第221話 焼肉と燻製2
キーンは先ほど作った燻製製造器の下にまだ緑の葉っぱを入れ、エアカッターで適当に切断した生木の薪を入れて燃料の準備を終えた。
「こんなところだけどどうかな?」
分隊のみんなに見せたところ、
「いいんじゃない」
「一応肉は塩水で洗ったけど、まだ乾いてないわ。乾いてなくてもいいかな?」
「どうせ煙で燻せば乾くから、濡れたままでもいいんじゃないかな」
「そうよね。それじゃあ、どんどん乗っけていくね」
売り物を作るわけでもないので、かなりいい加減である。
みんなで手分けしてイノシシの肉を串の上に乗っけ、1段が終われば次の1段という感じで、結局、燻製製造器は追加で3段、合計5段となった。
「トーマスたちからもらったヘビの肉はどうする?」
「生じゃ食べられないし、食べやすそうな大きさに適当に切って全部燻製にしちゃおうよ」
そういうことで、もう1段燻製製造器追加され、妙に白いヘビの肉がその上に並べられて、都合6段となった。その上にタライ型の蓋を乗せて、
「それじゃあ火をつけるよ」
キーンが底の方でファイヤーを発動し下の方に入れられていた葉っぱに火を着けようとした。葉っぱは緑の生だったので、ファイヤーの火が当たっているところだけは燃えるがなかなか火が着かない。仕方ないのでキーンは少しずつファイヤーを強めていったところ、何とか葉っぱの上に並べた生木もくすぶり始め燻製製造器の隙間からも白い煙が立ち上り始めた。
放っておけば火が消えてしまいそうなのでしばらくそのまま下からファイヤーであぶっていたら、そのうち中の燃料がある程度乾いたのか、ちゃんと火が着いたようで、ファイヤーを止めても燃料はくすぶり続けた。
火の勢いを調節するためキーンが気を利かせて燻製製造器の下に空けた穴はあまり役には立たなかったようだ。
「なんだか、煙の臭いが燻製っぽくないけど、こんなものなのかな?」
生木に火を着けたわけなので、煙の臭いも少し違うのかもしれないが、今さらどうすることもできない。
「さあ。わたしもちょっと違うような気もするけど、ちょっとだけよ。なんであれ煙で燻せば燻製よ。燻製は燻製だから」
「そうだよね」
何だかわからない気休めの言葉だが、気は楽になった。
「これって、何時間くらい燻すのかしら?」
「下の焚火が燃えてしまって、冷めたら出来上がりじゃないかな。それまで放っておこう」
そのうち下からの熱い煙でイノシシの脂がしたたり落ち始めたようで、連続的に下の方でジューと火に脂に落ちる音が聞こえてきた。
燻製製造も順調に始まり、日が暮れた頃には第1分隊だけでなく、その他の分隊でも肉が焼けたようだ。
各分隊はそれぞれの焚火の周りに車座になって肉をほおばっている。各人木製のフォークは持参しているが皿などは大き目の木の葉で代用している。
「一番うまいのは、実は肝臓なんだ」
そう言って、焚火の周りに車座になって座る第1分隊の生徒たちと一緒に座ったゲレード少佐が、大皿代わりの大きな葉っぱの上に盛られたスライスしただけの生の肝臓を自分の小皿代わりの葉っぱの上に何枚か移して、その小皿の上に一つまみ乗っけた塩に軽くつけておいしそうに食べた。
「お前たちも肝臓を食べた方がいいぞ。生で食べられるのは新鮮な肝臓だけだからな」
そう言いながらゲレード少佐はまた肝臓をひとつまみして、口に運ぶ。
キーンたちも恐る恐る生の肝臓に手を伸ばす。
各々、口に入れて、
「あれ? 甘い?」
「おいしい」
「不思議な味」
生徒たちにも好評だった。
「これが軍学校の宿舎なら、酒もあったのだが残念だ」
そう言いながら、ゲレード少佐はまた一つまみしていた。
……。
「13人であの肉は量があったな」と腹をさすりながらのゲレード少佐。今回焼いた肉と肝臓を何とか食べきった面々は、座ったまま全員満腹で腹をさすっている。見上げると森の木々の葉っぱの間から星空が見える。
「そろそろ、燻製はいいかな?」
燻製製造器の薪も燃え尽きたようで煙は漏れていない。
「そろそろ寝る準備をしなくちゃいけないから、先に様子を見ましょう」
一番上のオケをさかさまにした蓋を外して燻製の出来上がりを見たところ、最上段のヘビの肉はいい具合に茶色っぽい色がついていた。
匂いを嗅ぐと、
「なんていうか、青臭い? あまりいい匂いじゃないかも?」
ヘビの燻製を手に持って少し裂いてみたところ火はちゃんと中まで通っているようだ。
「食べられればいいのよ。中まで火は通ってるようだからこれで十分よ」
その下のイノシシの肉はもう少し色が濃い。残念ながらヘビの肉と匂いは同じだ。それに脂が落ちてしまってだいぶ小さくなってしまった。
「ヘビの肉はあまり小さくなっていないけど、イノシシは小さくなったね」
「ヘビは脂身が少なかったのよ」
「お腹いっぱいだから食べられないけど、見た目だけは美味しそうね。明日の朝、各分隊で分けてしまいましょう。それまではこのままでいいんじゃない」
「そうだね。食べてみないとはっきりとはわからないけれど、デキちゃったものはデキちゃったものだしね」
燻製の出来具合を確認した後、各自、焚火を中心に足を焚火に向けて毛布を下に敷いて上からマントをかけて横になった。各分隊で2名ずつ3時間交代で焚火の番と歩哨が立つことになる。
今の時間は午後9時ごろなので明日の朝まで3組が歩哨に立つことになる。この日キーンは歩哨に立たなくても良かった。
その日の夜は全員キーンが1倍で強化していたため、教官たちも含めほとんどの者が地面に敷いた毛布の上で横になって夜が明けるまで木々の間から見える夜空を見上げていた。
翌朝。
キーンからのキャリーミニオンによる連絡によっていち早くセロトの侵入を知った軍総長の副官は軍総長にそのことを取り急ぎ報告した。
「アービス少佐がアズレア山地に掘られた隧道から侵入したセロト軍を発見して、しかも撃退というか、捕虜にとってしまったか。
クジー要塞をセロトに渡してしまうと、要塞に大軍がこもってしまえば、裏側から攻めても簡単には奪還できないし、セロトからはいくらでも兵は補充される。
運が良かったが、これがエルシンの動きと連動したものでなければいいのだがな。
クジー要塞から第2兵団本営に連絡はいっているだろうが、軍本営も認識していること伝えるため、第2兵団に対し北への警戒を強めるよう指示を出しておこう」
軍総長の指示に従い、軍本営から、第2兵団本営に対して伝令が送られた。




