表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/333

第159話 ギュネン戦3、デクスフェロ


 アービス大隊が敵陣を突き崩しながら進撃していくなか、ダレンの軍事アーティファクト、デクスフェロがゆっくりとアービス大隊に向かって動き出した。


 キーンから見てダレン軍は縦長だったが、徐々に右手に見えるギュネンの反対側、左手に広がり始めた。東側から迫るアービス大隊を後方に回り込んで包囲するつもりなら南東方向に向かうはずだが、南西方向に向かっている。


「大隊長殿、敵は逃げ始めたようですな」


「いったん引いて態勢を立て直すのかもしれないけれど、回り込まれるよりも前からやってきてくれる方が楽だから助かりました。回り込まれて包囲されたとしても簡単に脱出できるから、そんなに差はないですけどね。ここでデクスフェロを倒して勝負を決めてしまいましょう」


 キーンにもかなり余裕が出てきた。



 ソニアたち5人の中隊長は初めての実戦で新兵同様戦闘開始前はかなり緊張していたのだが、同級生のキーンの何事にも動じていないように思える後ろ姿を見ているうちに、次第に緊張が解けて落ち着くことができた。


 実際は中隊長たちに限らず、新兵たちは古参兵を見習っていたし、古参兵たちはキーンに全幅の信頼を置いていた。


 逆に、ダレン軍内では混乱が西側、キーンたちから見て後方へも波及している。


 キーンはパトロールミニオンを通して敵兵の全体的な動きを観察しながらも、デクスフェロの動きにも注意を向けている。


 そのデクスフェロが、混乱するダレン軍の中をゆっくりと前進してキーンたちの方に向かってくる。デクスフェロの周辺では混乱が沈静化しているようにも見える。



「おっ! あの黒く見えるのがデクスフェロではないでしょうか?」


「だね。自分の目で実物を見ると大きいなー。ここで、仕留めるつもりでいきましょう。まずは電撃で様子を見てみます」


 前方1キロほどに黒いシルエットとして見えていたデクスフェロの頭上から紫電が走りデクスフェロのヘルメットをかぶっているように見える頭の部分に直撃した。電撃の光で照らされたデクスフェロは確かに金属鎧を着た巨人に見えた。


「やったか!?」


 ボルタ兵曹長が小さくつぶやいた。だが、デクスフェロは何事もなかったように前進を続けている。


 先ほどの電撃は、デクスフェロの近くに飛ばしていたパトロールミニオンの目で観察しながら撃った電撃だった。電撃はデクスフェロに命中したものの何ら効果がなかったようだ。そのかわり近くにいた10人ほどの兵士にその電撃が飛び散り、彼らはその場に倒れ動かなくなった。


「電撃は全然効かないみたいです。今ので倒れてたらそれこそ拍子抜けですしね」


 デクスフェロとの距離はまだかなりあるからか、キーンは電撃が効かなかったことに対して特に気にしていないようである。


「次は特大のファイヤーボールをぶつけてみましょう」


 先ほどと同じようにデクスフェロの頭上から青白く輝くボールが落下してデクスフェロのヘルメットに命中した。


 夜空の下に閃光が走り、少しして、爆発音が轟いた。


 ドッガーン!


 キーンの言う特大・・ファイヤーボールの爆発でデクスフェロ周辺にいた数百人の敵兵がなぎ倒され、そのなかで特にデクスフェロの近くにいた百人余りは倒れたまま動かなくなってしまった。デクスフェロもさすがに今の爆発は堪えたようで、前向きに倒れてしまった。もちろん近くに建っていたダレン軍の幕舎は吹き飛んでしまった。


