007
塔の中、第一層。
草原と空がどこまでも広がっていて植物の緑、大地の茶色、空の青色、雲の白色の4色で世界が構成されている。
「さて、適当に歩いていたら次の階層へ移動するポータルが見つかるのかな」
「そうですね。どういった条件なのかは分からないですが、歩いているうちに見つかりますよ。私の到達階数は5階までですが、目印とかなくて適当に歩いたら見つかりましたし」
「そうなんだ。もしかすると一定の距離を移動したら出現するとかなのかな。まぁレベル上げもあるし、ひとまず歩こうか」
穏やかな風がキョウ達を撫ぜ、その足取りはどこか軽やかだ。歩き始めて1分ほど、前方から魔物が走ってきた。小さい人形の魔物、ゴブリンだ。
「単体ですね、ささっとやりますよ」
そう言って魔術師のイリアが前に出ようとする。それを遮るようにキョウは手を伸ばした。
「今回は僕に討伐させて。攻撃がどんなものか知っておきたいから」
そう言って僕は本を片手に前に出る。
アルケミストの初期攻撃スキルは範囲毒だ。試験管が本から生えるように現れ、その中に毒の原液が入っている。それを魔物にかけるか魔物近くの地面に叩きつけて毒を散布することで継続ダメージを与えることができる。
キョウは生成された試験管をゴブリンに投げた。毒がゴブリンの目に入ったようでゴブリンが地面をのたうちまわり、しばらくして消えた。
それはあっけない初戦闘、初勝利だったがキョウは感動していた。
今まである理由で知識の詰め込みしかしてこなかったキョウにとって、実践は新鮮であったし達成感があった。
ダンジョンでこそ効率重視でかつ死ぬ可能性があったのでイリアに任せっきりだったが、塔の中では死んでも塔の外に出るだけなので遠慮はいらない。
しかし、それと同時に思うことがあった。
「うん、これからはイリアに対処してもらおうか」
「え、どうしてですか?十分倒せてますけど」
「うーん、毒で死ぬのを待つ時間がもったいないっていうのもあるし、なんか苦しむのを見てるのもちょっと……」
「確かに少し心が痛むような……」
「うんうん。まぁまだここら辺でレベリングしようとは思ってないし、もう少し先に行ったらいい場所があるから、そこで僕は働くことにするよ」
キョウが考えているレベリングポイントは5階にあり、そこまで行ければアルケミストのスキルが役に立つという情報は父から得ていた。
なのでそのポイントまでさっさと行こうと考え、イリアを先頭にキョウ達は歩き出す。
時々出てくるゴブリンをイリアがアイスタッチ一撃で沈めていく。ゴブリンは時々魔石を落とすが、この階層で落ちる魔石は基本的にクズなので拾わずに二人は先を目指す。
歩き続けていると第二階層に続くポータルを見つけた。
「これがポータルだね」
円形の赤い光が地面から伸びていた。
「そうですね。この上に乗って次の階層に行くか塔の外に出るか念じると移動しますよ」
「なるほどね。じゃあとりあえず次の階層に行こうか」
「はい。行きましょう」
二人はポータルの上に移動し、次の階層に移動した。
ー
ーー
ーーー
第二階層も第一階層と同じで草原が広がっている。
一階層で出てきたゴブリンに加え、第二階層ではコボルトが出てくる。(人形の醜い妖精。比較的弱い魔法を使う魔物を指す)
「遠距離から軽く火傷する程度の火の玉が飛んでくることがありますが、集中して受けない限りは大丈夫です」
イリアがこの階層について簡単に説明した。
「ありがとう。じゃあこの階層もさっさと飛ばそうか」
キョウとイリアは難なくこの階層も攻略していく。
出てくるコボルトやゴブリンはイリアが機敏にアイスタッチで倒していく。
苦もなくポータルについたところでイリアが疑問を含んだ声で話す。
「なんかすっごい調子が良いといいますか、こんな簡単に魔物倒せたっけかなぁ、と不思議に思ってます。
スキルを振ったことが大きいんでしょうか?」
「それだけじゃくて、やっぱり装備の影響が大きいと思うけど。
イリアの装備は流石になまくら過ぎたんだよ。宿屋でもらった装備で、しばらくは大丈夫だから性能も段違いだよ。きっとそれが一番大きい」
「装備はそうそう買えるものじゃないので、こんなに違うんですね」
イリアは自分のことは二の次で、少ないながらも稼いだお金は自分を育ててくれた孤児院に寄付していた。
そのため、冒険稼業に投資することができず、ずっと質の悪い装備でやり過ごしていた。
イリアのような貧乏冒険者は多くおり、そうなった理由は様々だが、自分に投資する余裕は無い。装備を新調でき無いから上の階層に移動すると魔物に太刀打ちできないので、低階層でその日暮らすお金を稼ぐしか無い、という現実がほとんどた。現状からの脱却のためにダメもとで上の階層に挑戦する者も現れるのだが、大半は装備を失うなど痛い目をみてやめる。
「準備は万全。何も怖がることはない。……初めて塔を登る僕がいうのもおかしいけど」
「ふふ、そうね。
ところで、今日はどこまで登る気なの?」
「うーん、行けるところまで行こっか。
一応最低限の予定階層は5階だけど、ある程度レベリングができたら登れるところまで登りたいね」
「そうね。分かったわ」
そして第三階層に二人は移動した。