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第84話 アービス小隊5、少しずつ


 キーンが普段着に着替えて食堂に戻り、夕食のトレイを持ったところで、ここに座れと、みんなが集まって食事をしている場所で、真ん中に一つだけ空いていた席に座らされた。正面にはソニアがいつも通り座っていて、隣にはトーマスがいつも通り座っている。


 そこで、みんなの質問に答えながら食事をしていると、どんどんキーンを囲む寮生が増えていった。


「……、それで、まずは移動力をつけようと思って、駆足と行進でみっちり鍛えることにしたんだよ」


「少し地味なんじゃないか? キーンの強化があれば移動力はいくらでも上がると思うけど」


「上がることは上がるんだけど、素の能力に対して強化は掛け算で効いてくるから、の能力は高ければ高い方が良いんだよ」


「なるほど。さすがは、キーンくんね」


「最終的にはの状態で全ての装備を身に着けて、楽に走り回れるまで訓練するつもりなんだ」


「なるほど。そういえば、キーンは最初に、他の部隊での問題児が集められた部隊だって言ってたけど、そんなんでまともに訓練できるのかい?」


「うん。それで、去年の夏読んだ冒険小説のことを思い出してその通りのことをしたら、兵隊たちが見違えるほどになったんだよ」


 そこで、キーンは大男をパンチで黙らせたことをみんなに話した。


「小説と現実はもちろん違うとは分かってたんだけど、あれほどうまくいくとは思わなかった」


「その相手が、キーンのことをナメてたんだろうな」


「そう思う。結局のところ運が良かったってことかな。今回のことも含めて僕は常々(つねづね)自分のことは運がいいと思ってるんだ。こうしてみんなとも友達になれたしね」


「それはね、キーンくんの実力なんだよ。キーンくんはいろんなところで私たちなんかじゃ手の届かないくらいすごいけど、絶対にそのことは鼻にかけないじゃない。それにキーンくん素直だし、嘘つかないし。そういったところがみんなから好かれるのよ」


「ありがとう、ソニア。みんなもありがとう」


「ありがとうって素直に言えるところが、キーンのすごいところなんだろうな」


 食堂にいた他の寮生たちもしきりにうなずいていた。


「そういえば、キーンくんの黒玉はどうしたの?」


「僕が小隊に顔を出せるのは午後からだから、その間僕の代わりに小隊の先任下士官のボルタ曹長に預けてきた」


「いくらキーンくんの分身だと言っても、黒玉がそんなことまでできるの?」


「実は、

 いや何でもない。まあ、小隊のお守りのようなものだね」


 危うく黒玉が見聞きしたものはパトロールミニオンと同じく自分も見聞きできると説明してしまうところだった。自宅の風呂にソニアが入るとき、一緒に黒玉を連れていかせたことを危ういところで思い出せたので、黒玉を小隊に置いてきた理由の説明を寸前で思いとどまり誤魔化すことができた。


 みんなが思っているほど、キーンは素直ではないのかもしれない。



 そうした夕食が終わり、シャワーも浴びたキーンはその日も消灯前からベッドに入りすぐに眠りについた。



 翌日。


 授業中、いままでいた黒玉がいなくなったことを教官たちに聞かれたので、小隊に置いてきたと正直に答えている。


 午前中の授業を終えたキーンは、急いで食堂に行き、き込むように昼食を食べ、まだ食事中の同級生たちにことわって、ブラックビューティーのいる厩舎に走っていった。


 キーンは黒玉を通じて、小隊の午前中の訓練の様子ようすを授業と授業の合間だけ確認している。午前中の駆足と行進は昨日と比べ何も変わっていないようだった。昨日と変わったところは、昨日キーンと戦ったビッグジョンが真面目に訓練に励んでいたところだ。そこだけは進歩したようである。


