第26話 キーン、軍学校に編入し入寮する。
キーンが軍学校に編入するにあたり、編入時に必要なものの見当がつかないため、アイヴィーは確認のためにも軍学校に行こうとしたのだが、ちょうどそのころ軍学校は職員も含めた夏休み期間に入っていたため学校に入ることができなかった。
どうしようかと思っていたところ、軍学校の方から入学案内が送られて来たためアイヴィーは安心してキーンの編入準備を進めていった。案内を見たところ、始業式の日に軍学校の制服を着て着替えなどの入寮用の荷物を持って軍学校の寄宿舎に行き、翌日からの登校となるようだった。
今日は軍学校の始業式の日。キーンにとっては入寮の日。
紺色の上下の制服を着たキーンはアイヴィーと大きな荷物を持って軍学校にやってきた。軍学校の正門横には警備員の詰め所があったので用件を告げたら、いかつい警備員の人に軍学校の敷地の東側に寄宿舎があると教えてもらったので、そちらに向かった。
後で聞いたが軍学校の警備員は近衛兵団から派遣された現役の兵士たちだったそうだ。
目の前の寮は蔦の絡まるやや古びた3階建ての建物で同じ形の建物が三つ並んでいた。今年の3号生徒は一番手前の建物に入寮すると送られてきた案内に書いてあったので、その建物の玄関の中に入って案内を請うことにした。
玄関に入ると、窓口がありそこで来意を告げると中から中年の女性が現れた。おそらく寮母にあたる人なのだろう。
「キーン・アービスさんですね。お待ちしていました。こちらへどうぞ」
その女性の後について、アイヴィーともども階段を上り最上階の3階へ。
階段を上がった先には左右に廊下が続いていて、片側の廊下の突き当りの部屋がキーンの部屋だった。
「ここがアービスさんの部屋です。一人部屋ですが掃除はちゃんとお願いしますね。そうそう、洗濯場と物干しは1階の裏庭にあります。生徒たちの洗濯物がたいていは干してあるから場所は分かるでしょう。衣類には名前をちゃんと書いておいてくださいね」
キーンとアイヴィーが部屋の中に入ると部屋は結構広い。部屋の奥の窓際に少し大きな机と椅子。それに小さな本棚と箪笥とベッドがひとつずつ。部屋の中に開きっぱなしの小さな扉が一つあり、その先はクローゼットを兼ねた物置になっていた。
「寮での食事は6時と18時から。休みの日には昼食を頼むことができます。昼食は12時からになります。その時間になれば鐘が鳴ります。
食堂は先ほど上ってきた1階の階段の左横です。食事時に近くまで行けば匂いで分かるでしょう。トイレと洗面所とシャワー室は同じく1階で階段を挟んで食堂の反対側。シャワー室の中には手押しポンプが個室ごとに付いているからそれで水を汲み上げてシャワーを使ってくださいね。それと消灯は22時です。それじゃあ」
寮母さんはキーンたちに簡単な説明をして帰っていった。
「まずは荷物を取り出して整理していきましょう」とアイヴィー。
「そうだね」
明日も着る制服などが汚れると困るのでキーンは普段着に着替えて制服はクローゼット兼物置の中のハンガーにかけておいた。武術の実技用の革のガントレットと革のヘルメット、それに革のブーツ、それに背負ってきた大剣『龍のアギト』もそこに置いておいた。武術の実技では、鎧は学校の用意した革の鎧を使うということで用意していない。
雑巾やバケツも物置の中にあったので、アイヴィーがそのバケツを持って水を汲んで来ようとしたが、
「アイヴィー、水ならほら」
そう言ってキーンがバケツの中に魔術で水を入れてやった。
「ほんとにキーンはなんでもできて羨ましいわ」
アイヴィーが拭き掃除をしているあいだ、キーンは持ってきた2つの大きなカバンの中から衣類などを取り出し、クローゼットに掛けたり、タンスの中に入れていった。筆記用具などは部屋に作りつけられていた机の上に置こうとしたら、紙が1枚机の上に置いてあり、1週間、曜日ごとのカリキュラムが書いてあった。
教科は付属校と比べ相当多い。その代り授業時間が座学は1時間、実技で2時間だった。
7時半から午前4教科、昼食1時間をはさんで午後から実技1教科。各教科は10分ほど間隔があいている。この10分は休憩というより移動を含めた準備時間なのだろう。
教科は次の通り。実技については、2時限分の2時間10分が当てられている。
数学
文学
国法
国史
世界史
地理・地誌
戦史
戦術論
魔術
馬術実技
武術実技
魔術実技
ざっと見て不安な教科は魔術ただ一つだった。楽しみなのは馬術実技と武術実技。明日は午前中無難な教養科目で午後から馬術実技があるらしい。なんだか、明日が楽しみになってきた。
一通り掃除も終わり片付けも終わったところでアイヴィーが、
「私はそろそろ自宅に帰りますね」
「うん、アイヴィーありがとう」
「キーン、週末は自宅に帰ってくるんですよね?」
「そのつもり。何かあればキャリーミニオンに手紙を持たせて送るから」
「わかりました」
アイヴィーが帰っていったあとはキーンにはもう何もすることがなかったので、しばらく窓から景色を眺めていた。王都の外れにあるこの学校の周辺には農家と思える民家と畑ばかりで、軍学校の塀の向こうに見える景色も畑ばかり。その先には遠く山並みが見えたがさして見るべきものは無かった。そのうち青空に浮かぶふわふわの白い雲の流れを眺めていたらうつらうつらとしてきたので目を閉じて半分寝ていたところ、夕食の時間を知らせる鐘が鳴った。




