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「エイダ―を知っているのですか?」

 驚いてそう尋ねると、アレクは少し複雑そうに頷いた。

「ああ、エイダ―もアキもよく知っている。明日の結婚式にも参列する予定だ。ただ、少し困ったことがあって……」

 アレクはそう言うと、本当に困ったように視線を落とした。

 その様子に、ラネは差し出がましいこととは思いつつも、こう口にしていた。

「わたしに何かお手伝いできることはありますか?」

 一瞬、縋るような目でラネを見たアレクだったが、やがて静かに首を振る。

「いや、出会ったばかりの君に、こんなことを頼むわけにはいかない。余計なことを話してしまって、すまなかった。忘れてほしい」

「……ですが」

 彼には危ないところを助けてもらったのだ。

 ランディは親切心だったのかもしれないが、急に腕を掴まれ脅されて、ラネはパニック状態になっていた。彼を振り払ってさらに奥に逃げていたら、どうなっていたかわからない。

 せめて話だけでも聞かせてほしいと繰り返し尋ねると、アレクは戸惑いながらも、詳しい話を聞かせてくれた。

「明日の結婚披露パーティに参加するために、パートナーを連れて行く必要があってね。俺は平民だし、王城で開かれるパーティなんて堅苦しいだけだ。けれど、エイダ―とアキが主役だから、参加しないわけにはいかなくてね」

 そう言って、深い溜息をつく。

「妹は絶対に嫌だと言って、ひとりで先に町に帰ってしまった。立候補してくれる女性はいるが、下手に貴族の令嬢に頼むと後が面倒だ」

 ふいにアレクは立ち上がると、ラネの足元に跪く。

「え? アレクさん?」

 驚くラネに、彼は懇願した。

「すまない。出会ったばかりの君にこんなことを頼むのは、非常識だとわかっている。だが、他に誰もいないんだ。明日、俺のパートナーを務めてくれないだろうか」

「……」

 すぐに答えることができず、ラネは口を閉ざす。

 彼は本当に困っている様子だ。

 それに、アレクは忘れてほしいと言ったのに、無理に聞き出したのは自分だ。彼にここまで言わせてしまったのだから、断ってはいけないと思う。

 だが、明日のパーティはエイダ―と聖女の結婚式なのだ。

 そこに元婚約者であるラネを連れて行けば、アレクに迷惑をかけてしまうかもしれない。

 とりあえずアレクに立ってもらい、言葉を選びながら慎重に、経緯話す。

「その、わたしにも少し事情がありまして。わたしを連れて行ったら、アレクさんに迷惑をかけてしまうかもしれません」

「事情とは?」

「……ここでお話するのは、ちょっと」

 ラネは周囲を見渡す。

 広い公園とはいえ、周囲にはたくさんの人がいる。明日結婚する剣聖と婚約していたなんて、容易に口に出すことはできなかった。

「そうか。ならば、一緒に食事でもどうだろうか。完全に個室で、防音魔法が掛けられてるところがある」

「防音魔法。そんなものが……」

 そこでなら心置きなく話すことができるだろうが、手持ちのお金が少ない身としては、外で食事をすることに躊躇いがあった。

 だが、彼にはきちんと事情を話しておきたい。

(村を出てひとりで暮らす予定だったから、少しは蓄えがあるわ。それを使うしかないわね)

 心に決めて、彼の誘いに頷いた。

「はい」

「建物はすばらしいが、店は庶民的なところだよ。安くておいしいから、期待していてくれ」

 そう言ってアレクが連れて行ってくれたのは、たしかに高級そうな造りの建物だったが、出される料理は馴染みのある料理ばかりで、値段も心配していたほど高くはなかった。

 アレクは店の主人と馴染みのようで、案内される前に個室に入っていく。

「まずは食事を楽しもうか。海を知らないのなら、海鮮料理がおすすめだ」

 たしかに、海鮮はほとんど口にしたことはない。

 彼の助言に従って、シーフードのシチューとパン。そして海鮮サラダを注文してみる。

「おいしい……」

 目を輝かせるラネに、アレクも嬉しそうに笑う。

「この店では、俺の故郷で採れた海鮮を使っているんだ」

「そうなんですね」

 噂に聞く広い海を想像してみようとしたが、小さな池しか見たことがないのでなかなか想像できない。王都の近くはあまり治安がよくなさそうだから、思い切って海辺に移住してみるのも良いかもしれない。

「それで、わたしの事情なんですが」

 食事を終えたあと、ラネはそう切り出した。


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