第41話 キーン、夕食時に雑談する。
居残り時間でゲレード少佐の質問に答えていたら、それなりに時間が経ってしまっていた。
「アービス、今日はありがとう。実技の時間にも言ったが、軍からの依頼があればその時はよろしく頼む」
「はい」
「それでだ、アービスには悪いが、明後日の休日は寮で待機していてくれるか?」
「待機ですか?」
「いつ軍から依頼があるか分からないからな。休日の食事は前日までに、寮の賄いに頼んでおけよ」
「了解しました」
明後日が休みであること自体忘れていたキーンなので全く問題ない。ただ、待機という意味が正確に分かっているわけではなかったので、寮の部屋の中にいて、その間にクリスに手紙を書いていればいいなくらいに漠然と考えていた。
「今日はこんなところだ。アービス、帰っていいぞ」
「失礼します」
キーンは教室から荷物を持って寮に帰っていった。
寮に帰って自室に戻り、普段着に着替えたら後は食事とシャワーくらいしかすることがない。
洗濯物が溜まっていたが、基本的にキーンは汗をあまりかかないのためか臭くなっていたわけでもなかったので、待機しなければいけない休みの日にすればいいと思い、そのままにすることにした。ただ、衣類には名前を書けと言われていたことを思い出したので、布袋の中に突っ込んでいた洗濯物に魔術で名前を書いていった。
名まえを書き終わっても、まだ夕食には少し時間があったので、キーンは先にシャワーを浴びることにして、着替えとタオルを持って1階に下りて行った。
自室のある3階から階段を下りていく途中で、ソニア・アブリルに出くわした。彼女の部屋は2階にあるらしい。というか、女子の部屋は2階で男子の部屋は3階なのだとか。聞けば、2階、3階とも30室あるそうで、男女の数が少しばかり前後しても何とか収まるそうだ。もし、男子生徒なり女子生徒の数が30名を越えた場合は、空いた1号生徒の寮か、2号生徒の寮に入ることになるらしい。
「キーンくん、さっきまで居残りだったのよね」
「居残りは居残りだったんだけど、今日はゲレード少佐に強化の他に何かできることはないのかとか、そんな質問をされただけで、補習は無かったんだよ」
「そうなんだ。キーンくんもこれからシャワーなのか。そうね、私は30分くらいしたら食堂に行くから、良かったら食事時にでもその話を聞かせてよ」
「いいよ」
そう言って女子シャワー室に向かうソニアと別れたキーンは男子シャワー室の更衣室に入っていった。
更衣室で裸になり、シャワーを浴びて上がってきたところで、ちょうどトーマス・ブルマンが更衣室に入ってきた。
「よっ! キーン、元気にしてるか?」
意味のない挨拶であるが、キーンにとっては新鮮だった。
「ありがとう。元気にしてるよ」
「アハハハ。そう真面目に返事をするなよ。俺はシャワーを浴びたら食堂に行くから一緒に食べようぜ?」
「いいよ、そしたら、あと20分ほどで食堂に行けるかい?」
「何かあるのか?」
「ソニアが一緒に食事しようと言っていたから、トーマスも一緒に良いだろ?」
「俺は構わないが、ソニアが膨れないか?」
「何で?」
「いや、何でもない。それじゃあ急いでシャワーを浴びるよ、じゃあな」
キーンは体を拭いて新しい衣服に着替えて部屋に戻っていった。
しばらく時間調整をしていたが、髪の毛がまだ乾いていないようだったので、タオルでワシャワシャしようとしたところ、ふと頭に対してファイヤーアローを撃ち込んだら一気に乾きそうだと思いついた。タダ撃ち込んではケガもするし髪の毛が燃えて無くなってしまうので、強化をかけた上、ファイヤーアローの強さを100分の1にすることにした。
「強化! ファイヤーアロー100分の1」
バシッ! と音がして頭の真上ででき上ったファイヤーアローがキーンの頭に命中した。思った通りキーンの頭も髪の毛も何ともなかった。ファイヤーアローが命中した頭の尖った部分周辺の髪の毛は確かに渇いていたが、側頭部や後頭部がまだ湿っている。
