第212話 アリマ攻略戦5
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明るい日の光の中でも明るく光る騎兵隊による城塞の周回動作に動転したルクシオン軍のアリマ守備隊は、サルダナ軍の目論見通り直ちに城塞の4つの門を閉ざしてしまった。
攻略部隊本隊がアリマへ到着するまで、引き続き騎兵連隊はアリマ城塞の周囲を周回しながら目に付いた荷馬車や人物を捕らえていき、荷物を没収した上で『早急に開城し降伏するよう』書いた紙を持たせてアリマ城塞に向かわせている。城塞の門は開かなかったが、外壁の上から長梯子が下ろされたので、それを登って民間人たちは城塞内に入っていった。中に入れば密偵の可能性を疑われて守備隊から本人の素性など厳しく追及されるだろうが、サルダナ軍の意向は正確に伝わったはずである。
本隊は午後4時前にアリマ城塞前に到着し、各門を2000名の兵士で封鎖していった。全力で1つの門から突破を図られると到着間もなく陣地もまだでき上っていない封鎖部隊の犠牲が大きくなるので、そういった場合に騎兵隊がすぐ駆けつけられるよう騎兵連隊は各門を封鎖する部隊に数騎の伝令をつけて休息に入っている。
サルダナ軍、特に騎兵連隊はアリマ周辺をパトロールしている関係で、この日以降も、アリマに近づいて来る荷馬車や人を捕らえ、荷物を没収した上、アリマにそのまま向かわせた。
おそらく捕まえた上で解放した人たちの中には、ルクシオンの密偵も含まれており、救援部隊到着まで守り抜くよう守備隊に対して指示を伝える者もいただろうが、救援部隊が近づいてくれば撃退するつもりであるため、かまわずアリマに向けて解放している。
アリマの包囲封鎖が始まり10日ほど経過した。
アリマ城塞内はひっそりしている。内部から打って出て脱出しようというような積極的動きはなく、エルシオンからの援軍をじっと待っている状態である。
3週間を過ぎてサルダナ軍を簡単に蹴散らすだけの援軍が到着しなければ、アリマ内の食料が底をつくと考えられる1カ月以内の開放は期待できないので、守備隊がサルダナ軍に降伏する可能性は一気に高まる。
現在最も遠い位置まで進出しているサルダナ軍の騎兵斥候は、アリマとルクシオンの中間にあたり、アリマから100キロほど南まで進出している。サルダナの光の騎兵隊の接近を知ったアリマからの急使が王都ルクシオンに到着し、ルクシオン軍が間を置かず出陣したのなら救援部隊はアリマへ半ば近くまで進んでいると予想される。今日明日中に発見できてもおかしくない。
そして、とうとうその日、騎兵斥候が街道を北上中のルクシオン軍を発見した。
斥候行動中の騎兵斥候は通常3騎で行動を共にしている。ルクシオン軍を発見した騎兵斥候は素早くルクシオン軍の規模を見積り、1騎がルクシオン軍発見の報を騎兵連隊の本営に届けるためアリマ南面の野営地に駆けて行った。残りの2騎はそのままルクシオン軍の観察を続ける。
「連隊長殿、北進中のルクシオン軍を発見しました。距離はアリマから100キロ南の街道上。兵数は約2万。構成は歩兵1万8千に弓兵2千といったところです」
「ご苦労。今の情報を攻略軍本営にも知らせてくれ。
それと、連隊本隊は今夜半、ルクシオン軍に全力夜襲をかける。それも伝えておいてくれ」
「了解!」
その日の夕方。アリマの南方、80キロ地点でルクシオン軍が北進を停止し野営準備に入ったと騎兵斥候から騎兵連隊本営に連絡が入った。
80キロの距離なら、2時間程度で到着できる。
襲撃は午前0時前後を予定しているため、夕食後連隊員たちには眠れなくても午後9時半まで仮眠をとらせ、出撃準備が整い次第出撃することとした。
今回の出撃では斥候や連絡要員を除いた騎兵連隊全力での出撃になるため、敵の本営を蹂躙したうえ、できる限り打撃を与えて撃破してしまおうというランデル大佐の腹積もりである。以前合同訓練した時のようにアービス大隊の1000名が騎兵突撃の後に追随してくれれば敵陣を縦断するだけで、敵を簡単に撃破できると思うが、いないものは仕方ないので、自分の騎兵連隊だけで全力で当たり、敵を撃破するまで複数回襲撃を繰り返すこととした。
