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ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第7章 アービス小隊

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第94話 幕間(まくあい)、鎧装デクスフェロ1

後半だけですが、幕間といえば幕間、幕間ではないと言えば幕間ではないエピソードになります。何となく幕間まくあいという言葉を使いたかっただけです。昔創元で出した『銀河帝国の興亡1・2・3』で初めて幕間という言葉に出会ったことを覚えています。この時は「まくま」と読んでいました。ダハハ。


 キーンはボルタ曹長の後ろについてバラバラに行進する、新兵というより新人たちをぼんやり眺めて、小隊の発足ほっそく時のことを思い出していた。


 あのときボルタ曹長は、他部隊から問題兵を押し付けられたと言っていたが、今日配属されてきた新人たちはあの時以上の問題兵たちではないかと思い始めている。少なくとも今の古参兵たちには基礎はあった。文字通り右も左も分からないとなると、何をどうやって訓練していけばいいのかさえ見当がつかない。さすがに今まで読んだ冒険小説にも、クリスと観た芝居にもこういった状況は無かった。ここまで生きていた十数年のなかで初めてキーンは悩んだようだ。



 ボルタ曹長に先導されて行進している新人たちは、少しずつ列が間延びして行進とはいえない、だらだら歩きになるのではと思っていたのだが、不思議とそんなこともなくまとまって行進している。


 ボルタ曹長が、先頭から外れて、二列縦隊の横から新人たち一人一人に注意し始めた。かなり根気のいる仕事と思うが、少し前に詰めろとか、ちゃんと手を振るようにとか懇切丁寧こんせつていねいに注意している。




 こちらは、クリス・ソーン。


 キーンから手紙はやってくるものの、期末休暇の間、小隊の訓練で忙しいらしく、お出かけの誘いはなかった。特に何もすることがないので、キーンには内緒でキーンの小隊長姿を見てみようと思い立ち、訓練場の入り口までやってきた。むろん、ソーン家の護衛はクリスからつかず離れずクリスを見守っている。


 運のいいことに訓練場の入り口から、訓練場の中がよく見え、隅っこの方に立つキーンの姿が見えた。どういった理由だかわからないが、キーンだけ一人ぽつんと立って、どこかを見つめているようだ。キーンの視線の先をよく見ると、20人ほどの兵隊が行進している。クリスの目からしてもバラバラの行進だ。先ほど目にした槍を持って駆足していた50名ほどの兵士たちはしっかりした足取りで、ほとんど乱れもなかったが大きな違いがある。


 さらによく見るとバラバラに行進している兵隊たちはいずれも成人したばかりに見えるほど若い。一人だけ30歳くらいの人物がその周りを歩き回って注意している。あれがキーンの小隊だとすると、休みの日に遊びに行けないほど大変なのだということが理解できた。クリスは何か見てはいけないものを見てしまったような気がしてキーンに気づかれる前に訓練場を後にした。




 クリスが訓練場を後にしたころ。


 ここは、ダレン王国の王都ゴラブール旧市街中央にある王宮に隣接する禁軍駐屯地の訓練場。禁軍とは、サルダナでの近衛兵団に相当する部隊で王都の防衛を主任務に、王宮の警備、王都の治安維持を担当している。


 その訓練場の一角が高さ10メートルもある特別製の幔幕まんまくで仕切られている。幔幕まんまくの内側では、教官と思しき軍人と、革のヘルメットに肘当て、膝当てを防具として身に着け、胴着を着た8歳か9歳くらいの男児と女児がいた。男児の名まえはジョン・ロス、女児の名はジェーン・ロス。2人は男女の差はあるものの、顔つきも痩せ気味の体格も瓜二つの双生児である。


 彼らの目の前には全身鎧で覆われた体高7メートルほどの戦士像が立っている。これこそが、ダレン王国の持つ軍事アーティファクト鎧装がいそうデクスフェロ(注1)である。


 デクスフェロの見た目は白茶けた石像で、裏にまわると、腰の部分に子ども一人がようやく潜り抜けることができるほどの穴が開いている。


 その穴に地面から梯子はしごが掛けられているが、穴の大きさからいって、そこから中に入ることができるのはジョンとジェーンくらいだろう。


「いつものように順番にデクスフェロに搭乗してみよう。今日はジョンから先に搭乗だな」


「はい」


 ジョンが答えて、梯子を上ってデクスフェロ後ろに空いた穴の中に這い入った。


 その後ろ姿を姉のジェーンが見つめている。


 ジョンがデクスフェロの中に消えたところで、開いていた穴が閉じ、それまで白茶けた石像に見えたデクスフェロの表面が霜が一気に融けるように磨き上げられたはがね色で覆われ、フルフェイスのヘルメットのバイザーの奥に赤い2つの光が宿った。


