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アシタの塔はキョウの糧  作者: グリドナ
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005

 キョウ達は塔に戻る途中、指輪の装備方法について検証した。

 普通に指にはめることで効果を得られることが分かったが、指輪の大きさはバラバラで指先に引っ掛けるように嵌めるものがあったり、ぶかぶかですぐ抜けてしまいそうなものもある。

 そこで、イリアの持つアイテムボックス(亜空間にアイテムを収納可能。入塔した者が利用可能)を活用することで装備可能か試してみることにした。

 実験してみると、アイテムボックスに収納するだけで指輪に付与された効果を得られることが分かった。ただし11個目の指輪の効果は得られなかった。その状態で先に収納した指輪を取り出し地面に落とすと、11個目に入れた指輪が自動で装備されることも判明した。

 実はこの方法についてキョウは父から聞かされていた。なので試行錯誤というよりは確認作業のために実施したのだった。


 指輪装備の確認が終わり、イリアが思い出したかのようにキョウに訊ねる。

 「そういえば、キョウの職業は何なの?」

 

 通常、一緒にPTを組むには一番最初に確認すべきことだったが、頼りにされたことが嬉しくてイリアはキョウに職業を聞くことを忘れていた。

 そして訊ねられたキョウは表情が固まった。遂に来たかと内心では汗が滝のように流れていた。

 というのもーー


 「えっと……偏見を持たずに聞いて欲しい」

 神妙な顔持ちになったキョウにイリアは「え、ええ」と少々戸惑いながら返事をする。

 キョウの反応にイリアは、盗賊とかいわゆる塔の攻略に向いていない職業だったりするのかな、などと考えていた。そして、役立たずどうしPT組んで前向きにやっていけばなんとかなるなる、など一瞬で覚悟を決める。


 「僕はーーアルケミストだ」

 「なーんだ、アルケミストか。ってアルケミスト?!その職業で塔に登るっていうの?!」


 イリアはアルケミストいう職業で塔攻略に挑んでいる人を知らないし、伝聞ですら聞いたことがない。

 アルケミストいう職業は日用雑貨を作ることを生業とする人が多く、冒険者をするには向いていないと世間一般的には認識されている。ポーションや細工を施した物(物理的な造形に限る。特殊な効果を物に付与するのは鍛冶師の職業に限る)を作ることに長けていて、冒険者を裏方として支援することがほとんどだ。

 また、冒険者として活動するにしても、アルケミストの攻撃手段は確立されておらず、前線では役に立たないと認識されている。かといって後衛は治癒師などのヒーラーがいれば十分であり、ポーションによる回復よりも効率がいいとされている。

 アルケミストは冒険者をするべきではない、という結論が世の中の声だ。


 「驚くのも分かる。でも聞いて欲しい」


 一呼吸置いてからキョウは話す。


 「信じられないと思うけど、アルケミストは世間一般的に言われてるほど悪くない職業なんだ。冒険者に向いていないという評価は間違いで、僕は変えたい。

  そもそも不遇な職業なんてものは無いんだ。可能なら全ての職業は塔の攻略に挑戦することができることを示したい。それが、僕の約束だから」

 「約束?」

 「うん。父さんとした約束。アルケミストが通用することはおいおい塔の攻略で示すから、それまでパーティーを組んで欲しい。ダメだった時は、見捨ててくれて構わない。それまではお願いします」


 キョウは頭を下げる。その姿を見たイリアはキョウの覚悟を受け取り、改めて一緒に行動することを決意した。キョウの真摯な態度と不遇な職業などないという考えに、イリアも共感したからだ。

 しかし、ただただ受け入れるだけなのもダメだとイリアは知っていた。孤児院で年少の面倒を見た経験上、全てを簡単に受け入れてしまうと、受け入れられた人は成長が鈍化する。それを知っていたイリアは条件をつける。


