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第200話 帰宅

200話までいってしまいました。1日1話投稿中なのですでに200日。

ここまで読んでいただきありがとうございます。引き続きよろしくお願いします。



 キーンはブラックビューティーを軍学校に預けたあと、しばらくトーマスたちと一緒に歩いていたが、それぞれ適当なところで別れて自宅の方に帰っていった。キーンだけは従軍中の着替えや汚れものの入った背嚢を背負っている。



「アイヴィー、ジェーン。ただいま」


『キーンお帰りなさい』『キーンお兄さんおかえりなさい』


 台所の方からアイヴィーとジェーンの声がした。ジェーンはキーンのことを今ではちゃんとキーンお兄さんと呼んでいる。


「荷物はその辺りに置いてください。汚れものは洗っておきます。

 食事の準備はできていますから、すぐに食事にしますか?」


「従軍中まともにお風呂に入っていないから、先に風呂に入ってくるよ」


「そういえばそうですね。お風呂でゆっくりしてください。30分くらい後に料理を並べます」


「それじゃあ」




 一度2階の自室に戻ったキーンは、着替えを持って風呂にいき、そこで軽くシャワーを浴びながら湯舟に湯を張って、その後ゆっくり浸かった。


「ふー。生き返る。

 あれ? これって、爺ちゃんがお風呂に入ってよく言ってた言葉だ。僕も歳をとったのかなー?」


 などと、テンダロスのことを思い出したキーンだった。



 風呂から上がったキーンは例のごとく全周ファイヤーアローで一気に体を乾かして、着替えを着て食堂にむかった。


「あら、思っていたより早かったんですね?」


「自分ではそれなりにゆっくり入ったつもりなんだけどね」


「若い人の時間は、年寄りの時間と比べてずいぶん長く引き伸ばされますから。テンダロスはキーンと一緒にお風呂に入るようになる前は、1時間近くお風呂に入ってましたよ」


「へー、そうなんだ。実はさっき僕も爺ちゃんのことを思い出したんだけどね」


「どういったことを思い出したのですか?」


「久しぶりにお風呂に入って気持ちよかったものだから『ふー。生き返る』って自然に言葉が出たんだ。これって爺ちゃんが風呂に入ってよく言ってた言葉だったから」


「そうだったんですね」


「そういえば、私の父もたまにお湯のお風呂に入るとそんなことを言ってました」と、ジェーン。


 ジェーンに父親のことを思い出させたかなとキーンは思い、ジェーンの顔を見たが特に様子がおかしいわけではなかったので安心した。


「そうなんだ。歳をとるとたいていの人がそういうのかな。ということは僕もかなり歳を取ったってことだ」


「キーンお兄さんはいま15歳?」


「ちょっと前に15歳になった。来年の春には軍学校を卒業して大人の仲間入りだ」


「あれからもう15年経ったんですね。こうやってキーンが立派に育ってくれて、テンダロスも満足していると思います」


「アイヴィー、今までありがとう。これからもよろしくね」


「どういたしまして。私はずーとキーンと一緒です。それじゃあ、料理を並べますね」


「手伝いまーす」


 元気なジェーンの声に、ずいぶんジェーンもうちに慣れたようだと思うキーンだった。




 料理がテーブルに並べられて、食事がすぐに始まった。


「ジェーンはもう10歳になったんだっけ?」


「来月10歳になります」


「10歳だとまだ早いかもしれないけれど、12歳になれば学校にいかなくちゃね。ジェーンはなにか希望はあるのかい」


「キーン兄さんがいっている軍学校しか知らないけど、軍学校を出て軍人になって、お兄さんの手助けができればいいなって」


「ジェーンありがとう。サルダナの軍人になったらダレンと戦うことがあると思うけど、大丈夫かい?」


「今の私はサルダナの人間だし、その前にキーンお兄さんの妹のつもりだから」


「よし、それじゃあ、軍学校の入試に受かるよう勉強を始めなくちゃいけないね」


「どういった試験があるんですか?」


「ジェーンに言っていなかったけど、僕は魔術大学の付属校に最初いってたんだよ。そこであまりに座学の成績が悪くて放校になっちゃった。そしたら、どういうわけか軍学校に編入できてしまって今に至るわけ。そういうことなので、軍学校の入学試験は受けてないんだ。今でも魔術の座学の試験は最低点だけどね」


