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 洗濯物を干し終わって家に戻ると、部屋を出たときと同じように母が泣いていて、父が必死に慰めていた。

 今朝、エイダ―の結婚の知らせを聞いてから、ずっとこんな調子だ。

(たしかに、おじさんとおばさんの態度はひどかったけどね)

 ラネは、今朝のことを思い出して溜息をつく。

 息子のエイダ―が魔王討伐パーティに選ばれてから、彼の両親は村長よりも大きな顔をするようになっていた。

 エイダ―から連絡が入る度に広場に村人たちを集め、エイダ―が凶暴な魔物を倒したとか、ドラゴンと対峙したとか、そんなニュースを教えてくれる。

 最初は大喜びだった村人たちも、あまりにも頻繁に呼び出されるため、なかなか集まらなくなっていた。

 たしかに魔王を倒してくれる一行には感謝しているが、仕事をしなければ食べていけない。だから今朝も、最初に集まったのは四、五人だったらしい。

 それを、本当に大事な発表だからと、村人全員を強引に広場に集めたエイダ―の父はこう言った。

「息子のエイダ―が、聖女アキ様が結婚することになった。結婚後は爵位と領地を賜る予定だ」

 それを聞いた村人たちの視線が、ラネに集まる。

 ふたりが結婚の約束をしていたことは、村中の人たちが知っていた。

 哀れみや好奇の視線を向けられても、ラネは表情ひとつ変えずにいた。

(何となく、帰ってこないような気はしていたのよね)

 彼が出立してから二、三年は、頻繁に手紙が届いていた。

 贈り物をもらったこともある。高価なものではなかったが、エイダ―が選んでくれたものだと思うと嬉しかった。

 もちろん返事も出した。

 ギルド宛に出した手紙は、彼が旅を続けていることもあって届くまで時間が掛かっていたが、それでも途切れず続いていたのだ。

 けれど魔王討伐パーティに選ばれてから、ぴたりと手紙が途絶えた。

 さすがに魔王討伐の旅は過酷だろう。

 ラネもそう思って、手紙を出す代わりに毎日、教会で彼の無事を祈り続けた。

 それから一年ほど続いた旅も、魔王討伐という偉業を成しえて、ようやく終わった。

 ラネは心から安堵して、さっそく彼の無事を喜ぶ手紙を書いた。

 けれど、エイダ―から返事はこなかった。

 王都では毎日の祝賀会やら、聖女アキを称える祭りなどが続き、忙しいのだろう。落ち着いたらきっと、連絡をくれるはず。

 そう思っているうちに、もう一年が経過していた。

 その間に聞こえてきたのは、エイダ―が剣聖の称号と、聖女の騎士に任命されたという噂だった。

 いつも親切だったエイダ―の両親が、急によそよそしくなったのもこの頃だ。

 きっと、聖女との結婚の話が出ていたのだろう。


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