「四方から撃たないと、一回じゃだめだな。面倒だけど一回ずつ撃ち込むか。ファイヤー100分の1、……」
ご丁寧に4回ファイヤーアローを自分の頭に撃ち込んだら髪の毛が全部乾いたようだ。
「体中にファイヤーアローを撃ち込めば、もうタオルはいらないかもしれないな。一回一回撃つのは面倒だから、あとで『全周』という定義を作っておこう。そうしたら一度に体が乾く。それじゃあそろそろ食堂に行くかな」
髪の毛を乾かすためにファイヤーアローを自分の頭に撃ち込むことは、一人部屋だから許される行為かもしれない。
バカなことをしていたとは何も思わず、キーンは食堂に下りて行った。
今回も途中でソニアと一緒になったので、
「トーマスも食事するって言ってたから、誘っておいたよ」
「あら、気が利いているのかいないのかわからないけど、私は良いわよ」
ソニアの返事もキーンには分からない部分があったが、ソニアも了承したということだけは分かったので、キーンはそれ以上難しいことは考えないことにした。
キーンとソニアはまだほとんど人のいない食堂に入り、二人でトレイをとって、適当な席に向かい合って座った。
「それで、ゲレード少佐の質問にはどう言って答えたの?」
向かいに座ったソニアが口に入れた肉片を飲み込んで、キーンに聞いてきた。
「えーと、思いついたことがあまりなかったんだけれど、いちおうパトロールミニオンの話と土を動かす魔術の話をしたかな」
「パトロールミニオンって? 聞いたことがない」
「ソニアも知らないんだ。少佐も知らなかったから、あまり知られてない魔術なのかな?」
そう返事をしたところで、トーマスがトレイを持ってやって来て、キーンの隣に座った。
「何? 何?」
「パトロールミニオンについて、キーンくんに聞いていたところ」
「何それ? 俺も聞きたい」
「トーマスも知らないんだ。えーとね、見せれば簡単だけどここじゃあさすがにマズいから後で見せてあげるよ。口で言うと30センチくらいの宙に浮いたボールなんだけど、大まかに指示しておけば、どこへでも飛んでいくんだ。それで、ミニオンの目にしたものや耳で聞いたものが、ミニオンを作った者に見えたり聞こえたりするんだよ」
「またスゴイ魔術を知ってるんだ。それって、偵察に使えるんだよね?」
「そういうこと。周囲に溶け込むように細工しているから、敵の本営に潜り込ませることもできるかも知れない」
「敵の作戦がわかるのか。普通の斥候じゃそんなことできないものな」
「キーンくん、あと、土を動かす話って?」
「軍が陣地を作るとき、土を大量に動かすんだって」
「まだ俺たちは習っていないけれど、陣地を作ることを、築城って言うらしいぞ」
「そうなんだ」
「トーマス、話の腰を折らないの」
「ごめん」
「それで、キーンくん、続きは?」
「目に見える範囲だったら、いくらでも土を地面から掘り出して、移すことができるって答えておいた」
「ホントなの? ってホントなのよね」
「うん」
「何だかキーンの話を聞いていると、俺たちの常識、いや、今までの軍の常識じゃ計れないな。逆に言うと、敵からするとどうにもならないんじゃないか?」
「確かにそうね。何が飛び出してくるかわからないもの。それに、キーンくんがあの大剣を持って敵に突っ込んでいったら、敵軍は簡単に総崩れになるんじゃない?」
「全くだ。キーンはまさに一人で一軍だな」
そんな話を3人でしながら夕食を食べ終え、各自、自室に帰っていった。一般の生徒は寮に帰ってちゃんと自習していたのだが、キーンには自習の習慣というか自習という言葉自体頭の中にないので、いつも時間を持て余している。
休日にはアイヴィーの待つ自宅に帰ろうと思っていたところ、明後日の休日は外出できなくなったため、消灯時間までにそのことを簡単に紙に書き、キャリーミニオンに持たせてアイヴィーの元に送ったので、今日だけはある程度の時間を潰すことができた。