アリマ守備隊が降伏時に捕虜になることを嫌い、封鎖の突破を計れば、騎兵連隊が不在時だと相手をすれば厳しいことになるが、突破したとして、放っておけばそのままアリマ城塞を占領できるので問題はないし、状況は連絡の騎兵が騎兵連隊本隊に連絡するので、いずれ騎兵連隊が補足し撃破できると考えられる。
夕食が終わり、出撃準備予定時刻となった。連隊本営の幕舎内の椅子に座り、じっと目を閉じていたランデル大佐が、騎兵連隊野営地の各所で総員起こしの声がかかる中、目を開け、机の上に置いてあった防具を身に着けて出撃準備を始めた。
準備の終わったランデル大佐が本営幕舎を出たところに、サール大尉が自分の馬と一緒にランデル大佐の馬を引いてきた。
「すまんな」
「いえいえ。何か出撃前に騎兵たちに一言ありますか?」
「そうだな。一言言っておくか」
そう言って愛馬に乗ったランデル大佐は、騎兵たちが整列するのを待って、
「今夜の襲撃は、通り一遍の襲撃ではなく、敵を撃破することが目的だ。いいな!」
「「はい!」」
他の部隊から一応は離れた場所で野営中の騎兵連隊だが、真夜中にあまり大きな声を出すと、味方部隊に迷惑なため、押し殺した声での返事だった。
「騎兵連隊出撃!」
ランデル大佐を先頭に2列縦隊の駈歩で騎馬は第1中隊から順に野営地を発し、整然と南に向けて走り去っていった。騎兵の騎乗する軍馬は馬具で隠れた部分以外から強化の光を発しているため、光が流れているように見える。
2時間弱街道を駈歩で南下した騎兵連隊は、前方の街道沿いの平地で横に広がって野営するルクシオン軍を認めた。かがり火が焚かれ、ところどころに幕舎が建っている。
途中合流した斥候からの報告では、野営陣地後方の一際大きな幕舎がルクシオン軍の本営幕舎らしいとのことだった。幕舎の数自体それほど多くはないので、全ての幕舎に火をかけることも手間ではない。騎上より手にした武器で幕舎近くのかがり火を幕舎に向けて払ってやれば、簡単に火をつけることができそうだ。
「中隊ごとに楔型突撃隊形をつくり、第1中隊を中心に、第4、第2、第1、第3、第5中隊の順に横列を作り襲撃する。各隊整列!」
ランデル大佐の指示で各中隊が整列していく。
各隊が整列し終わったところを確認したランデル大佐は、
「連隊、駈歩!」
騎兵連隊が襲撃を開始したころには、北方に広がる強化の光を認めたルクシオン軍の見張りが敵襲を告げて回っており、野営地の中は騒然とし始めていた。
キーンに強化してもらった黒いサーベルを引き抜いたランデル大佐の「連隊、突撃!」の声で、駈歩から襲歩に移った各中隊はさらに速度を増して、兵隊たちが何事かと右往左往する敵野営陣地に突っ込んでいった。騎兵隊の突撃に先駆け、サール大尉の頭上で漂っていた黒玉が先行して騎兵突撃の障害になりそうなものを吹き飛ばしていく。
敵陣に突入した騎兵たちは前方で立ちつくす敵を薙ぎ払いながら、そのまま敵陣を通り抜けてしまった。敵は隊列を作っているわけでもない烏合の衆だったが、襲撃速度が速すぎた結果、それほど敵を斃すことはできていない。それでも、目に付く限りの幕舎に火を掛けることはできた。
敵陣を駆け抜けいったん停止した騎兵連隊は、その場で回れ右をした。
「再度の襲撃を行う。各中隊突撃体制。
どうも襲歩では速すぎた。次は駈歩のまま襲撃する」
結局2往復したところで騎兵連隊は襲撃を止めアリマの野営地に引き返していった。もちろんルクシオン軍は大混乱から立ち直ることができず、個人や小部隊単位で逃げ散っていった。今回の騎兵連隊の夜襲によって2万の兵のうち実に8千の兵が討ち取られている。その襲撃のさなか、サール大尉はルクシオン軍の幕舎の上ではためいていた一際大きな旗を拾得している。アリマ救援のルクシオン軍が撃破された証としてアリマの守備隊に見せてやろうと機転を利かせたようだ。




