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第2話 キーン、3歳にして魔術を真似る


 キーンがテンダロスに命を救われ養子となって3年。


 嬰児えいじの時に見えていた左手のアザは、今では湯につかるとわずかに見える程度まで薄らいでしまい。テンダロスもそのことは忘れてしまっている。また名づけの元となった頭頂部のとがりも目立たなくなっている。



「キーン、おまえもちゃんとではないかもしれんがある程度は言葉が喋れるようになったのだから、そろそろ魔術を教えてやろう」


「わーい、じいちゃん、ありがとー。で、わじゅつってなーに?」


「わじゅつじゃなくて魔術じゃ」


「まじゅつ? ふーん」



「ほれ、夜になったら部屋の中に明かりが点くじゃろ? あれも魔術じゃ」


「ふーん」


「樽の中にいつも水が一杯になっておるじゃろ? あれも魔術じゃ」


「ふーん」


「これ、キーン、『ふーん』以外に何かないのか?」


「うん」


「仕方がないのう。それでは儂がもうすこし派手な魔術を見せてやろう」


「はやくはでなのみせてー!」


「屋敷の中では危ないからの、外に出るぞい」


「うん」



 屋敷の表玄関を出た先は砂利敷きの空き地になっており、そこからの一本道がバーロムにつづく街道につながっている。屋敷の表側は屋敷前のその空き地と一本道以外は森の木々だ。そのかわり屋敷の裏手はアイヴィーが丹精込めて作り上げ手入れをしている庭園と菜園が広がっていて、さらにその先には小さな湖がある。



「まずはあそこに見える木でも切り倒してみようかの? キーン、よーく見とくんじゃぞ」


「うん」


「それじゃあ、いくぞい『ウインドカッター』」


 シャシャー、……。


 テンダロスの右手から放たれた風の鎌が五つに分かれ、一つが地面すれすれを移動していき、小路の脇に立っていた木を一本切り倒した。残りの四つの風の鎌はその木の枝を全て払ってしまった。


「どうじゃい、すごいもんじゃろ? 風の刃先が五つに分かれとるのがすごいところなんじゃ」


「ふーん」


「なんじゃい、今のわしの魔術はすごいと思わんかったのか? そうじゃった、キーンは五つというてわかるのか?」


「わかるー。ゆびのかずのこと」


「そうか、3歳で五つが分かるとは、それはそれですごいことじゃの」


「えへへ。それじゃあ、キーンもやってみる」


「キーン、教えてもいないのにできるわけないじゃろうが」


「できるもーん」


 右手を前に出したキーンが、


「『ふいんとはったー』」


 シュー、……。


 五つに分かれるわけではないが、確かにウインドカッターが地面の上を走っていき、ぶつかった一本の立ち木の根元を大きくえぐってしまった。


「ややや、ほんとにできてしもうた。キーン、すごいじゃないか。わしも驚いたぞ」


「うーん、いっぱいになんなかったし、きがたおれなかったし、しっぱーい」


「失敗ではないが、どうやって今のをやったのじゃ?」


「こうやって、ううう、ってためて、それで、うにょー、てしたの」


「そ、そうか。儂には全く分からんが凄いぞキーン。待てよ、そしたらキーンはライトやウォーターもできるのか?」


「?」


「明かりをつけたり水を出したりできるのかの?」


「できるよー」


「ウインドカッターが見ただけでできるんじゃから当たり前じゃったな。じゃがな、ライトやウォーターはいいがさっきのウインドカッターは危ないから屋敷の中や人に向かって撃ってはならんぞ」


「うん」


「そうじゃ、偉いぞ、キーン」


『マスター、キーン、昼食の支度ができました』


「おっと、アイヴィーが呼んでおるから、食事にするかの。それにしてもキーンは凄いな」


「えへへ」


「昼からはもっと別の魔術を見せてやるからの」


「うん」





 それから、2年。


 暇に任せて、テンダロスはキーンに魔術を見せてやった。屋敷の前の空き地は今では相当広くなっている。テンダロスとキーンの魔法の練習台にあたりの立ち木が薙ぎ払われ、根こそぎにされていった結果である。


 キーンはテンダロスが見せた魔術をことごとく真似てできるようになってしまったので、教えることが無くなってしまったテンダロス。


「うーん、もう教える魔術がなくなってしもうた。魔術理論なんぞをキーンに教えても無駄みたいじゃし、どうしようかのー?」


「じいちゃん、前から思ってたんだけど」


「なんじゃい?」


「じいちゃん、ファイヤーボールって、目の前で火のたまを作って、あいてに目がけて飛ばすけど、どうしてさいしょからあいての目の前で火のたまを作んないの? もっといえば、相手をそのままもやしたほうがいいんじゃないの?」


「今まで、おまえには魔術理論を教えておらんかったからの。おまえももう5歳じゃから、魔術理論を教えていこうかのう。最初は魔素と魔力と魔術からかの。

 まずは、この世界には魔素という物が満ちとるんじゃ」


「まそ?」


「そう魔素じゃ。そこらの風の中にも、土の中にも、おまえや儂の体の中にもどこでも魔素はある」


「ふーん」


「その魔素は魔力という力を使うと、いろいろなもんに代わるんじゃ。例えば明かりとかいつも飲んどる水とかな。変ったところじゃと、力そのものにもなる。世の中では魔力を使って魔素を思いどおりに変えることを魔術と呼んどるわけじゃ」


「ふーん。でもそれなら、まそは木にもあるんだろうから、その木のまそを火にかえればいいんじゃないの?」


「それができれば、おまえの言うとおりじゃな。じゃが、残念なことに魔力は自分の体の外へ向かっては、良くて2、3メートル先までしか使うことができんのじゃよ。じゃから手元で作った火の玉を相手に向かって飛ばすわけじゃ」


「ふーん、そうなんだ。でもじいちゃん。ぼくは、はなれたところに火のたまを作れるし、風をかためることも水を作ることもできるよ?」


「何じゃとー?!」


「じいちゃん、あそこのはのない木のてっぺんをみてて、『バーン!』」


 およそ、20メートルほど先の枯れ木の先端がいきなり小さく爆発した。


「なな、なんと!」






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