第173話 バーベキュー大会1
2022年1月24日
ソーン家の次女の名まえですが、これまでメリッサ・ソーンとしてきましたが、メリッサ・コーレルと紛らわしいので、メアリー・ソーンと変更しました。
ギュネン戦から2週間後の休日の前日、大隊の訓練を午後から半日休みにすることを軍総長の副官から許可された。
バーベキューの資材と食材は前日までに揃えてある。参加人数は大隊1000名とその家族友人が800名。1800名ということになった。
かなり大勢ではあるが、元より1個連隊相当2000名を想定した駐屯地だったため、特に問題はない。
当日は運よく快晴のいい天気。大隊員たちは午前中の訓練を早めに後え、バーベキューの設営準備に入った。
ボルタ兵曹長が訓練場の脇の地面に炭を敷き入れる穴を掘る場所を棒で描いていき、その場所を黒玉が30センチほどの深さで穴を掘っていく。兵隊たちがその穴に炭を入れて、さらにその上に鉄で作った網載せ用の骨組みを組んでいく。最後に薄く食油を塗った金網を置いて野外コンロのでき上り。その他の兵士たちは、兵舎の食堂から長テーブルとイスなどを持ちだして適当に並べていく。最後に厨房に置いてあった今日のための食材と飲み物、食器などをテーブルの上に置いていく。
ボルタ兵曹長の指示のもと、兵隊たちが無駄なくてきぱきと動き回り、30分ほどでバーベキューの準備が終わってしまった。
今日は午後からは休日なので、成人に対してはアルコールも用意してある。未成年者には各種の果実水などが用意されている。そういったものは、黒玉が作りだした氷の入った桶の中に入れられているので冷たくなっている。
さすがにキーンたちが到着する前には始めることはできないので、みんなおとなしく待っている。そうこうしているうちに、兵隊たちの家族や友達が集まりはじめた。
先般ギュネンで大活躍したキーンたちのアービス大隊が、この日バーべキューをすることを知った軍学校のグッドオールド校長から、1号生徒は午後からの実技は休みにして午前の座学終了以降自由にしても良い、との許可が出たため、4限の授業が終わり次第1号生徒52名全員揃ってアービス大隊の訓練場に向かった。
キーンを先頭に生徒たちが王都の郊外にある軍学校から、ワイワイガヤガヤと王都の中心、王宮脇にあるアービス大隊の駐屯地に向かって歩いていくのだが、人数も人数だし、このまま歩いていくとかなり遅くなりそうだ。
キーンが後ろを振り返って、
「待たせると悪いから、少し急ごう。今からみんなを強化するから」
「わーい!」「やったー」「これを待ってた」
軍学校の生徒、50人余りが強化の光で輝いて、王都の通りを速足で進んでいく。道行く人も立ち止まって、キーンたちが歩き去っていくのを眺めていた。
生徒たちは、キーンの強化のおかげでそれほど遅くなることもなく訓練場に到着することができた。
やってきたキーンたちに対して、ボルタ兵曹長が、
「おっ! 大隊長殿、軍学校の生徒さんをお連れでしたか」
「1号生徒全員を連れて来ちゃったけど大丈夫だよね」
「そんなこともあろうかと、食材は十分用意していますからもちろん大丈夫です」
「待たせたみたいだから、すぐに始めよう。炭に火を着けるのは大変だから、僕が火を着けるよ。一度に炭が燃え上がってしまうとマズいから、1メートルおきくらいに軽く火をつければいいかな?」
「それでお願いします」
「それじゃあ、ファイヤー」
炭を入れた穴の位置をざっと見渡したキーンは一気に数十カ所に火をつけた。軽く火をつけただけなのでこれから徐々に火が大きくなり、上に敷いた金網がある程度熱くなったら食材を置いていくことになる。
「大隊長殿、ありがとうございます。火が回る間、ご挨拶をお願いします」
「えっ?! 挨拶なんて全然考えていなかった」
入学式のとき挨拶したソニアには他人ごとなので気安く『がんばって』などと言ったのだが、いきなり2000人近くの前での挨拶となると緊張する。
「簡単でもいいので、よろしくお願いします。
大勢人がおりますので、皆に良く見えるようこの指揮台に上がってお願いします。
大隊員、これよりアービス隊長よりお言葉がある。傾聴!
御集りのみなさん、これよりアービス大隊、大隊長アービス少佐のご挨拶がありますのでご静粛に願います」
何の箱だろうかとキーンは思っていたが、目の前にあった木の箱は指揮台だったようだ。
清聴モードとなったバーベキュー会場で、全員の注目を集めて、指揮台の上に立ったキーンが、
「みなさん。アービス大隊、大隊長のキーン・アービスです。
ご存じと思いますが、ギュネンでの大隊の活躍に対して軍より褒章と半日休みをいただきました。大隊員たちの家族や友人の方も大勢いらっしゃるようですから、バーベキューを食べながら、そういった話で盛り上がってください」
それだけ言ってキーンは指揮台を下りた。こういった挨拶は短ければ短い方がよいと思っているキーンにとっては、かなり長い挨拶となった。
「ありがとうございます。
それでは、そろそろ金網も熱くなってきた頃でしょうから、食材をどんどん金網の上に乗せていってください。
食材が焼ける間、飲み物を飲んでお待ちください」
そこで、会場からまばらな拍手が起こった。それに気づいた軍学校生たちが力いっぱい拍手したら、会場全体に拍手が広がっていった。
軍学校の同級生たちは、金網の上に食材を乗せながら、
「俺ももうすこし頑張ってたらキーンのところで中隊長に成れたのになー」
「お前の成績は下から数えた方が早いんだから、もう少し程度じゃ無理だろ。それに、ソニアたちだって一生懸命努力をしてたわけだし、今も努力してる。追いつくのは難しいと思うぞ」
「確かに」




