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第180話 キーン、サファイアと手合わせする。ソーン邸4


「それでは、始めましょう」


 キーンの言葉でクリスたちは邪魔にならないように後ろにさがって二人から距離をとり、サファイアは細剣を構えた。


 キーンは軽く両手で『金剛斬バジュラスラッシャー』を中段で構えている。


 それに対して、サファイアは肘を引いて右手に持った細剣を真上に構えている。先ほどの素振りの時にはなかった構えだ。細剣の場合、攻撃するだけなら肘と手首だけでも可能なので、そのような構えを取っているのだろうとキーンは考えている。


 キーンは先ほどのサファイアの素振すぶりからサファイアの細剣の間合いを正確に把握しているので十分躱すことは可能と考えているがかわすことしか考えておらず、攻撃などは考えていない。従って、サファイアから見た場合、守りや受けを考慮しない戦法はここでは有効だ。もっとも、キーンの大剣を細剣で受ければ、細剣は簡単に真っ二つになってしまうことが予想できる




 サファイアがいったん呼吸を止めたことがキーンには分かった。


 来る。


 サファイアがそれまで立てていた細剣を手首を使って前に振り出しながら肘を伸ばし突きを入れてきた。その切っ先はキーンの胸の中央を狙っている。しかし、サファイアの右足の踏み込みが浅いせいで、細剣はキーンには5センチほど届かない。


 そう見切ったキーンは全く動くことなくその場で静止していた。突きから小手を狙って細剣が横に払われたとしても、それが手首だけで払った速い動きであろうと必ず一瞬動作に間が開くので簡単に躱せるし、細剣を壊さないよう『金剛斬バジュラスラッシャー』を引いて剣身で受けながら押し返すこともできる。


 結局サファイアは突きを入れた後、払うことなくそのまま細剣を手元に引いている。


 サファイアの今の動きを追えた者はキーン以外にはいなかったが、見えないながらも、キーンが全く動かないため、サファイアの突きがキーンに決まったのではと思ったようだ。しかし、キーンの衣服はどこにも孔は空いていないし切れてもいなかった。


 サファイアからすれば、キーンの体に細剣がわずかに届かないのは承知していたが、まさかキーンが微動だにしないとは思っていなかった。最初の目論見では突きを入れ何らかの反応をキーンから引き出し、その動きに合わせて細剣を払おうとしたのだが、微動だにしないキーンを見て完全に見切られていると悟ったため、とっさに細剣を引いた。


 今の不動の動き?一つとっても、キーンが口だけではない本物の達人だということをサファイアは悟ってしまった。おそらく、キーンとの実力差が大きすぎるのであの大剣をキーンが振るったとしても自分は確かにケガなどしそうにない。ある意味開き直ってしまった。


 先ほどの突きは無言での突きだったが、開き直ったサファイアはそこからは掛け声をかけながら剣を振るった。その動きに合わせてキーンが微妙な足さばきで体を前後左右に移動させ、さらに微妙に反らせたりしてサファイアの振るう細剣の剣筋をすれすれのところでかわしていく。


 周囲で二人の手合わせを見ている者には、キーンの構えは微動だにしていないように見えていたが、キーンが動き終わったときにはちゃんと元の中段の構えに戻って静止しているためキーンは動いていないように見えているだけだった。


 観客のクリスたちからすれば、動きの止まった瞬間のサファイアが見えるのだが、掛け声が聞こえたかと思うと目で追うことができなくなる。その間キーンは不動で立ったままにしか見えない。


 10度ほどサファイアの掛け声が聞こえたところで、そろそろ立ち合い訓練を止めさせようと、クリスが、


「キーンもサファイアさんも、そこまででいいでしょう」


 そのことばで二人は剣を下ろした。


 ルビーは今の見えない手合わせを見て(・・)、キーンとの手合わせを辞退して正解だったとホッとしていた。キーンは魔術の天才だが、剣術では達人だった。そのことが良く分かった。あの大剣を作り上げたあと、今は強化しないと扱えないと言っていたが、そんなに遠くない将来、強化しなくても扱えるようになるのだろう、と素直に思った。そうなれば強化したときには、今見た以上の達人になっているわけだ。ルビーはある種の空恐ろしさを感じてしまった。


 一方セルフィナは異母兄であるキーンが、これまで剣では最強だと思っていたサファイアでは手も足も出ないほど剣の達人であることが、見えないまでも実感できてなんだかうれしくなってしまった。


「キーンさん、サファイア、二人とも凄かった。私にはサファイアの動きは目で追えなかったけれど、逆に全く動いているように見えなかったキーンさんが何もないまま立っていることで逆にすごいと思ってしまいました」


「姫さま、私ではキーンさまには全く歯が立ちませんでした。申し訳ありませんでした」


「サファイア、何を謝っているのか分からないけれど、サファイアの剣があれば十分だから。キーンさんのような剣の使い手はまずいないから」


 確かにキーンなみの使い手はそんなにいないと言ってもいいだろうが、絶対いないとは言い切れないところは不安でもある。


「ありがとうございます」そう答えたサファイアは剣の修行を再度やり直そうと心に決めた。



 一方こちらは、クリスのおじいさま。


「いやー、良いものを見えないまでも見せてもらった。長生きはするもんじゃのう。亡くなったクリスも生きておれば、孫娘の婿殿むこどのの雄姿が見れたものじゃがのー」と少し涙ぐみながらそんなことを言った。


 ちなみにクリスの祖母は、クリスと同じ名で、クリスが生れる前にはすでに他界しており、クリスの祖父ウィンストン・ソーンは息子ネヴィルの3女ということで、生まれた孫娘に亡くなった妻、ネヴィルにとっては母と同じ名を付けてもらった経緯がある。さらに、付け加えると、クリスの母親もすでに他界しており、クリスの父ネヴィルは周囲からは後添のちぞえを迎えるよう勧められてはいるが独り身を通している。


「それじゃあ、儂はそろそろ行くかの。キーンくん、サファイアさん、ありがとう」


 そう言って本館の方に歩いていった。



「おじいさまは帰っていったし、それでは、キーン先生、魔術の指導をお願いします」


「その前に、この金剛斬バジュラスラッシャーに鞘を作るから。ミニオン3000!」


 そう言ってキーンは、金剛斬バジュラスラッシャーの剣身の周りに空ミニオンを鞘の形に変形したものを何重にも作り出して真っ黒な鞘を作ってしまった。みんな呆れてみていたが、キーンが鞘に入った金剛斬バジュラスラッシャーを近くの立ち木に立てかけたところで、キーンによる魔術指導が始まった。


「えーと、それじゃあ、どこまでできるようになったか、まずはクリスから」


「それじゃあ、……」





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