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第205話 キーンの帰還祝い3


『まさか』のメアリーは妹のクリスに怒られてしまったので、お楽しみももはやこれまでと、さっさとステージを下りて、そのままパーティー会場から出ていってしまった。


 会場の招待客たちも、ステージ上での出来事に戸惑っている中、今日のパーティーの主催者であるクリスのおじいさまこと、ウィンストン・ソーン前侯爵と父親のネヴィル・ソーン侯爵が揃ってパーティー会場に現れた。侍女が二人をキーンたちの元に案内した。


「セルフィナ殿下、今日はパーティーにお越しいただきありがとうございます」


「こちらこそお招きにあずかりありがとうございます」


 名目上はウィンストンの孫娘、ネヴィルの姪ということになっているセルフィナに当主たちがへりくだっているところは問題なのだが、すでにソーン家もサルダナ王国も腹を括っているので、公にはしていないものの、そういったところは気にしていないようだ。


 セルフィナへの挨拶の後はアイヴィーたちに向かって、


「アイヴィーさんもありがとうございます」


「こちらこそ、ありがとうございます」


 最後に白いドレスに包まれたクリスに向かって、


「クリス。そのドレスは実によく似合ってるじゃないか」


「おじいさま、ありがとう」


「確かに良く似合っている」


「お父さま、ありがとう。

 おじいさまたち、メアリー姉さんを見なかった?」


「先ほど、そこの廊下ですれ違ったぞい。妙に機嫌が良さそうじゃった。メアリーはあの調子じゃから放っておいても大丈夫じゃろ」


「さっきまで、ステージの上に立って司会者の真似事をして、キーンに話を聞いていたみたいなの」


「まあそれくらい、いいじゃないか」


「それが、キーンに自己紹介くらいすればいいものを、赤の他人のふりをしてたの」


「なんでまた?」


「良くは分からないけれど、その方が面白いからだってメアリー姉さんは言ってたわ」


「何が面白いのかは儂にも分からんが、メアリー本人にしか分かららない面白さを見つけたんじゃろう。

 キーンくんのその軍服姿も凛々しくていいもんじゃのー。なあネヴィル?」


「私も子どものころ、キーンくんの着ているその軍服にあこがれたくち(・・)でしたが、いかんせん軍学校に入るための体力がなくて諦めました」


「それは知らんかった」


「なんだか、おじいさまの『双剣のウィンストン』のお話みたい」


「儂とは違うじゃろ?」


「なんですかその『双剣のウィンストン』という香ばしい響きの言葉は?」


「まあ、何じゃ。誰しも子どものころは無茶をするという話じゃ。フォッフォッフォ。

 どれ、集まってくれた皆さんに挨拶あいさつ回りしてくるかのう。それはそうとそろそろ時間じゃろ? 飲み物は配られておるようじゃが、料理を運び込まんとな。

 言うとるはしから料理がきたぞい」


 料理を乗せたワゴンを押して侍女たちが列をなしてパーティー会場に入ってきた。その辺りに抜かりはないようだ。


 今まで、テーブルの上には花を生けた花瓶しか置かれていなかったが、どんどん料理の皿が並べられて行った。立食パーティーなので大皿の上の好みの料理を各人が小皿にとって食べることになる。


 そうこうしていたら、礼服を着た男性がステージに上がり、


「これより、キーン・アービス少佐子爵閣下の、ギレア遠征からの無事帰還を祝った帰還祝いと、閣下とソーン侯爵令嬢クリスさまの婚約発表パーティーを開催いたします。みなさま、お飲み物をお持ちください。

 それでは、ウィンストン・ソーン前侯爵閣下よりお言葉と乾杯のご発声をお願いいたします」


 多くの出席者はなんだか結婚式のようだと感じたが、いずれにせよこの場に集まっているのはソーン侯爵家の一門の者たちなので、誰にも異存などはない。


 司会者の言葉で、ウィンストンが侍女から渡されたグラスを掲げ、


「それじゃあ簡単に。

 キーンくんの無事の帰還と、孫娘のクリスとの婚約を祝って、乾杯!」


「「乾杯!」」


「ありがとうございます。お酒も料理もふんだんにご用意しておりますので、しばしご歓談ください」


 そういって司会者は、拍手の中をいったんステージを下りた。


 クリスの父親とおじいさまは乾杯のあとキーンに祝いの言葉をかけて、挨拶回りしてくると言って、グラスを持っていってしまった。



「ちゃんと司会者がいてよかったね」


「そうね。それで、ギレアでの戦いはどうだったの?」


 クリスの質問に、セルフィナたちも興味津々《きょうみしんしん》だ。


「何度か手紙で書いた通りだけど、エルシンの『狂戦士』は僕か黒玉が近くにいれば何とかなるし、強化が十分なら『狂戦士』に斃されることもないようだった」


「つまり、サルダナは『狂戦士』を恐れる必要はないということですか?」とセルフィナ。


「『狂戦士』についてはそう言える。でも、僕も後から気づいたんだけど、超大国と言われているエルシンの切り札が『狂戦士』だけとは限らないんじゃないかって。まだまだ気を抜くことはできないかな」


「やはり、そうですよね」


「これから先、何が出てくるかはわからないけれど、何とかなると思うし、僕が必ず何とかしてみせるよ」


「ありがとう」


「今のところ、安心してとまではいえないけどね」


「キーン、危ないときは逃げていいのよ」


「もちろんそのつもりだけど、逃げるのは最後かな」


「もう」




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