「そうなんだ」


「僕の友達にどういった試験なのかと、どういった準備をしたのか聞いておくよ」


「お願いします」


「うん」


「キーン、軍学校から報せがあり、キーンの1学期の成績はただ合格・・とのことでした。期末試験を受けていなかったわけですが、追試などはないようです。当たり前ですが学年順位は番外だそうです」


「よかった。担当のゲレード少佐は熱心だから、休み中授業に出なかったところの復習とかあるかと思ってたけど、助かった」


「軍の仕事で学校にいけなかったわけですから、そんなものでしょう」


「それはそうだよね。

 話は変わるけど、今日王都の大通りを行進した時、アイヴィーたちがいないかブラックビューティーの上から見回したんだけど見つからなかったんだよ。僕が行進しているところを見てくれた?」


「私とジェーンはキーンの行進は見ることができませんでした。代わりに、王宮前でキーンたちの整列したところを見ていました」


「ということは、何だか立派な服を着た人たちがたくさんいたところにいたの?」


「王都在住の貴族の方が招待されていたようで、うちにも王宮から招待状が届けられました」


「そう言えば、忘れていたけれど、僕って貴族だったんだ。ということは、クリスたちも今日は招待されたのかな?」


「クリスさんのお父さまのソーン侯爵はステージの上で国王陛下の後ろに控えていました。クリスさんとクリスさんのおじいさまはわたしたちと一緒でした」


「そうなんだ。行進中沿道を探しても見つからないわけだ。仕方ないからミニオンを飛ばそうかとも思ったけれど、魔術を人前ではあまり使わない方がいいってアイヴィーが言っていたから、それは控えておいた」


「もちろん不要な時に魔術を使う必要はありませんが、既にキーンは王都で有名人なのでほとんどの人が顔を知っているでしょうから、今さらかもしれません」


「それって、顔が売れてるってこと?」


「そうとも言います。

 あと、今週末の休日にキーンの無事帰還を祝って、ソーン邸でパーティーを開きたいのでキーンの都合を聞いてくれとソーン家から尋ねられているのですが、どうします?」


「アイヴィーもジェーンも招かれているんだよね?」


「それはもちろんです」


「なら、僕もいいよ」


「それでは、明日にでも伝えにいってきます」


「それなら、ミニオンを飛ばした方が早いよ」


「早いことはそうなんのでしょうが、相手は侯爵家ですし、私が手紙を書いて持参します。買い物ついでにいきますから面倒ではありません」



「パーティーに出るのはいいけど、パーティーってどんな感じなのかな?」


「キーンはパーティーに出るのは初めてだったんですね。

 パーティーはそれなりに立派な衣服を着て、飲み食いしておしゃべりする会合です。なので、クリスさんや、そのほかの知り合いと、飲み物を飲んだり、料理をつついたりしながら会話していてもいいですが、今回のパーティーの主賓はキーンですから、いわゆる名士の人たちがキーンに挨拶にくると思います。その人たちに対して笑顔で受け答えしていれば大丈夫です。

 あとは、今回の戦いについて一言お願いしますとか言われると思いますから、一応考えておいてください」


「結構大変なんだ。当日着ていく服は僕の場合制服か軍服でいいんだろうけど、ジェーンはちゃんとした服があったっけ?」


「一応それなりのものは揃えていますから大丈夫です」


 アイヴィーの言葉にジェーンが頷いて、


「すごくかわいいドレスを買ってもらいました。それに髪飾りも」


「それは良かった」


「今回のパーティーはキーンの帰還祝いということですが、キーンとクリスさんとの婚約がその場で正式に発表されるかもしれません」


「だからといって、何もないんでしょ?」


「その場では何もないと思います。来年になりキーンが成人した後は、パーティーなどに招待されるようなことがあれば、二人そろって招待されるようになると思います」


「そうなんだ」


おおやけに婚約が発表されれば、二人はそれ以降世間から夫婦とみなされる、ということです」


「なるほど。知らなかった」



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