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 そして洗濯を干しにいった先で、幼馴染のメグに嫌がらせのようなことを言われてしまった。

 エイダ―の結婚の知らせを聞くまでは、友人たちはラネに同情的だった。

 魔王討伐が成功してから、もう随分経っている。ずっと帰りを待ち続けていた婚約者に、手紙ひとつ寄越さないなんて、と憤ってくれたこともあった。

 けれど今朝のエイダ―の父親の話で、すべてが変わってしまった。

 聖女との結婚後は、爵位と領地を賜るというエイダ―。彼に睨まれてしまったら、こんな小さな村などどうなるかわからない。みんなそれを恐れて、ラネとその両親に関わることを辞めたのだ。

(自分が生まれ育った村だもの。そんなことをするはずがない……とは、もう言えないわね)

 こんな小さな田舎の村で生まれたのも、幼馴染の婚約者も、彼にしてみたら抹消したい過去なのかもしれない。

 母の嘆きから逃げるように部屋を出て、台所に向かう。昨日収穫した野菜を使って、昼食を作るつもりだった。

(これからどうしようかな……)

 料理をしながら、今後のことを考える。

 きっと、この村を出たほうがいいのだろう。

 あんなことがあった後に、ラネと結婚してくれる者などいないし、当事者である自分がいないほうが、両親も生きやすいに違いない。

 けれどラネは、生まれ育ったこの村を一度も出たことがない。外の世界に対する不安や、両親と離れる心細さもある。

 それでも、この村で暮らしていたら、ろくなことにならないのは明白だ。

 むしろ出ていけと言われるかもしれない。

 そうなる前に、自分から出て行こう。

 そう決意したラネだったが、午後からエイダ―の父親は、今度はエイダ―の幼馴染みだけを広場に呼び出し、こう言った。

「聖女アキ様が、エイダ―の友人にも結婚式に参列してほしいとおっしゃっている。大変光栄なことだ。明日の朝、王城から迎えが来るので、各自支度をしておくように」

「え……」

 突然の言葉に、他の幼馴染たちも動揺しているようだ。

「迎えとは?」

 村長の孫であるトリザが、慎重にそう尋ねる。

「王立魔導師団の団員が、テレポートの魔法で王都まで運んでくださる。全員移動させることが可能らしいから、心配はいらない」

「王立魔導師……」

 こんな田舎の村では、魔導師だって見たことがない。それなのに、国に仕える王立魔導師団の魔導師が、わざわざ聖女の結婚式に参列する人達を移動させてくれるという。

 改めて、聖女という存在がどれほどのものか思い知る。

 エイダ―の父親は何度も全員だと言った。親世代はともかく、エイダ―と年の近い者は全員参列しなければならないらしい。

 もちろん、エイダ―の元婚約者であるラネもだ。

 エイダ―の父親は、何度もこちらを見ていた。自然と、他の人たちの視線もラネに集まる。

(元婚約者を結婚式に参加させるなんて、悪趣味ね)

 溜息すらも、深読みされてしまいそうでつけない。

 ふたりの結婚式を見せつけて、完全に諦めさせるつもりなのか。

 聖女の結婚ならば、さぞかし豪華絢爛であろう。

 もしくは嫉妬したラネが、ふたりの邪魔をすることを期待しているのかもしれない。事を起こしてしまえば、不敬罪で罰するのはたやすい。

 エイダ―と聖女の真意はわからない。

 けれど、どうあってもエイダ―の結婚式には参列しなければならないようだ。


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