第61話 サルダナの悪魔アイヴィー、教育的報復
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近衛の詰所から自宅に帰る途中も少しばかり緊張しつつキーンは道を急いだが、詰所から自宅への道では何も起こらなかった。
キーンは自宅前で目立つ強化10倍を解除して、
「ただいま」
「お帰りなさい。今日は少し遅かったのですね」
「実は軍学校の寮から帰る途中、賊に襲われたんだ」
「キーンは無事のようですから、撃退したということでしょうが、困りましたね。相手はタダの賊なのですか?」
「今のところは分からないけれど、一人が僕の後をついてきて、いきなり何も言わずナイフで襲ってきた。もう一人は、その男を倒した後でガードミニオンを出して人を呼んで帰ってきたら、その男のそばで倒れていた。二人とも同じような服を着ていたからおそらく二人組でタダの賊じゃなかったと思う。一応近衛の人に知らせて詰所までその二人組の賊を連れていっているから、そのうちどういった連中だか分かるんじゃないかな。詰所の近衛の人は、何か分かればここに来て、アイヴィーに知らせてくれるって言ってたよ」
「分かりました。情報が揃えば、私の方で対処できることは対処してしまいます」
「対処するって?」
「できれば大元を潰します。ダレンからの刺客の可能性が高いのでしょうが、その場合、キーンを襲った代償としてダレンの都ゴラブールで主要な建造物を破壊して、二度とキーンを襲わないよう教育します。キーンがケガをしていなかったわけですから建物の破壊だけです」
「ケガをしてたら」
「建物だけでは済ませません。
いずれにせよ長くても2日の留守ですみますから、それくらいなら庭も傷まないでしょう。問題ありません。
夕食は温め直しますから、キーンはシャワーでも浴びていてください」
「はーい」
キーンがシャワーを浴びているあいだにアイヴィーは夕食の支度を終えたようで、すぐに夕食が始まった。
「そう言えばアイヴィー、週明けから軍学校の期末試験があるんだけど、試験勉強はした方がいいのかな?」
「いい、悪いで言えばもちろん勉強した方がいいでしょうが、必要な時に必要なことを思い出し、ちゃんとした結論が出ればいいわけですから、その場しのぎ的な勉強はあまり必要ではないと思います」
「その場しのぎじゃだめなのは分かるけれど、はっきり言って、授業で先生の話はちゃんと聞いて黒板に書かれたことをノートをとる以外の勉強はしたことないし、勉強の仕方も分からないんだ。ノートも教室で書いた後、次の同じ授業まで開いたことないし」
「そうですか。キーンは授業での先生の話で分からないことは何もないのでしょう?」
「それはないな」
「学校の試験では周りの人に分からないことを聞くことはできませんし、調べることもできませんが、実生活では分からないことがあった時には、自分で調べたり人に聞いたりすればいいだけなので何も心配いりません」
「要は、僕の周りに頼りになる人がいさえすればいいってことだね。だったら軍学校の同級生がいればいいってことか」
「軍学校の同級生の数はそんなに多くはないでしょうから、それ以外にもそういった人がいればいいでしょう」
「それなら、クリスかな。クリスが将来軍に入るかどうかは分からないけどね」
キーンはそんな話をアイヴィーとしながら夕食を終え、翌日の休日はアイヴィーの手伝いなどをして早めに夕食を済ませ寮に向かった。念のため強化10倍を自分にかけている。
キーンが自宅を出た後、賊を取り調べていた近衛の詰所の責任者がアイヴィーの元を訪れた。賊の二人を尋問した結果、やはりダレンからキーン殺害のために送られた暗殺者と判明したということだった。ただ、何名ダレンから暗殺者が送られたのかは不明で、賊の話からまだ数名は王都に潜んでいる可能性があるということだった。
「分かりました。ありがとうございます」
「アービス殿については、王都内を単身では出歩かないようにしていただき、その間に軍の方で王都内に潜んでいると思われる暗殺者を見つけるよう努力します」
「分かりました。よろしくお願いします。私の方でも少し対処してみます」
「対処とは?」
「報復と教育のため、ダレンの王宮を破壊してしまおうかと思いましたが、あまりことを荒げるとこの国にも迷惑がかかりますから、今回はダレンの橋の2、3本落としてこようと思っています。その際、私の名前と今後キーンに対して何かあれば王宮を破壊する旨宣言します」
「そ、そうですか。橋を2、3本ですか。さすがはアイヴィー殿。
それでは小官は失礼させていただきます」
「ご苦労さまでした」
王都内を単身では出歩かないようにと言われたが、すでにキーンは一人で寮に向かっている。追いかけて一緒に寮まで行ってもいいが、注意を新たにしたうえ強化したキーンが暗殺者程度でどうなるわけでもないと思い直し、アイヴィーは家の戸締りをして、ダレンに向けて夕方の王都の通りを人を避けながら駆けて行った。
サルダナの王都セントラムから、ダレンの王都ゴラブールまで道なりで800キロ。街道は一応つながっており、バツーがダレンとの関所の役割を果たしている。
その街道をアイヴィーが時速60キロほどでひた走る。
ゴラブールはイスラ河の河口に開けた都市で、イスラ河を渡る橋が計3本かかっている。いずれも石でできた大橋で莫大な費用と長い年月をかけて建設されたものだ。
アイヴィーがセントラムの自宅を出て13時間半。イスラ河にかかる橋の手前にアイヴィーが立っている。橋を渡り終えた対岸は王宮のあるゴラブールの旧市街。アイヴィーが今立っているのは新市街だ。アイヴィーは旧市街側に橋を渡り終え、道の真ん中に仁王立ちになり、
「キーン・アービスの従者アイヴィー、これよりゴラブールのイスラ河にかかる全ての橋を破壊する。これは警告である。次にキーン・アービスに何かあればダレン王宮を破壊する」
行き交う人や荷馬車の御者が不思議そうに道の真ん中に立つアイヴィーを横目で見ながらその意味を考えることなく通り過ぎていく。
アイヴィーは橋の手前から一度たもとに下りて、最初の橋脚に向かいこぶしによる打撃を数回加えた。
ドーン! ドーン! ドーン!
手前の橋脚はアイヴィーの3回の打撃で崩壊し、かかっていた橋梁がずり落ちてしまった。もちろん橋の上にいた通行人や馬車ももろともに河に落ちていった。
その後、アイヴィーはそのまま河の中に入っていき、次の橋脚、そして次の橋脚と順に破壊していった。5分ほどで全ての橋脚は破壊され、橋梁は河に落ちてしまった。
河から上がったアイヴィーは次の橋に向かって走っていく。
そのころには先ほどの橋の前後で大騒ぎが起きていたが、たった一人の仕業で橋が落ちたなどと考える者はこの段階ではいなかった。
次の橋では、アイヴィーは新市街側から橋を破壊していき、最後の橋は旧市街側から橋を破壊した。
全ての橋を破壊し終わったアイヴィーは濡れた衣服と体のまま街道を走り、その日の夜には自宅に帰り着いている。なお、アイヴィーの衣服と体は20分もしないうちに乾いている。




