第246話 モーデルの遺跡にて2
鎧の巨人の攻撃方法は手足を振り回すだけなのか、何か特殊な攻撃があるか分からないが、今のところ手を振り回しているだけだ。
キーンは金剛斬を斜め横に振り上げながら近づいてくる鎧の巨人に向かって一気に詰め寄り、金剛斬を鎧の巨人の左ひざに向かって叩きつけた。
金剛斬は鎧の巨人の膝当て部分に斜め上から剣身の半ばまで食い込んだが斬り飛ばすことはできなかった。
『黄金の獅子』のヘルメットも金剛斬で断ち割ることができたので、目の前の鎧の巨人が例えデクスフェロであってもダメージを与えることができるとキーンは思っていたが、思った以上に鎧の巨人は硬かった。
キーンはすぐに金剛斬を引き抜こうとしたが、鎧の巨人が脚を動かした加減で食い込んだまま抜けなくなってしまった。金剛斬の柄を握って何とか引き抜こうとしているキーンに向けて鎧の巨人の左の拳が迫る。
「キーン!」
アイヴィーが叫ぶ。
キーンは金剛斬から両手を離し、強化によって加速された知覚の中で迫りくる鎧の巨人の拳から逃れるように、転がりながら鎧の巨人の後ろに回り込んだ。
「アイスニードル!」
背中に氷の杭が連続して撃ち込まれた鎧の巨人は、体勢を崩して前のめりに倒れ込んだ。その拍子に金剛斬が鎧の巨人の膝から外れて床に落ち、アイヴィーの近くまで滑っていった。
すかさず、アイヴィーが駆け寄り金剛斬を拾い柄を前にして床の上をキーンに向けて滑らせた。
「アイヴィー、ありがとう」
鎧の巨人は片腕しか使えないアイヴィーよりキーンを主敵と見たのか、起き上がった鎧の巨人がキーンの方に向き直った。先ほどのキーンの一撃で膝にそれなりのダメージを受けたハズだが、動きに支障はないようだ。
通路の真ん中に立つ鎧の巨人が両腕を広げると壁との隙間は1メートルほど。身体をどちらかに少し傾けるだけでそちら側は完全に塞がれる
『さっきはしまったな。金剛斬を振る時50倍で強化しておくのを忘れてた。次は忘れないぞ。今度こそ斬り飛ばしてやる』
すでにキーンが最初に飛ばしたガードミニオンは全て2体目の鎧の巨人によって壊されていたようで、2体目が迫ってくる音が聞こえている。
『ガードミニオンにミニオンの殻を被せておけばよかった。今度からミニオンの殻を被せたガードミニオンを強化ガードミニオンとして覚えておこう』
「ガードミニオン×20、各々にミニオンの殻100個!」
2体目の鎧の巨人の往く手に再度20個のガードニオンが現れ、電撃を放ち始めた。電撃自体には効果はないが、足止めにはなっているようだ。
「それじゃあ今度こそ、いくぞ!」
迫るキーンに向けて、鎧の巨人は腰を下げて腕を振るう。キーンは思い切りしゃがんで迫ってくる右拳を躱した。しゃがんだキーンの頭上を拳がかすめた瞬間飛び上がったキーンは金剛斬を振り上げ、そこで強化50を発動。戻ってくる右手首に金剛斬を振りおろした。
硬い金属音をたてて鎧の巨人の手首が斬り飛ばされ、拳が床に転がった。すぐにキーンは強化を20倍で上書きし、一歩進んで今度は鎧の巨人の左足首に向かって斜め上から金剛斬を振り抜いた。もちろん金剛斬を振る瞬間50倍強化を掛けている。
左足首を切断された鎧の巨人はバランスを崩し、通路の壁に寄りかかるように横向きに倒れてしまった。
キーンは鎧の巨人の首を狙いたかったが、鎧のネックガードが邪魔なのでヘルメットに向かって金剛斬を叩きつける。このときは20倍強化のままだったため一撃では剣身の半分ほどがヘルメットに食い込むだけで破壊できなかった。キーンは50倍強化する代わりにそのまま2撃、3撃と斬りつけた。そして4撃目で巨人の頭部が砕けてしまった。
それでも鎧の巨人はしばらく手足を動かしてもがいていたが、そのうち動かなくなってしまった。
「だいたいわかったぞ。デクスフェロよりも動きが速いといっても、大したことはなかった。これなら正面からでも問題ない」
キーンが2体目の鎧の巨人に向かっていくと、2体目の鎧の巨人は、ガードミニオンを5つほど壊したところだった。
キーンはそのまま正面から突っ込んでいき、金剛斬を振りかぶって大きくジャンプした。
「強化50!」
鎧の巨人は両腕を組んでヘルメットをガードしたが、振り下ろされたキーンの金剛斬はその両腕を斬り飛ばしヘルメットに食い込んだ。
「強化20!」
金剛斬をヘルメットから引き抜く反動を利用して鎧の巨人の肩に飛び乗ったキーンは、金剛斬を振りかぶり、
「強化50!」
一気に振り下ろした。
その一撃で鎧の巨人のヘルメットは粉々に砕け散ってしまい、鎧の巨人はゆっくりと腰砕けになってしゃがみ込み、そのまま前のめりに倒れて動かなくなってしまった。
「キーン、さすがです。もう私などより強くなったのですね」
「アイヴィーはいま片腕が使えないからだよ。僕なんかまだまだだから」
キーンは口ではそう言ったが、顔がニコニコ笑っていたのでアイヴィーにそんなふうに褒められたことが相当嬉しかったようだ。
床においていた背嚢に括り付けていた鞘に金剛斬収め、背嚢を背負ったキーンは、アイヴィーとともに通路の奥に向かって進んでいった。
15分ほど通路を進んでいくと『ライト』の光に照らされて正面に通路とは違う素材でできた扉らしきものが見えてきた。
「その扉の先です」
扉の前まで二人が進むと、扉は左右に音もなく滑った。