 「分かったけど一つだけ条件をつけるね」

 「条件?」

 「ええ、三ヶ月。三ヶ月以内に10階層の攻略をすることがパーティーを続ける条件よ」


 そう言った後にイリアはキョウの顔をチラリと見る。キョウの反応は無い。厳しすぎる条件だったかとイリアは少し後悔しそうになったところでキョウが答えた。


 「ありがとう!その条件でいいなら喜んで!」


 キョウは今までと打って変わって声が明るくなっていた。表情も笑顔に変わっていて、なんか心配して損した、だとか何とか呟いていたりしている。


 「じゃあさっさと塔に登りに行こう!」


 キョウはイリアの手を引き塔への道を駆け足で進んでいった。



 ー

 ーー

 ーーー



 塔の周りにはディスプレイが整然と並んでいる。各ディスプレイの左上には番号がついていて、この番号はクラン(ギルドに申請することで設立可能な団体)に付与されている順位番号と紐づく。クランメンバーが塔に入ったときに同じ番号のディスプレイに映像が表示される。また、番号が小さくなるほどディスプレイが大きいという特徴もある。塔の探索を見ることはエンターテイメントになっていて、ディスプレイの近くには多くの屋台が並んでいる。ディスプレイを見るために座席も用意されており、毎日ほとんどの座席は観戦者で埋まっており、ディスプレイ番号が小さくなるほど人が多く座席の競争力は高い。

 塔の入り口目の前には四角い時計が目立つ大きな建物が建っている。建物はギルドのもので、塔へ入る冒険者の管理など行っており、塔に入る際には申請しないといけない決まりになっている。また、ギルドでは魔石の売買も行っており、塔やダンジョンでドロップした魔石を換金する事も可能だ。

 そして塔、ディスプレイ、屋台、ギルドを囲むように街が形成されている。塔とギルドの延長上に、多くの建物を挟んで一際大きい城が塔を監視するように存在している。この城はこの街を管理している元帝国皇帝の住居だ。元皇族は滅多に表には出てこないため、どんな人なのかは知られていない。


 塔の攻略状況について、最大到達階数は47階で2つのクランが到達している。

 一つは『アイギスロード』というクランで、規格外の防御力を誇るリーダー(職業:ビショップ)を中心としたクランだ。ヒーラーであるリーダー自らが魔物のターゲットをとるその戦法は他のヒーラーでは自殺行為に等しいと言われている。100の敵に囲まれようが怯まずターゲットを取りながらアタッカーを守り回復していくその姿から要塞と呼ばれており、このクランの柱であることは間違いない。このクランの順位は1番だ。つまり今現在ナンバーワンと呼べるクランである。

 もう一つは『ランブルフィッシュ』というクランだ。アイギスロードが最強の盾を有しているとすると、このクランは最強の矛を持っている。それは高い魔力を拳に乗せ1撃で魔物を吹き飛ばしながら戦うスタイルで、1対1の対人戦闘では無敗を誇る魔人だ。バターのように魔物を物理的に削っていくその姿から、モザイクメーカーと呼ばれている。このクランの順位は3番だ。

 

 クランの順位はクラン対クランで戦うことで変動する。順位が下位のクランが勝った場合は番号の交換が行われ、上位のクランは勝つことで次回のクラン戦では自分より上位のクランと戦うことができる。クラン戦は一日3回行われていて、今日は15番と23番、124番と126番、185番と250番のクランが戦うようだ。クラン戦の日程はギルドに一週間分が張り出されれ毎日更新されている。

 クラン戦は塔の中にあるどこかの階層で行われ、開始時間に塔の入り口で待機していると自動で転送され戦闘開始となる。対人戦闘であるクラン戦は1時間の時間制限があり、全ての相手を戦闘不能にするか、戦闘不能にした相手の数がポイントとなり勝敗がつけられる。

 塔の攻略だけを目指すならクラン戦には参加しなくても問題ない。しかし、上位のクランになる程人気が出てスポンサーもつきやすくなるため名誉とお金の欲しい多くの冒険者の中にはこのクラン戦に命をかけている者もいる。また、資金が得られれば装備やアイテムも十分に揃えられるため、早く塔の攻略を目指すなら上位クランの仲間入りをしていてもいいのかもしれない。


 塔の中で死ぬことはなく、致死ダメージを受けた場合には塔の入り口に排出される。排出されたクランメンバーは5分以内にリバイブなどの蘇生魔法などを使うことで呼び戻すことが可能だ。しかし、排出された場所から移動して離れた場合は蘇生魔法をかけても戻ることができなくなる。



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