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 ふと聞き覚えのある声がして、窓の外を見る。

 幼馴染のメグとミーエが、ふたりで出かけるところだった。最初は萎縮していたふたりも、徐々に美しい王都の街並みに惹かれたのだろう。

(わたしも、少し歩いてみようかな?)

 これからは村を出てひとりで暮らすのだから、この環境にも慣れておかなくては。

 そう思ったラネは、軽く身支度を整えて町に出てみることにした。

 宿屋の受付に外出することを告げて、外に出る。

 迷子にならないように、宿屋の名前と目印になるようなものを探して覚えておかなければ。そう思って周辺に視線を巡らせると、ちょうど宿屋の前には広場があり、そこには大きな時計塔があった。

(これなら迷ったりしないわね。宿の名前も、緑の時計亭だし)

 なぜ緑なのかというと、宿屋の中に多くの植物や花が飾られているからだろう。見慣れている野花とは違う、人の手の入った豪奢な花は、思わず見惚れてしまうくらい美しいものだった。

 軽く周囲を見渡してから、人通りの多い方向に歩いてみる。どうやらこの先は多くの店が並んでいるようだ。

(店がいっぱいあるわ。それに、たくさんの人……)

 生まれ育った村には、何でも売っている雑貨屋が一件ある。けれど王都に立ち並ぶ店は、専門店ばかり。それも、服を売る店だけで何件もある。

(綺麗な服……)

 思わず目を奪われて、立ち止まる。

 よく見れば町を歩いている人たちの服装も、洗練されていて美しいものばかり。貴族ではなくとも、これほど裕福に暮らしている人もいるのだと、驚く。

(何だか華やかすぎて、眩しいくらい)

 人の多さも相まって、少し気分が悪くなってきた。長距離を魔法で移動したばかりだということも関係があるのかもしれない。

 少し休もうと、ラネは大通りから外れて裏道に入った。

 あまり人の気配もなく、周囲の建物が高いせいか、昼間だというのに少し薄暗い。

 それでも賑やかな大通りからあまり離れていないからと安心して、ラネは休める場所を探して歩いていく。

 そして、王都でも華やかなのは一部でしかないと思い知った。

 通りの隅には、昼間から酒の匂いのする男が転がっていた。もっと奥にある裏地からは、暗い目をした子どもがじっとこちらを見つめている。

 まるで獲物を狙う獣のような目だ。

「……っ」

 危険を感じたラネは、身を翻して逃げようとする。

 王都は華やかで美しいだけの場所ではない。

 着飾った人々がいる反面、少し道を外れたら、村よりも貧しい暮らしをしている人達も存在するのだ。

 けれど、ここで走って逃げたのは間違いだったようだ。

 ラネは、裏通りから飛び出してきた男に、腕を掴まれてしまう。

「きゃっ」

「おっと、こんなところに迷い込むなんて、不用心なお嬢さんだ」

 低く笑う声がした。

 黒いローブを被った若い男は、そう言ってラネの腕を掴んだまま、どこかに向かおうとする。

「嫌……。放してくださいっ」

 何とか抵抗して逃げようとするが、男の手は力強く、けっして離れない。

「暴れない方がいい。痛い目に合うぞ」

 脅し文句に息を呑んだ途端、ふいに腕が解放された。

「あっ」

 力一杯振りほどこうとしていた反動で、転びそうになる。それを背後から支えてくれたのは、見知らぬ若い男性だった。

「大丈夫かい?」

 気遣うような優しい声。

「……は、はい」

 ラネは安堵で座り込みそうになりながら、ゆっくりと頷いた。


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