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第72話 黒玉、キーンの弟分から分身に昇格する。


 偶然ではあるがミニオンが進化して黒玉ができてしまった。キーンが裏庭で試したところ、黒玉はキーンの使う魔術は同じように使えるようだ。形はタダの球だがまさにキーンの分身のようなものである。テンダロスが生きていてこのことを知れば目をみはって驚いたことだろう。


 キーンがそうやって裏庭で黒玉についていろいろ調べていたら、日が暮れてきた。


 キーンが黒玉を連れて裏庭から台所を通ってまた居間に戻っていこうとしたら、


「キーン、もうすぐ食事の準備ができますから、先にお風呂に入ってきなさい」


 アイヴィーにそう言われたので、キーンは自室に戻って着替えを持って風呂に入った。


 もちろん湯舟には何も入っていないので、魔術でお湯を湯舟にいっぱいにして入っている。


 サッパリして、湯舟のお湯を抜いて風呂から出たキーンは服を着たところで、


「ソニアがお風呂に入るとき、湯舟が空だと可哀想だけど、僕が入っていくわけにはいかないし。そうだ、黒玉に頼めばいいか」


 食堂にまわると、もう夕食の準備が整っていて二人がキーンを待っていたので、すぐに3人で食事を始めた。


「ソニア。ソニアが風呂に入るとき黒玉を貸すから、黒玉に頼んでお湯を湯舟に入れてもらえばいいよ。お湯のシャワーも黒玉に頼めば多分大丈夫と思う」


「キーンくん、黒玉がそんなことまでできるの?」


「裏庭でいろいろ試したんだけど、黒玉は僕が使える魔術は全部使えるみたいだった」


「それじゃあ、キーンくんが二人いるようなものじゃない」


「そうみたい。見た目はちょっと違うけど、黒玉は手も使えるんだ。

 黒玉、手を2本出してくれるか?」


 黒玉の真ん中あたりの両脇から真っ黒い触手がニョロニョロと生えてきた。


「キーンくんの作るものって、見た目がちょっと。うーん、そう、変わっているわ」


「正直に禍々《まがまが》しいとかおぞましいって言ってくれていいんだよ。僕自身はそんなことは全く感じないけれど、他の人がどう見るかはなんとなくわかるから」


「ごめんなさい、でもやっぱりその手は変よ」


「黒玉、手を引っ込めてくれるか」


 すぐに黒玉は触手を引っ込めた。


「黒玉の今の手だけど、その気になれば、体中から生やすことができるんでしょ?」


「できると思うよ。やって見せようか?」


「いい。今食事中だし」


「キーン、黒玉には食事はいいんでしょうか?」


「魔術で作ったものだから、物は食べられないと思う。でも試してみようか。

 黒玉、これを食べることができるなら食べてみてくれ」


 キーンはフォークに焼いたナスビを突きさして黒玉に差し出した。


 黒玉から伸びた触手がナスビを取り囲んだかと思うと、ナスビは消えていた。


「どうやら食べることはできるみたい」


「まったくもってキーンくんの分身なのね」


 食事中もあれやこれやと黒玉をかまっていたが、食事も終わったので、


「ソニア、食事も終わったから、風呂に入ってくればいいよ。黒玉を忘れずにね」


「食後の片付けが終わったわそうするわ」


「ソニア、片付けはいいからお風呂に入ってらっしゃい」


 最初はソニアのことをアブリルさんと呼んでいたアイヴィーだが今は下の名で呼んでいるようだ。


「はい、それでは、お風呂に入ってきます」


「黒玉、ソニアについていって、ソニアの言うことを聞いて。

 ソニアは黒玉にしてもらいたいことを指示すればいいから」


「わかった。それじゃあ、黒玉、着替えを取りにいくからついてきて」


 ソニアが食堂から出ていくと、黒玉もフワフワとソニアについていった。


「キーン、本当にすごいものを作りましたね」


「偶然できたんだけど、自分でも驚いている。黒玉は僕と同じように魔力が空にならないみたいだから。

 それはそうと、僕が後片付けを手伝うよ」


