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ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第3章 王立軍学校3号生徒

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第27話 キーン、寮生活を無難に始める。


 夕食の時間を知らせる鐘が鳴ったので、キーンは鎧戸になった部屋の窓を閉めて、廊下に出た。部屋には鍵は付いていなかった。



 1階に下りて食堂に入っていくと、食堂の中には生徒と思える私服を着た男女が10人ほど席に着いて食事をしていた。


 新入りが黙って食堂の中に入っていくのも変なので、


「キーン・アービスです。みなさんよろしくお願いします」


 無難にキーンは入り口で簡単に挨拶あいさつしておいた。


 キーンに振り向いた生徒たちが、軽く会釈を返した。


 食堂の使い方はよくわからないけれど、入ってきたすぐ前の右手に配膳口があった。そこに同じ料理の乗ったトレイが置いてあったが、いま食堂のテーブルについて食事している生徒たちはその料理を食べているようなので、そのトレイを持っていき適当な席に座ればいいと思った。


 奥の方におばさんがいて仕事をしていたので、一応、


「きょう入寮したキーン・アービスです」


 と一言声をかけておいたら、そのおばさんが、配膳口までやって来て


「はーい。あなたがあの(・・)アービス生徒さん?」


「あのかどうかは分かりませんが、名まえはアービスです」


「トレイを持っていって好きなところで食べてちょうだい。頑張ってね。期待してるから」


「ありがとうございます」


 何を期待されているのかは分からなかったが、礼をいってキーンはトレイを持って、空いている席に着いた。


 食堂にいた生徒達も最初はキーンの方を見ていたが、そのうち気にせず食事を再開した。


 トレイには白いお皿の上に、牛肉のステーキと茹でたソラマメと、おなじく茹でた緑の茎野菜が付いていた。深皿にはブタの燻製肉と野菜のスープが入っていた。パンはテーブルの上の籠にこぶし大の丸パンがたくさん入っていたので、好きなだけ食べていいのだろう。



 キーンはみんなとは少し離れた席に座り一人でナイフとフォークを動かしていたら、向かいの席にだれか座ったようだ。


 キーンが見上げると、そこには栗色の髪の毛を短く切りそろえた女子が座っていた。


「こんにちは」


 相手に先に挨拶あいさつされたのであわてたキーンが、


「こんにちは。僕は今日入寮した、アービスという者です」


「知ってるわよ。あなたのことは3号生徒全員が知ってるわ」


「えっ?」


「だって、あなたはあの(・・)大賢者の義理の息子さんなんでしょ? しかも実技は圧倒的だったのにもかかわらず、成績不良で付属校を放校になったっていう」


『成績不良』の一言にグッとくるものがあったが、事実なだけに言い返せない。


「……」


「ごめんなさい。私たちの学校はね、みんなで助け合ってみんなで卒業するの。勉強で分からないことがあれば周りに相談してね。もちろん私に相談してくれてもいいわ。あっ! 言い忘れたけれど私の名前はソニア・アブリル。よろしくね。私のことはソニアと呼んでいいわよ」


「僕の名前は知ってるみたいだけど改めてキーン・アービス。こちらこそよろしく。僕のことはどう呼んでくれても構わないよ」


 ソニア・アブリルとはいい友達になれそうな気がしたキーンはなんだか嬉しくなってしまった。


 ソニアと話をしながら食事をしていたら、後から食堂に入ってきた生徒たちがだんだんとソニアの周りに食事のトレイを持って集まってきた。そういったみんなともキーンは初日から打ち解けることができた。軍学校と魔術大学付属校ではだいぶ学校の雰囲気ふんいきが異なることに気づいたが、キーンにはこちらの方が自分に合っている気がし始めている。



