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第224話 騎兵隊、夜襲2


 襲撃部隊の隊長を務めたサール大尉は、エルシンの野営地からの撤退後、襲撃前に小休止した場所で一度部隊を纏め、未集結の騎兵を待った。しばらくしてあるじを失った軍馬が2頭だけ戻ってきた。


 1時間ほどその場所で待ったが、そこで諦め騎兵連隊の野営地に戻っていった。騎兵連隊で初めての犠牲を出したことになる。



 東方軍の野営地に戻り、騎兵連隊の本部幕舎におもむいたサール大尉は、夜襲の戦果と被害を幕舎で仮眠をとりながら襲撃部隊の帰りを待っていたランデル大佐に報告した。


「ランデル大佐、申し訳ありません」


「われわれは戦争をしている。犠牲はいつか出る。それが今回だっただけだ。

 サール大尉の言う黄金の戦士が気になる。話からすれば、狂戦士どころではない。うわさの『黄金の獅子』の可能性が高い」


「『黄金の獅子』は3人とも東部でソムネアとやり合っていたのでは?」


「少なくとも一人は、こっちに来ていたということなのだろう。未帰還の15名には悪いが、犠牲が15名で済んだともいえる。今夜の襲撃も予定通り行いたいが、犠牲は出したくない。何かいい手はないか?」


「あくまで、ギレアにいる『黄金の獅子』が1人だけであると仮定してですが、陽動部隊で『黄金の獅子』をおびき出し、そのまま陽動部隊は襲撃せず逃走し、反対側から敵野営地を襲撃してはどうでしょう?」


「無傷で陽動部隊が逃走できればいいが、『黄金の獅子』は速さでも20倍に強化した軍馬並なのだろう?」


「『黄金の獅子』が全力で走っているところは見ていませんが、一瞬の動きだけでも相当なものでした。それでも障害のない直線なら引き離すことは可能と思います。ただ方向を変えたりしてもたつけば餌食えじきになる可能性はあります」


「野営地内のどこに黄金の獅子がいるのか分からないし、襲撃といっても相手を寝かさなければいいだけだ。野営地への突入は諦め野営地の周りを駆け巡って黄金の獅子らしきものが現れたらバラバラに逃走するか? 四方八方に逃走しても、あらかじめ決めた集合場所に集合すればいいだけだし最悪ここに戻ってこれるしな。われわれが脅しだけで襲撃しないことに敵が気付けばあまり意味はないが、2、3回なら問題ないだろう。

 よしわかった。今夜の襲撃には私が出よう。あとアービス少佐に連絡を入れた方がいいから、紙の上に黄金の獅子らしきものにより騎兵を失ったと書いて黒玉に見せておけばそのうちアービス少佐が気付くだろう」



 夜が明けたところで、サール大尉は大き目の紙に『昨夜エルシン軍に対し襲撃を敢行するも、黄金の獅子らしきものにより騎兵を失う』と書きその上に黒玉を漂わせておいた。


 ランデル大佐の方は東方軍本営に赴き東方軍総大将のボーア大将に昨夜の襲撃の顛末てんまつと今夜の襲撃方法について報告をしている。


「『黄金の獅子』か。

 狂戦士だけなら十分打つ手はあったと思うが、やっかいだな。今回われわれはローエン軍とともにボスニオンで敵を待ち受ける予定だが、どう対処するかはボーゲン将軍の判断次第だ。それとは別にアービス少佐をボスニオンに呼びよせることも考えた方がいいかもしれない」


「アービス少佐だけでなく、今からでもアービス大隊を呼んではどうでしょうか? アービス大隊なら1日50キロの移動も可能でしょうから東方軍われわれがボスニオンに到着する前に合流できると思います」


「うーむ。確かにな。アービス大隊の投入については軍総長に判断していただこう。

 王都に伝令を出してくれるか?」


「はい」


 東方軍本営は、先行するローエン軍に向け『黄金の獅子らしき者が最低でも一人、エルシン軍に存在する』と、騎兵伝令を送った。同時に、セントラムのサルダナ軍本営に『黄金の獅子らしき者が最低でも一人エルシン軍に存在することを確認したため、アービス少佐以下アービス大隊の派遣が望まれるが、派遣の判断は軍総長にお任せする』と、騎兵伝令を送っている。





 キーンたち1号生徒は演習旅行を終え、軍学校も通常授業に戻った。


 昨夜の騎兵隊の襲撃時にはキーンは寝ていたため、黒玉を通じて騎兵隊による夜襲を見てはいない。朝の支度したくが終わり、朝食前に黒玉を通して、サール大尉が紙に書いた文面に気づいた。


「20倍に強化された騎兵が討ち取られたのか。『黄金の獅子』、狂戦士などよりはるかに強力な超戦士というのは事実だったんだな。わざわざ黒玉を通じて僕に知らせたということは、騎兵隊では打つ手がないということだろう。黒玉で何かできることはないか? 僕自身で一度『黄金の獅子』を見てみないと分からないから、パトロールミニオンを黒玉から飛ばして『黄金の獅子』がどんなものなのか探ってやろう」


 キーンは黒玉を通じて、文面の書かれた紙の最後に『パトロールミニオンを飛ばし、こちらでも確認します。キーン・アービス』と書き込んでおいた。



 サール大尉は自分の書いた紙の最後に、キーンからの返事が現れたので安心していたら、紙の上に浮かぶ黒玉の前に10個ほどのミニオンが現れて、それが南に向かって飛んで行った。


――アービスが動いてくれるなら、まだ打つ手があるかもしれない。


 サール大尉は、キーンから自分でも確認するとの返事があったことと、直後に黒玉からパトロールミニオンが10個ほど南の空に向けて飛んで行ったことをランデル大佐に報告した。




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