 もちろん訓練の様子ようすは授業中にも気にはなったが、そこはけじめをつけて授業に集中している。



 キーンが厩舎まで駆けていくとブラックビューティーは厩務員によって馬具が整えられていたので、キーンは礼を言って飛び乗り訓練場に急いだ。



 訓練場に到着して馬立うまたてにブラックビューティーを繋ぎ、駆足中の兵隊たちを見守るボルタ曹長のところに急いだ。黒玉はもちろんボルタ曹長の頭の上に浮いている。


「小隊長殿、ご苦労さまです」


「ボルタ曹長、ご苦労さまです」


「昨日、小隊長が張り倒したビッグジョン兵曹は朝から復帰して真面目に訓練しています」


「それは良かった」


「それと、今朝けさこの連絡文書が近衛兵団本部より送れられてきました。内容は現在わがアービス小隊はこの駐屯地に間借り状態ですが、来春早々新しい宿舎が完成するそうで、他部隊は順次そちらに移動するようです。来春からわが軍自体兵員を増強するようですからその一環だと思います。この駐屯地から他部隊が移動するとここはわが小隊で専有できますな」


 一枚の紙をボルタ曹長がキーンに渡した。キーンはその紙を受け取り中身を読みながら、


「ふーん、ここを1小隊だけで使うとなるとかなり広く使えますね」


「他部隊も一度ではなく徐々に移動していくのでしょうから、専有できるのはまだまだ先でしょう。

 訓練の状況ですが、兵隊たちの駆足も行進も昨日と比べて変化はありません。まだ二日目ですからこんなところでしょう。それでも来週になれば肉のたるんでいた連中のぜい肉もだいぶ落ちてくるでしょうから、少しはそれらしくしてみせます。

 今の駆足が終わったら、昨日できなかったので、分隊長たちを小隊長殿に紹介します。昨日のビッグジョンは今のところ(・・・・・)第3分隊長です。分隊長は小隊長の権限で他の兵隊に簡単にえることができます。今日は真面目にやっていますから様子を見ますか?」


「ボルタ曹長がいいなら、このままでいいです」


「了解しました」


 キーンから見ても兵隊たちの駆けている様子は昨日きのうとそんなに差は無いように思えたが、先頭と最後尾との間隔がやや短くなったような気もする。そのことをボルタ曹長にいうと、


「後ろの連中が速くなったわけではなく先を行く連中が少し速度を落としているようですな」


「なるほど」


 これはこれで、小隊にまとまりが少し出てきたと無理やり考えることもできそうだ。



 それから1時間ほどで、兵隊たちはようやく10キロを完走したようだ。


 しばらく小休止の後、ボルタ曹長が、


「ケイジ兵曹、カービー兵曹、ビッグジョン兵曹、ウォルトン兵曹、カーター兵長」


 5人の下士官の名を呼んだ。


 5人が、荒い息をしながらも、「はい」と答えて立ち上がり、ボルタ曹長のもとにやってきた。5人はいずれも30がらみだった。


「お前たち、小隊長殿に自己紹介しろ!」


「はい、第1分隊長のケイジ兵曹です」


 ケイジ兵曹は黒髪で筋肉質、身長はキーンと同じくらいなので160くらい。兵士としてはやや小柄な女性だった。


「第2分隊長のカービー兵曹です」


 カービー兵曹は金髪で中肉中背。キーンより10センチほど背が高いので、身長は170センチちょっとだろう。


「第3分隊長のビッグジョン。昨日は申し訳ありませんでした!」


 大きな声でキーンに謝ってきたので、


「謝ることないですよ。取り決め通り、ちゃんとやってるようだし」


「ありがとうございます!」


 ビッグジョン兵曹は昨日キーンのパンチを受けたアゴにあざを作っていたが、痛そうにはしていない。


「第4分隊長のウォルトン兵曹。です」


 ウォルトン兵曹は茶髪で、身長はカービー兵曹より少し高いくらい。こちらも中肉中背と言っていいだろう。


「第5分隊長のカーター兵長です」


 最後のカーター兵長は黒髪で、ケイジ兵曹くらいかちょっと高いかくらいなので身長は165あるかないかくらいだろう。


 当たり前だが、自己紹介で趣味や出身地を述べる者はいなかった。



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