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ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第5章 キーンの休日

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第54話 キーン、青春する3。芝居見物


 キーンはクリスと芝居を観ようと劇場の並ぶ広場にやってきた。キーンにすれば、せっかくクリスと初めての芝居を観るわけだから、面白いものが見たいと思っていただけだが、芝居の看板を見てもどうもしっくりくるような芝居がない。


「意外と芝居を選ぶのも難しいんだね」


「そうね。きっとどれを観ても面白いと思うけれど。この前キーンは休みのあいだ図書館で冒険小説を読んでいたって言ってたじゃない。それなら、冒険ものの芝居がいいかもしれないわよ」


「そんなのあるかな?」


「あれがそうじゃない? えーと『蒼き狼テムジンと魔法のランプ』」


「何だか面白そうだね。クリスはあれでいいかい?」


「いいわよ」



 そういうことでキーンはクリスと『蒼き狼テムジンと魔法のランプ』を観ることにした。


「キーン、その強化の光はそろそろ消した方がいいわよ」


「それはそうだよね。『解除』」


「本当に便利ね」



 人が数人並んでいる料金の書かれた窓口があったので、そこでチケットを買うのだろうとキーンは考え、列の後ろにクリスと並び、順番がきたところで『二名』と言って二人分のお金を支払ってチケットを二枚貰った。


「はい、キーン、私の分」


「クリス、気にしなくていいよ」


「ダメ。そういうところはきちんとしなくてはいけない、とお母様かあさまに言われているの」


「そうなんだ。それじゃあいただいておくよ」


「それでいいの。そのかわり中に入ったら飲み物をおごってね」


「もちろん」



 劇場の中に入ると、すぐに干した果物や飲み物を売る売店があったので、


「クリス、好きなのを選んでくれるかい」


「そうね、わたしはリンゴジュースがいいわ」


「じゃあ僕もそれにしよう。

 すみません、リンゴジュースを2つください」


 小銭で支払いを済ませ木のコップに入ったジュースを二つ受け取る。後でコップは売店に戻してくださいと言われた。


「はい、クリス」


「ありがと。

 座席は空いているところだとどこでもいいはずだから、早く座りましょう」


 観客席は全部で600席くらいあり、8割がたの席が観客で埋まっていた。


 正面の舞台の手前には楽団がいるらしく、楽器の音を合わせたりしている。


 やや後ろの方で空いた席が二つ並んでいたので、そこに二人で腰を下ろしジュースを飲みながら芝居の始まるのを待っていると、明り取りの窓が閉められ場内が暗くなり、間を置かず楽団が演奏を始めた。じきに芝居が始まるのだろう。芝居の始まるのはクリスの言った通り9時半からだったようだ。


 幕が上がったとたん、いきなり異国風の男が大勢の男たちにからまれて、瀕死ひんしの重傷を負ってしまった。背景は砂漠のようで、異国風の男は盗賊団に襲われたようだ。彼がテムジンという主人公らしい。


 大怪我をしたうえ身ぐるみ剥がれたテムジンはしばらく身動きできなかったが、何とか手足を動かせるようになった。右手を動かしたところで、砂の中に半分埋まった何かを見つけた。掘り出してみるとどうやらランプらしい。


