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ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第6章 キーンの冬期休暇

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第65話 ソニア、キーンの自宅で年を越す1


 運よく再試験ついしまぬがれたキーンは、明日から冬休みに入る。再試験ついしの可能性が濃厚だったため、キーンは今日の夕食を断っていないし、明日の朝食も頼んでいる。それとアイヴィーにいつ帰宅するのかまだ知らせていない。


 ほとんどの生徒が寮に戻って昼食を食べた後、王都に実家がある者だけでなく、実家が遠い地方の者も、馬車で4、5日あればサルダナの大抵の街には到着できるので、三々五々実家に帰っていった。その結果、その日寮で夕食をとったのはキーンとソニアだけだった。


「ソニアは、今日は実家うちに帰らないの?」


「うん、ちょっとね。そういうキーンくんはどうしたの?」


「僕の場合は、再試験ついしの可能性が高かったから、明日に備えて今日の夕食と明日の朝食は頼んでいたんだよ」


「なるほど。用意しておくことは大切だものね。それじゃあ、キーンくんは明日の朝実家に帰るの?」


「そのつもり」


「そうなんだ。さびしくなるなー」


「なに? ソニアは明日もまだ帰らないの?」


「うん。休みの間、実家に帰らず寮に泊まるつもり。年末、年始は食事が出ないから、その分はそのうち買い物に行くわ」


「実家に帰らず、休みの間寮で何をするの?」


「何もすることはないから、勉強でもしておくわ」


「もしかして、実家に帰れない理由でもあるの?」


「うーん。キーンくんだから話してもいいか。実は、私の実家、父親が再婚して母親は継母ままははなの。それで、普通の休日の一日二日なら大丈夫だけと、長期休暇だとうちに居づらいのよ。このまえ自宅うちに帰った時、今回の休暇では帰らないと言ったんだけど、何も言われなかったし」


「そうなんだ。僕の身内はアイヴィーしかいないから、その気持ちはよくは分からないけれど。

 そうだ! ソニアさえよければ食事の出ない年末年始でもうちにこないかい? いや、明日からでもうちにこないかい? ソニアはうちを知らないから案内しないといけないし」


「キーンくん、本当にいいの?」


「アイヴィーがダメと言えばダメかもしれないけれど、アイヴィーがダメと言うはずないから、大丈夫だよ。これから部屋に帰ってアイヴィーに手紙を書くから、今日中には返事が返ってくると思うよ」


「手紙を書く? それなら自宅に直接帰った方が早くない? それで、今日中に返事が返ってくるって? あれ? キーンくん何言ってるの?」


「ソニアには話したことがなかったけれど、魔術で作ったミニオンって使い魔みたいなボールに手紙を持たせて、相手先に送ることができるんだよ。そのミニオンが相手先に手紙を届けて、相手先が書いた手紙の返事を持って帰ってくるんだ。

 寮からだと自宅うちまでの往復時間で30分もかからないし、アイヴィーが手紙の返事を書くのに30分もかからないから、1時間もかからず返事が返ってくるよ」


「キーンくんだからなんでもありなのよね。もう一度聞くけど私がキーンくんのうちに本当に泊まっていいの?」


「何か問題がソニアにあるの?」


「私にはないけれど、キーンくんには彼女がいるんじゃないの?」


「彼女?」


「彼女と休みの日にデートしてるんじゃないの?」


「ああ、彼女は僕の大切な友達だけれど、それとソニアがうちに泊まることが何か関係あるの?」


「なるほどね。キーンくんだものね。その彼女がちょっと気の毒なような気がするけれどアイヴィーさんともお会いしたいし、キーンくんのおうちにお邪魔することにするわ」


「なんで、彼女が気の毒なのかはわからないけれど、それがいいよ」


「食事が終わったらすぐにアイヴィーに手紙を出すから、そうだなー、女子の階には入れないから、8時になったら、食堂にきてくれる? そこでアイヴィーの返事を教えるから」


「分かった。その間、寒いけれどシャワーにでも入っているわ」


「確かに、今の時期の水シャワーって冷たいから体全体が冷たくなりそうだね。僕の場合は自分でお湯をいくらでも魔術で作れるし、それを上からかければシャワーになるし、そもそも強化をかければ水シャワーでも平気だし。そうだ、ソニアに強化をかけてあげようか?」


「えっ! いいの?」


「寮に残っているのは僕とソニアだけのようだから、良いんじゃないかな。ただ、強化がかかると、慣れていないと普段とは少し感覚が違ってくるはずだけど、ソニアは肉体強化と速度強化は自分でかけたことがあるんだよね?」


「うん、それなら何度もある」


「なら大丈夫だと思う。今やっちゃうかな?」


「お願いします」


「それじゃあ、強化。

 一応普通の強化にしておいたから。どう? 感じは?」


 ソニアは自分の手足が6色に輝き始めたのを見つめながら、


「これが全6種の強化魔術の重ねがけの世界なのね。今なら、何でもできるような気がする。

 キーンくん、ありがとう。だけど強化魔術をシャワーが寒いから使うって発想は今までなかったわ。私も頑張って肉体強化魔術を極めようかしら」


「僕なんか出歩くときはたいてい強化してるから、夏は夏で外を歩いてもそんなに暑くはないし、汗もかかないよ」


「いつもそうしてるの?」


「大抵ね」


「何だかずるいような気がする」


「ソニアから見ると僕ってズルいのかなー? そういえば付属校でも似たようなことを言われたことがあったような」


「ごめんなさい。他人ひとの才能をズルいって言っちゃいけないものね」


「別に気にしてないから大丈夫だよ」




 その後、二人とも食事が終わったので、キーンとソニアはそれぞれ自室に戻っていった。


 キーンは約束通り、アイヴィーに明日の午前中に帰宅することと、その際ソニアを自宅に連れて帰って、冬休みの間、彼女を泊めていいか手紙を書いて、キャリーミニオンに持たせて送り出した。40分ほどでキャリーミニオンは了承したむねのアイヴィーの返事を持ち帰った。


 ソニアの方は、着替えを持ってシャワー室に行き、水シャワーを浴びたが、流れるシャワーの気持ち良さだけ伝わり全く水を冷たく感じなかったことに驚いたようだ。そのせいかいつもよりかなり長くソニアはシャワーを浴びていた。



 ソニアは時間になったので、服を着替えて食堂に行くとキーンが先にきており、


「アイヴィーから返事があったよ。お待ちしてますって。それで、明日の朝、食事が終わったら一緒にうちに行こう」


「ありがとう。そうさせてもらうわ」




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