 食事が終わった者は食べ終わった食器を乗せたトレイを配膳口の横に返しているようだったので、食べ終わったキーンが、


「それじゃあ、ソニア、みんなも。お先に」


 キーンはそうみんなにことわって席を立ち、トレイを配膳口の横に返しておいた。そこは下膳口というらしかった。



 階段を上って3階の自室に帰ってみると、部屋の中はもう真っ暗だった。机の上に小さなランプが置いてあり、部屋天井の真ん中には大きなランプが吊り下がっていたがそれらは放っておいて、キーンは、『ライト』と心の中で唱えた。


 部屋の真ん中に白い光の球が浮かび、ランプの灯りでは決してこれほど明るくはならないほど、部屋の中を照らし出した。消灯時にはライトを消し忘れないようにしなければならないが、消灯の合図があればさすがに消し忘れることはないだろう。



 寝るには早いし何もすることもない。


 これまで自宅では、自分の魔法で作ったお湯で風呂に入っていたしシャワーも浴びていたのだが、これからの生活はほかの生徒達に合わせて水シャワーになるのだから慣れた方がいいだろうと思い立ったキーンは、


「それじゃあ、シャワーに行ってみようかな」


 などと独り言を言って、着替えとタオルを用意した。


 水シャワーはこの季節でもかなり冷たいかもしれないが、最悪、身体強化をかけてしまえば冷たさなど感じなくなる。




 着替えとタオルを持って1階まで下り、食堂とは反対側のシャワー室に向かった。当たり前だが女子と男子で別々の入り口で女子が奥で男子が手前だった。


 入り口から中に入るとそこは脱衣室で棚の上にかごが並んで置いてあり、籠の中には下着や着替えなどの衣服が入っていた。キーンも真似て空の籠の中に着替えとタオル、それに脱いだ衣服を入れておいた。


 裸になったキーンは脱衣室の先のシャワー室に入っていくと、シャワー室には10個ほど個室が並んでいて、5人ほどがシャワーを浴びていた。中には鼻歌を歌っている生徒もいたが、何を歌っているのかはわからなかった。


 キーンは開いていたシャワーの個室に入って、シャワーを浴びるために個室の脇の手押しポンプで水を上のタンクに汲み上げた。


 井戸水のシャワーは最初かなり冷たく感じたがそのうち慣れてしまい、かえって気持ちよく感じ始めた。置いてあった石鹸せっけんで体を洗い、再度シャワーで流しておしまいだ。


 シャワー室から出たところ、意外とみんな長くシャワーに入っているようで最初にシャワーを浴びていた連中はまだシャワー室にいるらしく、脱衣室にはキーン一人しかいなかった。


 タオルで体を拭いて下着を着ていると、脱衣室の扉が開いて、一人の男子が入ってきた。その男子がキーンを見て、


「おっ! きみが噂のキーン・アービスくんか。俺の名前は、トーマス・ブルマン、なりはチッこいけど元気だけは誰にも負けないぜ。よろしくな」


「ブルマンくん、こちらこそよろしく」


「ブルマンくんじゃあ締まんないから、トーマスと呼んでくれ。その代り俺もキーンと呼ぶから、良いだろ?」


「もちろん。トーマス」


「付属校に行ってたっていう話だったから、ひょろっとした男だと勝手に思っていたけれど、良い体してるじゃないか。何かして鍛えてるのかい?」


 13歳のキーンに大した筋肉が付いているわけではないが、それでも体は引き締まっている。


「鍛えてるってわけじゃないけど、大剣をいつも振り回してたかな」


「それは頼もしいな。こんど武術の時間に見せてくれよ」


「うん、いいよ」


「おっと、そろそろシャワーに入らないとな。それじゃあな」


「それじゃあ」


 今まで同い年くらいの男子の友達はいなかったキーンだったが、トーマスと話してみてとても話しやすく感じてしまった。



 自室に帰ってきたキーンはベッドを作り終え、消灯時間のかなり前だったが忘れずにライトの灯りを消してベッドに入って目を瞑りすぐに眠りについた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ソニアちゃんにトーマス。すぐにお友達が出来て良かった。 描写から寮の雰囲気の良さが伝わってきます
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