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ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第3章 王立軍学校3号生徒

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第31話 キーン、生れてはじめて馬に乗る。


 サール中尉と話しながらブラックビューティーを連れて馬場に帰ってきたら、みんなはランデル少佐を先頭に2列縦隊を組んで馬場のコースを人の早歩き程度の速さでゆっくり回っていた。


「今少佐を先頭に生徒たちがやっているのが常歩なみあしだ。速歩はやあし軽速歩けいはやあしになると今の倍くらいの速さになる」


 サール中尉が親切に教えてくれた。


「それじゃあ、アービス生徒も乗ってみるか?」


「はい」


「まず、ブラックビューティーの左肩の横に立つ」


 キーンが言われたように一歩前に出てブラックビューティーの前に立った。


「左手で手前の手綱たづなとタテガミをつかむ。遠慮せずにタテガミを掴め。そうだ」


「左足をあぶみにかけて、右足で地面を蹴る。蹴ると同時に、右手で鞍の後ろの出っ張り、後橋こうきょうをつかんで体を持ち上げる。そうだ、それでいい。

 そしたら、右手を鞍の前のふくらみ、前橋ぜんきょうへ移して体をしっかり支え右足を後ろから回して静かに鞍の真ん中、騎座きざに座る。

 右足をあぶみへかけ、最後にタテガミを放して両手で手綱をしっかり持つ」


 サール中尉の言った通り体を動かしていたら、うまく馬に乗ることができた。


「そうだ。うまいじゃないか。一度で馬に乗れない生徒もたくさんいるんだ。アービス生徒はなかなか素質があるようだ」


 キーンは生まれて初めて馬に乗ったがずいぶんと位置が高い。転げ落ちたらケガをしそうな高さだ。何かの拍子で転げ落ちた時は、転げ落ちる途中で身体強化すればいいだけなのでキーンにはそういった意味での恐怖心はない。


「まずは、常歩なみあしからだ。手綱を緩めて軽く左右の鐙をブラックビューティーの脇腹に当ててみてくれ。そうだ。それで歩き始めただろ? 止まるときは太ももを軽く締めて手綱を軽く引く。そうだ。なかなかいいぞ」


 おだてられるとすぐに嬉しくなるキーンだった。


「アービス生徒は常歩なみあしと方向転換をしっかり練習して、ブラックビューティーと息を合わせることだ。みんなはそのうち速歩はやあしの練習に移るから、アービス生徒は馬場の内側で回っていてくれ。曲がるときは手綱をその方向に軽く引く。その場で方向転換する時は、向きを変えたい方のあぶみで軽くわき腹をたたいて、手綱もその方向に軽く引けばそこで方向転換するからな。それ!」


 そう言ってサール中尉はブラックビューティーのお尻をたたいてキーンを送り出した。

 

 いまみんなが常歩なみあしで回っている馬場のコースはむき出しの土の地面だが、そのコースの内側の地面は草原くさはらだ。馬場のコースの内側に沿ってキーンを乗せたブラックビューティーが草原をゆっくりと歩いていく。


 ただ馬に乗っているだけなのだが心がうきうきしてくる。とても不思議だ。


「あっ、そうだ! いいことを思いついた。ブラックビューティーに強化の魔術をかけたらどうかな? 疲れた時なんかは喜びそうだけど。でも何かあったら困るからあとでサール中尉に聞いてからにしよう」


 そんなことを考えながらブラックビューティーに揺られていたら、コースの方では生徒たちが速歩はやあしの練習に移ったようだ。軽快なリズムでゲレード少佐を先頭にした2列縦隊が進んでいく。


 馬の数を数えたところ、52頭。生徒の数は51人ということか。午前の授業では気にしなかったので生徒数は数えていなかった。そういえば軍学校の生徒数は1学年1クラスで50名と聞いていたが、今年は1名多かったようだ。


 キーンが編入したことにより今年の3号生徒の数が例年の50名より2名多くなった。


 今年例年より1名多かったのは、入学試験の成績で同点の50位が2名いたからだそうだ。これまで、2人組で行動する場合、いつも生徒代表のソニアがあぶれる形だったそうだが、キーンが編入したことであぶれずに済むようになりソニアが喜んでいるという話をあとで聞いた。


 みんなが真剣な表情で隊列を組んで速歩はやあしの練習をしているかたわらで、キーンを乗せたブラックビューティーはのんびりと馬場の草地の上を歩いていく。すっかりキーンになついたようだ。


 1時間ほどそうやってのんびりしていたら、ゲレード少佐が、


「馬を休ませるぞ、いったん休憩。

 アービス生徒もこちらに集合!」


 ブラックビューティーがみんなの方にゆっくり向かっていく。


 そこには大きなおけが置いてあり、そこから生徒たちが各々ニンジンを二つ持って自分の乗馬に食べさせてやっていた。


「ブラックビューティー、少し急ごうか」


 そうキーンはブラックビューティーに話しかけたら確かにブラックビューティーの歩みが速くなった。


「ブラックビューティー、僕の言ってることが分かるんだ。凄いぞ!」


 ブラックビューティーは桶の近くに近寄ったのだが、キーンは馬からの降り方を聞いていなかった。とはいえ、乗った時の逆をすればいいだけなのだろうと思いやってみたらうまくいった。


 桶からキーンもニンジンを二つ取ってブラックビューティーに与えたところ、嬉しそうにムシャムシャ食べていた。キーンは馬の歯が思った以上に大きなことに驚いた。



「アービス生徒はブラックビューティーに乗っていたんだな。まだ常歩なみあしの練習だが息が合っているようで非常によろしい。休憩が終わってもその調子で頑張ってくれ」


 ゲレード少佐にも褒められてしまった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔法のことでは褒めれてもピンときてなさそうなキーンくんがここでは褒められて無邪気に喜んだり馬の歯の大きさにびっくしたりしててかわいい( *´艸`)
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