 そこでもう一度ボルタ兵曹長が、小さく、


「やったか!?」


 とつぶやいた。


 ボルタ兵曹長のつぶやきを聞いたわけではないだろうが、デクスフェロはゆっくりと立ち上がり、前進を再開した。


「デクスフェロには魔術攻撃は効かないようだけど、吹き飛ばすような力の影響は受けるみたいですね。なるほど」


 キーンは前進を続けるアービス大隊の動きに合わせて前進し、デクスフェロに対して魔術攻撃を仕掛け効果を観察している。


「これは弾かれるだろうな。でも試しにファイヤーボールをデクスフェロの頭の中にねじ込んでみます。……、

 ダメだ。ネジ込めなかった。さすがはアーティファクトですね。

 それじゃあ、こんどはアイスニードルで滅多打ちにしてやりましょう。アイスニードル100」


 ニードル(はり)という名のパイル(くい)が連続してデクスフェロに撃ち付けられた。今回は頭上からではなく背面からだ。


 デクスフェロは先ほどと同じように前方にうつぶせに倒れ込んだ。


「このまま続けて、氷で固めてもいいか。アイスニードル1000」


 1000発の氷の杭がうつぶせに倒れたデクスフェロの背中に降り注ぐ。氷の杭は命中した端から砕け散りデクスフェロの周囲に溜まっていった。


 ダレン軍にとっての頼みの綱のデクスフェロが、どこからか分からないが大魔法により一方的に攻撃を受け倒れたまま動かなくなってしまった。氷で冷えたためかデクスフェロの表面が白く変色している。


「今度こそやったか!?」とボルタ兵曹長。


「デクスフェロは一応動かなくなりましたが、傷一つ、へこみ一つ付いていませんから、そのうち動き出すと思います」


 パトロールミニオンから見たデクスフェロは全くの無傷だ。


「そ、そうなんですか?」


「ここからではまだはっきり見えませんが、パトロールミニオンを通して近くから見ると表面がはがねに見えるんです。動き出す前は石像に見えていたから、見た目が石に戻れば動かなくなると思うんですよ」


「なるほど。それで次はどうされます?」


「火や電撃は受け付けないようだけど直接的な力だけは有効なようだから、足元に穴でも作って落っことしますか。20メートルも落っことせばある程度のダメージが入るかもしれないし、それがだめでも穴を埋めて固めてしまえば当分出てこられないでしょう」


「それは効きそうですな」


「デクスフェロが200メートルまで近づいてきたら、足元に穴を掘ります。うまくいかなかった場合、もう一度アイスニードルをぶつけて倒しますから、その間に撤退しましょう」


「了解しました。あっ! 動き出した。膝をついて立ち上がろうとしています」


「しぶといけど、あまり怖くないのはなんでかな?」


「やはり動きが緩慢で逃げようと思えばいつでも逃げることができるからでは?」


「城塞の門なんかを破壊するには便利かもしれないけれど、野戦では活躍できそうもないアーティファクトですね」


「わが国ではあまり必要なさそうなアーティファクトかもしれません」


 キーンとボルタ兵曹長がそんな話をしながらも、大隊は一定速度で前進している。


 正面にいた敵は既に後方に下がっており、デクスフェロの前には誰もいなくなった。



「そろそろかな。よし、ディッグアース」


 デクスフェロの右足が前に出たところで、深さ20メートル、幅5メートル、奥行き5メートルほどの地面が掘り起こされ、掘り起こされた土は横に移動して小山ができた。デクスフェロは踏みとどまることができず穴の中に転がり落ちた。


「今度こそやりましたね」


「表面がしっかりしていない穴だからよじ登ろうとして穴の下でもがけばそれだけで埋まってしまうのでデクスフェロはどうしようもないでしょう。このまま前進して中を確認しましょう」


 デクスフェロがいきなりでき上った穴の中に落ちていったところを目撃した多くのダレン兵たちは、壊乱状態になって後方へ逃げまどい始めた。キーンの位置から目視できる範囲のダレン兵はアービス大隊に向かってくるどころか、背中を向けている。


 アービス大隊はそれでも一定速度を保って前進を続ける。


 デクスフェロが落ちた穴の近くまで大隊が進んだところで、初めてボルタ兵曹長が停止の号令をかけた。


「大隊、停止!」


 各部隊の先任兵曹が復唱していく。


 兵隊たちが見守る中、キーンとボルタ兵曹長が穴の横に立ち中をのぞき込んだ。穴の下はかなり暗いのだが視力強化中のためライトの魔術を唱えることもなく穴の底を窺うことができた。


「石像に戻っています」


「やっと止まったみたいですね」


「大隊長殿どうします? 埋めますか? それとも鹵獲ろかくしますか?」


「敵も逃げていったみたいだから、鹵獲しちゃいましょう。どうやって持ち上げればいいかな?」


「重量物を持ち上げるような魔術はないんですか?」


「あるかもしれないけど、僕は知らないから使えません。そうだ。さっきは地面を掘り下げて、掘り起こした土を横に動かしたわけだから、穴の底のデクスフェロを土と思えばいけるかも知れない。ディッグアースは地面の適当な範囲を指定してそれを適当なところに動かしているだけの魔術だから、動かす物の範囲を地面の土からデクスフェロに変えるだけでいいはず。今までやったことはないけど、恐らくうまくいくと思います」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