようだな。次はないぞ」

 そう言うと、ランディは慌てて逃げて行った。

 それを見送った彼は、ラネに向き直る。

「気分が悪いところに、騒がしくして申し訳ない」

「いいえ、助けていただいてありがとうございます。わたしはラネです」

 そう名乗って頭を下げると、彼は穏やかに微笑む。

「俺はアレクだ。安全に休めるところに案内しよう」

 そう言って、大通りから少し離れた公園に連れて行ってくれた。

 こんな大都市の真ん中だというのに木々が生い茂り、噴水まである。

 導かれたベンチに座り、ラネはほっと息を吐く。

「ありがとうございます。楽になりました」

「それならよかった」

 心配そうにラネを見ていたアレクは、そう言って笑みを浮かべた。

 その整った容貌に今さら気が付き、胸がどきりとする。

「俺も、生まれは王都ではなくて、遠く離れた海辺の小さな町なんだ。慣れるまでは、結構大変だったよ」

 そう言って、目を細める。

 田舎から出てきた者同士という共通点に、緊張していたラネも次第に打ち解けてきた。

「わたしは山辺にある小さな村から来ました。海は、まだ見たことがないんです」

「そうか。いつか見てみるといい。ところで、君はどうして王都に? もしかして、明日の結婚式を見に来たのか?」

「……いえ。あの」

 どこまで話していいのか。どう伝えたらいいのか。

 少しだけ迷う。

 アレクはそんなラネの戸惑いに気が付いたようで、謝罪の言葉を口にした。

「すまない。出会ったばかりだというのに、不躾だった」

「そんなことはありません。ただ、わたしたちはエイダ―と同じ村の出身で。それで、結婚式に招待してもらったのです」

 それだけを告げる。

「エイダ―の?」

 彼は驚いたようにそう言った。

 どうやらエイダ―をよく知っている様子だ。


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