「ジョン、外はちゃんと見えているか?」


『いつも通り、はっきり見えています』


 デクスフェロの内部からくぐもったジョンの声が聞こえた。デクスフェロの内部でも外部からの声は聞き取れるようだ。


「まずは両手をゆっくり動かしてみよう。それから歩いてみるぞ」


『はい』



 いま、ジョンのいるのはデクスフェロの操縦装置内。


 操縦殻と言われる球形の殻の中で体を動かすと、デクスフェロがその通り動く。操縦殻の内側には外部の状況が全周で映し出されており、操縦者は地上4メートルほどの宙に浮かんでいる感覚でデクスフェロを操作することになる。操作は操縦殻の中で操縦者が体を動かすとその通りデクスフェロが動く。操縦殻の中を足を前に出し体重をかけると操縦殻が回転することで操縦者の位置が変わることなく移動できるが、かなり狭い球の中での動きなのでデクスフェロの巨体を感覚として掴んでいないと操縦殻内で操縦者は簡単に転んでしまい、その動き通りデクスフェロも転んでしまう。


 一番大きな問題は、その球形の殻の内径が160センチほどしかないため、正確な動きをするためには身長が130センチ以下でなければならない。つまり、操縦者は子どものみに限られる。



 ジョンがデクスフェロの内部で左足を前に出して体重を移動すると、操縦殻がそれに合わせて回転し、さらに右足を前に出して体重を移動させると操縦殻も同じように回転する。もちろん両手は足の動きに合わせて前後させている。



 外部から見えるデクスフェロは、ゆっくりと左足を前に出し、それから右足を出す。両手は足の動きとは逆に右手が先に前に出され、次に左手が前に出された。


 しばらくそうやって幔幕まんまくの内側を歩いたデクスフェロは徐々に歩く速さを上げていった。


「よーし、それじゃあ駆足だ」


『はい』


 バランスを取りながら、デクスフェロが駆けだした。ドシンドシンとそれなりの音が響く。


 デクスフェロの内部からは、ジョンが痛みを堪えているような、うめき声のような声が聞こえ始めた。ジョンのその声を聞いたジェーンの顔が少し青ざめた。


 デクスフェロがしばらく駆足を続けたところで、


「ジョン、なかなか良かったぞ。ジェーンと交代だ」



 デクスフェロが最初に立っていた場所に戻ってきたところで、教官が梯子をデクスフェロの後ろにかけてやった。


 すぐにデクスフェロの後ろに穴が空き、そこからジョンが入った時のままの方向でゆっくりと出てきて梯子を伝って地面に下り立った。



 何事もなくデクスフェロの操縦を終えた弟に代わってジェーンが同じようにデクスフェロに乗り込み、専用練習場の中を行き来する訓練を開始した。


 半日だけの訓練が終わった二人は、毎日必ず飲み干すようにと渡される緑色の飲み物を最後に飲み干してその日も解放された。




注1:鎧装がいそうデクスフェロ(『第62話 ダレン王国』の注1の追加説明)

ダレン王国の有する軍事・・アーティファクト(注2)。胴体内にある球形の操縦殻の中に操縦者が乗り込み手足を動かすことで操縦するする超大型の人形戦闘兵器ぜんしんよろい。操縦殻の内径が160センチほどしかないため操縦者は身長130センチ以下の者に限られる。また身長が130センチ以下でも手足が極端に短い者はその操縦特性から操縦者に向かない。従って操縦者は若年者こどもに限られる。デクスフェロの本体は物理攻撃、魔法・魔術攻撃どちらに対しても非常に高い耐性を持つうえ自己修復機能も併せ持つ。


注2:軍事アーティファクト

単なる武器や防具といったアーティファクトではなく、それ自体で戦局を左右するような兵器。どのアーティファクトも現在の技術では製造、改造等できない。




手間暇かけて育成した操縦者が成長して数年で操縦できなくなっては大損失。という考え方もあります。

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