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第235話 騎兵隊、夜襲4、『黄金の獅子』と再戦2


 キーンは『黄金の獅子』に仕掛けるまでにエルシン軍に鹵獲ろかくされた変性武器をできるだけ回収しようとしたが、サーベルを1本回収しただけにとどまった。


『見当たらないものは仕方ない。

 次は『黄金の獅子』に仕掛ける!

 全周コーン!』


『黄金の獅子』の周りを64個の円錐コーンが取り囲む。『狂戦士』をたおした時のミニオンの殻は半径1メートルほどだったが、円錐の位置は『黄金の獅子』を中心に半径2メートルほどの球の上に並ぶ感じで出現しており、大型ハンマーを振るうにしても一歩踏み込む必要があるので、短時間で破壊できる数に限りがある。



『黄金の獅子』は自分を囲む銀色の円錐を手にした大型ハンマーでぎ払う。一振りするごとに8個から10個の円錐が破壊されて消えるのだが、同じ場所にすぐに現れてきりがない。


『全周ファーヤーボール100』


 2秒ほどの間に『黄金の獅子』は目にもとまらぬ速さでハンマーが振るったが、そこでいきなり周囲が爆発し衝撃波と青白い熱線と熱風が『黄金の獅子』を襲った。



 光が収まったとき円錐コーンは約半数が残っていたが半数は消えていた。その中心に『黄金の獅子』がハンマーを構えたまま身動きせずたたずんでいる。


 金色のヘルメットも鎧も傷んでいる様子はない。周囲は大爆発の影響で『黄金の獅子』を中心に半径50メートルほどの者は爆発による熱線と衝撃波で即死し、100メートル以内にいた者は爆風で薙ぎ払われて、あらぬ体勢で地面に転がっている。『黄金の獅子』の足元も半径3メートルほどに渡って丸くえぐれ一部赤く溶融していた。



『黄金の獅子』に動きはないが、ダメージを受けているのかどうかはっきりしない。


 キーンはキーンで必死である。


『もう一度、全周コーン!

 そして全周ファーヤーボール100』


 今回は、爆発の光が収まった時全ての円錐は健在だった。完全な形で64個のファイヤーボールの威力が『黄金の獅子』に向かったはずだが、依然『黄金の獅子』が同じ姿勢で立っている。


『やったのか?』


 そうキーンがつぶやいた矢先『黄金の獅子』が自分を囲む銀色のコーンをハンマーで薙ぎ払い始めた。


『ダメだ! まるで効いていない。これ以上は無駄だみたいだ。今日はここまでにしよう』




 この日の騎兵隊の指揮を執ったのは騎兵連隊第2中隊長だったが、右手の夜空が下の方からいきなり青白い光で照らされたかと思ったら、バカでかい爆発音が2回連続して轟いた。


「アービス少佐が仕掛けたのか。あの爆発ならさすがの『黄金の獅子』もくたばったろう。今の爆発で野営地の連中もたたき起こされたはずだ。そろそろ離脱するとしよう。

 全隊離脱するぞ、後に続け!」


 第2中隊長が馬首を左に向け、騎兵隊は左に大きく旋回しながら来た道に戻っていった。



『黄金の獅子』撃破に見切りをつけたキーンは、毛布から起き上がり、首尾を報告するため騎兵連隊本部幕舎に向かった。


 騎兵たちが毛布の上で横になって休んでいる合間を縫って騎兵隊の本部幕舎に着いたが、幕舎の前には歩哨も何もいなかったので、


「アービス少佐です。入ります」といって中に入っていった。


「アービス少佐、どうした?」


 本部幕舎の中では、ランデル少佐一人が椅子に座っていたようで、キーンが入っていくと立ち上がって迎えてくれた。


「つい先ほど、騎兵隊の襲撃に合わせて『黄金の獅子』に仕掛けたんですが、ダメでした。魔術に対して絶対耐性のようなものを持っているようです。

 仕掛けた攻撃の余波で周囲が広範囲に吹き飛んだので、エルシン軍を叩き起こすことだけはできたと思います」


「そうか。それほど固いのか」


「はい。ダメージが入ったようには全く見えませんでした。

 あと、騎兵隊の方は私の攻撃でエルシン軍の野営地が起きだしたのを見届けた後、問題なく撤収しています」


「報告ご苦労。アービスの魔術が本当に効かないとなると厄介だな」


「申し訳ありません」


「アービス少佐が謝ることではない。夜が明けたら、このことはローエン将軍に伝えておく。朝まであまり時間はないがゆっくり休んでくれ。報告ご苦労」


「それと、変性武器は1本だけ見つけたので回収しました。もうしばらくすればミニオンがここに届けます」


「見当たらなかったものは仕方がない」


「それでは、失礼します」


 キーンがランデル大佐に報告を終えて30分後にミニオンが変性武器を騎兵隊の幕舎に届け、2時間後に、夜襲部隊は野営地に帰還している。




 キーンは騎兵連隊の本部幕舎を辞して大隊の野営地に戻り、自分の毛布に横になり目を閉じて今日のことを考え始めた。


 結論として『黄金の獅子』には魔術が効かない以上、遠距離攻撃はできない。『黄金の獅子』をたおしたいなら、勝つか負けるか出たとこ勝負だが、金剛斬バジュラスラッシャーでの一騎打ちをするしかない。このとき、キーンは出撃前にクリスに送った手紙の返事に書かれていた『ムチャはしないで』という言葉はすっかり忘れていた。



――金剛斬バジュラスラッシャーで挑んだとして、『黄金の獅子』のあのスピードとについていけるか?


――『黄金の獅子』に力負けしないか?


――いまの20倍の強化だとやはり不安だ。冒険ではあるけれど50倍まで強化してみるか。50倍の強化も慣れれば違和感もおさまるはずだ。朝になれば大隊は新隊列の訓練をするけど、僕は僕で50倍強化に体を慣らそう。



 夜が明け、兵隊たちが準備した朝食をとったキーンは、大隊の訓練をボルタ兵曹長と中隊長たちに任せて自分は50倍の強化をかけて金剛斬バジュラスラッシャーでの基本の素振りを繰り返していた。


「いくら金剛斬バジュラスラッシャーを振っても違和感が全然取れない。

 困ったな。50倍の強化だと20倍の時よりも明らかに動きに無駄もあるし、反応が鈍くなっている。一度に50倍ではなく少しずつ強化の強さを変えて体を慣らしていこう」



 キーンが大剣を振り回しているあいだ、大隊の兵隊たちの新たな隊列訓練を行っている。1000名の黒槍部隊が3列横隊で整然と槍を構えて50メートルほど前進し、最前列がいったん止まり、第2列、第3列が追い抜いて新たな最前列と第2列になる。これを延々繰り返しているが、隊列の乱れは全くない。


 ローエン軍の兵士たちは作業の手を止めて、防具の色が暗く、真っ黒い長槍を構えて一糸乱れず前進していくアービス大隊の訓練を眺めている。


「あれが、たった1000人でダレン軍5万を蹴散らしたという。サルダナの黒槍部隊か。確かにすごい。味方でよかったぜ」


 最後の一言に多くのローエン軍兵士たちがうなずいていた。



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