「黒玉は本当にキーンの分身と言っていい物なのですね。後片付けは私一人で十分ですから、キーンは居間でくつろいでいてください」


 そうアイヴィーに言われたキーンは食堂を出て居間に入り、ソファーに座ってまた黒玉のことを考え始めた。


『黒玉にはパトロールミニオンの能力もあるはずだから、黒玉の見聞きしている物は僕も見聞きできるのかな? ちょっと確認してみたいけれど、いまちょうど黒玉はソニアとお風呂に入っているからさすがにマズいな。というより、あとでソニアが知ったら怒りだすかもしれないから、黒玉がパトロールミニオンの代わりができそうだということはソニアには内緒にしておこう』


『今まで、自分の目線でパトロールミニオンのことを考えていたせいで、パトロールミニオンを目の高さくらいで飛ばしていたけれど、よく考えたら、もっと高いところを飛ばした方が遠くまで見えるし都合がいいはずだ。昼間だと空に浮かんでいるのが遠くから目立つから問題だけど、そもそも自軍の陣地の真上で飛ばすなら、目立とうが目立つまいが関係ない。遠くまで見えればそれだけ有利だ。このまえセロト軍が北の要塞を攻めて来た時、セロト軍の一番後ろが確認できず、どれだけセロト軍が攻めてきたのか分からなかったってゲレード少佐が言ってたし、きっと役に立つ』


『黒玉のことを軍学校で教官たちに説明するとき、何て言おうか? 教官たちを強化して見せれば納得してもらえるかな?』


『せっかく黒玉が僕と同じことができるわけだから、何か二人じゃないとできないようなことがあれば面白いけどなー。いままでずーと一人でやってきたから、何も思いつけない』


 キーンがそんなことをぼんやり考えていたら、風呂から上がったソニアが黒玉を連れて居間に入ってきた。ソニアの着ている服から出ている顔や手足がほんのりピンク色になっていて十分からだが温まったようだ。


「キーンくん、黒玉にお湯を出してもらって久しぶりに温かいお湯のお風呂に入れた。気持ちよかったー。お風呂から出たあと、試しに暖かい風を吹き付けてくれないかって黒玉に頼んだら、頼んだ通りの暖かい風を黒玉が送ってくれたの。それで体も髪の毛も簡単に乾いたわ。本当に黒玉ってすごい。

 ありがとう、黒玉」


 黒玉は、その場で上下に揺れてソニアの言葉に応えたようだ。


「ねえキーンくん、黒玉のことだけど」


「なに? ソニア」


「黒玉はキーンくんが作ったわけじゃない。それなら、これから何個でも黒玉ができるのかな?」


「うーん。可能性は高いと思う。黒玉を作った時は、ほとんど何も考えずに機械的に命令記憶部分だけを持ったミニオンを重ねていっただけだったから」


「キーンくんが言ってる意味はよく分からないけど、そうなんだ。試しに作ってみてよ」


「試してみてもいいけど、どうしたの?」


「黒玉すごく便利だから、2つ目ができたら1つ私に貸してもらおうかなって思って。やっぱりだめ?」


「うまくいくようなら別に構わないよ。

 それじゃあ、ミニオン3000!」


 キーンの目の前にミニオンが現れた。そのミニオンの表面の色がだんだん黒くなっていく。


 そして、とうとう真っ黒になった。


「できた! でも何だか黒玉と違ってツヤがないなー。

 ミニオン、僕の言葉が分かるか?」


 ツヤのない真っ黒いミニオンはその場に浮かんだままゆっくり回っているだけで何も反応がない。


「あれ? やっぱりうまくいかない? うーん」


「キーンくん、ダメならいいわ。ありがとう」


「うーん。黒玉ができたのは偶然だったのかなあ」


「こんなにすごいミニオンがたくさんできたらそれこそ大変だから。それはそれでよかったかもしれないよ」


「そう言われればそうだけど、将来的には、偶然でなく自力で作り出したいな。ところで、このミニオンどうすれば消せるんだろ? 3000回も重ねちゃったから、『龍のアギト』でも無理かも。まあ、学校の武術の訓練場に持っていって浮かべておけば打ち込みのいい練習相手になりそうだけどね」





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