 そのランプをいろいろ触っているうちに、背景から煙が上がり、その煙の中から大男が現れた。


「われは魔神、一千年にわたりこのランプに閉じ込められていた。我を解放したそなたに礼として、三つの願いをかなえてやろう。さあ、願いを言ってみよ」


「ランプの魔神よ。私のこの傷だらけの体を元の体に戻してくれ」


「あいわかった」


 テムジンのまわりに風が吹いたたかと思うと、傷だらけになり血で赤く染まっていた体から傷がなくなった。試しにその場で飛び跳ねるテムジン。


「さあ、二つ目の願いを言って見よ」


「ランプの魔神よ、私に敵を斃す力を授けてくれ」


「あいわかった。いまはその力を意識できないだろうが、その時が来れば分かる。安心せよ。われは嘘はつかぬ。それでは最後の願いを言ってみろ」


「私を都に帰してくれ」


「そんな簡単なことでよいのか?」


「ああ、それでいい。最初の望みだけでも望外の望みだったのだ」


「わかった」


 ランプの魔神の言葉が終わったところで、砂漠の景色が書かれていた背景が下ろされ、後ろから都の通りと思われる背景が現れた。


 テムジンは周りを見回し都の通りに立っている自分に気づいた。通りには人が行き来していたが、テムジンの隣に立つランプの魔神に誰も気づかぬようだ。


「これで約束は果たした。最後に望みが思いのほか小さかったお前にこの指輪をやろう。その指輪をつけておけば少しばかり運がよくなる。そういった指輪だ。

 一言付け加えるなら、何もしなければ運はいいも悪いも関係ないが、何かをなそうと努力を重ねれば重ねるだけ運がよくなる」


 魔神の後ろから煙が上がり、最後に『……、運とはそういうものだ。ではサラバだ』という言葉を残して魔神は煙の中に消えていった。


 そこで幕が下り、しばらくして第2幕が始まった。


 キーンは食い入るように芝居を見ていたが、そこでやっと肩の力を抜いて大きく息を吹き出した。クリスは面白そうにキーンの横顔を横目で見ていた。



 幕が上がる前に渋い男の声でナレーションが入った。


『魔神にもらった指輪をめたテムジンは商売がことごとくうまくいき、やがて都でも有数の大金持ちになり、都に新たに立派な屋敷を建てた』


 そこで幕が上がった。


 新築された屋敷の2階から屋敷に面した通りをテムジンがなんとなく眺めていたら、立派な輿こしに乗った麗人れいじんが家来を引き連れ屋敷の前を通り過ぎて行った。その麗人のあまりの美しさに目を奪われたテムジンだが、そのテムジンに気づいた麗人がテムジンを見てにっこり微笑ほほえんだ。


 テムジンはその麗人に恋心を抱くことになった。聞けばその麗人はこの国の第3王女だった。いかに大金持ちとなったテムジンと言えども、王女と結ばれることなどありえない。すっかり気落ちしたテムジンは寝込むことが多くなってきた。


 ここで幕が下り、しばらくして第3幕が始まった。


 ここは王宮。隣国の王からしつこく求愛されていた第3王女。以前通りで見かけた男の人の顔が忘れられない。王女はもう一度あの人に会い、でき得ればあの人の手でこの王宮から連れ出してほしいと祈り続けていた。


 笑顔を忘れいつも暗い顔をするようになった娘を見かねた王さまが、


「武術大会での優勝者に娘をやろう。隣国の王もそれで諦めるだろう。娘がその優勝者を気に入ればめあわせるし、気に入らなければ金をやって収めてしまえばよい」


 そういうことで都に武術大会開催のお触れが出た。


 そのお触れを知ったテムジンは、武術の心得など全くなかったが武術大会に参加することにした。


 テムジンはその大会で優勝するため、都でも名高い武術教師を大金で雇い、大会の日まで必死に鍛錬を続けた。


 そして武術大会。必死の努力と幸運の積み重ねで、テムジンはとうとう王さまと第3王女の観戦する決勝戦まで勝ち上がってきた。だが、決勝戦の相手はなんとテムジンに武術を教えた武術教師だった。試合前そのことを知ったテムジンは武術教師に面会を求めた。


「テムジン、良く決勝まで登ったな。褒めてやろう。フフフフ」


「先生、どうしてあなたがここに?」


「わたしが王女に好かれるとは思えんが、それでも金一封くらいにはなると思ってな」


「なるほど、では私が先生に千金を差し上げましょう。それでどうですか?」


「テムジン、2千なら考えても良いぞ」


「では、2千」


「儂はこれから棄権する。ワハハハ」


 こうして、テムジンは武術大会で優勝してしまった。第3王女が喜んだのは言うまでもない。そして日を置かず盛大な婚礼の儀が催された。


 面白くないのは隣国の王。ついにテムジンの国に攻め入った。一応武術大会優勝者のテムジンが陣頭に立って隣国の王の軍勢を迎え撃つことになったが、王女と結ばれた後もたゆまぬ鍛錬を続けていたテムジンは、単身隣国の軍の本陣に乗り込み総大将だったその王を討ち取って大勝利を収めてしまった。それからというもの戦のたびに大活躍するテムジン。


 やがて蒼き狼と呼ばれたテムジンは、隣国を次々と斬り従えて、大王となった。というナレーションとともに幕が下りた。


「キーン、どうだった?」


「すごくよかった。もっと早く芝居を見てればよかったよ」


「おおげさね。でもわたしもおもしろかったわ。キーンは将来さっきのテムジンみたいに多くの国を切り従えて大王になるかもしれないわね」


「今のはお芝居だからいろいろうまくいってテムジンは大王になったけれど。実際はそんなに簡単じゃないと思うよ。それに僕自身そんな気は全くないもの」


「そうね。キーンには欲などなさそうだものね。だったら将来キーンは大王さまの右腕になるかもしれないわね。キーンは誰かを助ける人になりそうな気がしてきたわ」


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