001
ジード国連邦。1つの帝国と複数の王国が併合して出来た国だ。
一つの国となった歴史には、一つの塔と、複数のダンジョンが深く関わっている。
帝国には唯一無二の塔があった。その塔は円柱の形をしておりレンガを積み重ねたような表面をしている。塔の天辺は見えず、何階まであるのか未だ判明していない。
塔の入り口は大きく開かれており、足を踏み入れた際に必ず一度視界が暗転し、次の瞬間には塔の中とは思えない景色が広がる。初めて塔に入ると草原の景色を見ることになる。塔の一階は草原フロアと呼ばれており、必ず最初に攻略するフロアだからだ。
階数ごとにテーマが決まっている。1階から10階は草原が広がっている。11階から20階はゴツゴツした岩が剥き出しの洞窟の中。21階から30階は渓谷。31階から40階は沼地。そして41階から最大到達階数の47階までは砂漠だ。
フロアには魔物が絶えず生まれ落ちているようで、倒すか逃げるかして塔を攻略していくことになる。
また、末尾が10階ごとにボスモンスターと呼ばれる他の魔物よりも強い魔物が存在し、次のフロアに上がるためにはボスモンスターを倒す必要がある。
この塔に登るメリットは三つある。
一つ目と二つ目は、お金と名誉だ。
塔の中の魔物を倒すと魔石と呼ばれる魔力を帯びた石がドロップされ、それを換金することで金儲けになる。
また、塔の中に入ると撮影鬼と呼ばれる小さな魔物が後を追ってくる。この魔物が見ている光景は塔の外に置かれたディスプレイに映し出され、多くの人が日々熱中して冒険者を見ている。
結果、攻略階層の直近にいる冒険者は有名になり、スポンサーがつき、お金と名誉が手に入る。
この塔が作り出したシステムに冒険者は群がり、あるものは有名に、あるものは金儲けのために塔に入っていく。
三つ目は、スキルが手に入ることだ。
塔に入り、魔物を倒すことでレベルが上がる。レベルが上がると自分の職業で得られるスキルを身につけることができる。例えば剣士という職業の場合は”パリィ”と呼ばれる”攻撃を弾く”スキルを身につけることができるようになる。
スキルは個人の力を大きく強化することができ、レベル上げはこの塔の中でしかできない。そのため人々はこの塔を訪れ登っていく。
そんな塔を保有していた帝国は強い兵士を育てることで領土を拡大していくことができた。
しかし、帝国はこの大陸全土を手中に収めることに失敗しジード国連邦を作ることになった。
他国と比べて圧倒的なスキルを持つ人材がいるにも関わらず世界制覇を諦め、何故新しい国を作ることになったのか。それは、塔だけでは十分な力を持つことできず、ダンジョンの力もまた重要だったからだ。
塔が帝国の持つ唯一無二の資源だというなら、王国にはダンジョンがあった。
ダンジョンは地下に広がり、中には魔物が待ち受けている。ダンジョンは最大でも30階層までしかなく、地形も変わらない。魔物が生成されるタイミングはランダムのようだが、生まれる場所は同じだ。
そんなダンジョンの特徴は二つ。
一つ目は、ダンジョンでは特殊な能力が付与された武器や防具などが手に入る。
魔石を使うことで武器や防具などに特殊な能力をエンチャントすることも可能なのだが、ダンジョンでドロップしたものにしか付与されないユニークな能力がある。
また魔石を使用したエンチャントは失敗することもあるためダンジョンでドロップさせる方が金銭面でやさしい。
二つ目は、ダンジョン内の魔物はテイムすることが可能なことだ。
塔の魔物はテイムすることができず、ダンジョン内の魔物のみテイムすることが出来る。ただし、テイマーという職業のスキルを持つことが必要である。
各王国はこの二つの力で帝国に抵抗した。
侵攻してくる帝国に対し、テイムした魔物とダンジョン内に潜り土地勘の無い帝国兵をゲリラ的に迎え撃った。
王国は自分たちの資産を守るために同盟を組み帝国に対抗し、お互い消耗するだけで決着することは無かった。
さらに帝国では塔の最大到達階数の更新が年単位で止まってしまう。それは、ダンジョンでドロップするユニークな能力が付与された装備品が必要だったからだ。
塔の最大到達階数更新が娯楽となっていた帝国民は戦争ばかりの日々に不満が溜まっていく。帝国全体の空気が淀んでいることを感じた皇帝は、王国にダンジョン利用の打診をしたが当然受け入れられるわけはなく、最終的に一つの国となることで落ち着いた。
そして元皇帝と元王国の家系は特殊な立場の国民として身分が保障され、この国を運営することに日々尽力しているーーと言われている。
連邦暦15年ーー
イリア・フィールス(職業:魔術師)は元帝国領土で生まれ育ち、現在16歳。
イリアは幼い頃に両親を亡くし、孤児院で暮らしてきた。孤児院の中ではお姉さんの役目を担い、幼い孤児の面倒を見たり、また孤児院の職員さんのお手伝いを積極的に行うなど尽力してきた。
孤児院は決して裕福ではなく日に二度の食事で暮らし、また夜は明かりを灯すことができず、親を亡くしたことを思い出した子供のすすり泣く声が響くことも少なく無い。そんな日は泣いてる子のところにイリアは潜りこみ、一緒に寝てあげていた。
イリアはこの環境をなんとか改善したかった。お腹いっぱいご飯を食べ、おもちゃを取り合うようなことのない、親がいなくても明るく暮らせるような環境にしたいと常々思っていた。
そしてイリアは15歳になった。孤児院は15歳になると出ていかなければならず、イリアも15歳になった日に惜しまれながらも孤児院を後にすることになる。泣きながら見送ってくれた孤児院の弟、妹の顔を目に焼き付け、イリアは今後も孤児院を支援していくことを決意した。
そして、イリアは塔を攻略する冒険者になることにした。
ーーそんなイリアは塔に入る直前にパーティーから追い出されようとしていた。
「やっぱり魔術師はすぐ死ぬし攻撃も支援も中途半端だからいらないって結論だな」
「い、今はそうかもしれないけどレベルが上がれば」
「確かに、レベルが上がれば前衛職なみの攻撃を見せる魔術師もいる。だが、前衛職よりも役に立つ魔術師を俺は見たことがない」
そう言われてイリアは言葉に詰まる。
「もしかすると今の最高到達点よりも上の階層に行けば、魔術師が活躍する可能性も出てくるかもしれないが、今は用無しだ」
パーティーリーダーの横に立つヒーラーが頷きながら口を開く。
「そもそも器用貧乏な職業なのだから塔の攻略には向かないんじゃ無いか?
パーティーは前衛の剣士、タンク役の重戦士、後衛のアーチャーに支援のヒーラーがいればバランスが取れているじゃ無いか。」
パーティーリーダーも肯く。
「そうだな。タンク役を2人にしてパーティーの安定感をとるチームも今は多い。
悪いがチームから抜けてもらう」
こうして、一方的に告げられたイリアはぼっち冒険者になってしまった。
冒険者になって一年。魔術師なのによく動き、よく死に、結局レベルは5止まり。私には才能がなかったのだ。
肩を落とし、下を向き深いため息を吐くイリアに運命的な出会いが訪れるのは10秒後だった。