012
薄暗い室内の様子がディスプレイに映された。風前の灯火程度の明かりはどこか死神のマントに包まれているような雰囲気を感じさせる。
映像正面の奥の方には次の階層への移動ポータルが見える。
その脇に、キョウの父が立っていた。
キョウの父は撮影鬼に近づいていき、画面内にはっきりと顔が映る位置に移動して口を開いた。
「この世界に来て20年程度か。今思えば、色々あった。
昔話みたいだが、経験したことは昨日のように鮮明に覚えていることだらけだ。
死に物狂いで武器を集めたことや、予期してなかったスタンピードと出くわして美味しい思いをしたこと。
それから十数年前か。ここが帝国って呼ばれていた時代だが、俺らで無茶して色々ぶっ壊して国をまとめてしまったことも覚えている。
60階層のダンジョンボスで初見殺しを食らいそうになった時はかなり焦ったし、70階層をソロ攻略した時は感動して震えたぜ。
そっから子供を拾ったり、一人で鍛錬を積んだり……語っていたらいつまでも此処に居続けてしまいそうだから、これぐらいにしておこう。
……そうそう、最後に冒険者に助言しておこうと考えていたんだ。脳天に直接悪魔とキスさせてやるからよく聞け。
お前らこの塔の攻略がテンプレ通りの力押しでどうにかなるとでも思ってるのか?
どいつもこいつも工夫無しにタンクとヒーラーとあとは火力だ。もっと尖らせるか万能にしないと詰む時がくるぞ。まぁ現状ですら結構頭打ちで詰んでる感はあるがな。
いいかーー
バフとデバフは重要だ。
一撃の強さも重要だ。
ダメージの継続は重要だ。
何が起こっても死ぬことがない時間も重要だ。
逃げ切ることは重要だ。
立ち位置も重要だ。
情報は重要だ。
不意に反応できることも重要だ。
命が二つあることは重要だ。
時間を把握することも重要だ。
未知に挑戦することは重要だ。
運も重要だ。
そして、愛することが最も重要だ。
さてもうそろそろ終わりにしよう。
ソウイチロウ、ユエ、サイチ、リン、そしてキョウ。すまなかった。お前らには申し訳ない気持ちと感謝の気持ちしかない。
そして今日この決断に至ったことを応援してくれると嬉しい。行ってくるよ。失敗してもまた会えたらいいな」
そしてキョウの父は撮影鬼に背をむけポータルの中に入っていった。
ディスプレイに表示された次のフロアの階層は100階層。父の100階層目の攻略が始まった。