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ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第10章 セルフィナとクリスとキーン
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第138話 ペンダント2


 キャリーミニオンなる銀色の球にキーンが手紙を持たせ、その銀色の球はかなりのスピードで上空に舞い上がりどこかへ飛んで行った。


 クリスにとっては見慣れたキャリーミニオンだが、セルフィナたちには目新しい謎の魔術だ。


「今のはキャリーミニオンといって、僕の知っている場所に物を届けたり、その場所から物を持ってきたりする魔術で作った球なんです。僕が知らない場所でも自分で探すことができるけど、その時は時間がかかってしまう欠点があります」


 相手先を探すには時間がかかるのはあたりまえなので欠点というわけではないし、相手先を探すだけ賢いのではないかと残りの4名は思ってしまった。


「セルフィナさん、ミニオンが戻ってくるまで、さっきの続きをしていましょう」


 セルフィナにしてみればそれどころではなかったのだが、そう言われてしまえば従わざるを得ない。


「それじゃあ、もう一度僕の手を握って」


「はい」


 セルフィナがキーンの差し出す手を握ったが、今度はセルフィナの首から下がったペンダントに何事も起こらなかった。


「この状態で、強化を僕にかけてください」


「はい。強化!」


 キーンの体が6色に輝いた。


「うん。いいですね。接触さえしていれば他人に強化できることが分かりました。これでいつもそばにいるサファイアさんとルビーさんを強化できます。今は接触していましたが、少しずつ離していけばそのうち目に付く者に対して強化できるようになると思います。そうなればこんな具合に」


 キーンが的の真上に作り出したファイアーアローが上から的に命中した。


「どこからでも魔術を発動できるようになると思います」


 セルフィナにはキーンのようにどこからでも魔術を発動できるようになるとはとても思えなかった。


「難しそうに思えるかも知れませんが、2、3日練習すれば何とかなると思います」


 セルフィナからすると、そうなのかなあ、と思うキーンの言葉だったし、もちろんキーン自身も何の根拠もなくセルフィナに言った言葉だった。真面目に練習していればいずれ可能になるだろう、という軽い気持ちである。実際のところキーンは兵隊たちの訓練については向いているようだが、魔術の教育には向いていないのかもしれない。


 キーンとセルフィナが魔術の訓練を再開してしばらくしたところでキャリーミニオンがキーンのもとに戻ってきた。キーンが手のひらを上に向けて差し出すとその上に鎖の付いていない銀色のペンダントを落し、消えていった。


 サファイアとルビーも立ち上がりセルフィナに近寄り、クリスもキーンのかたわらに近づいてペンダントをのぞき込む。



「このペンダントですが、確かにセルフィナさんのペンダントに似てますね」


 そう言ってキーンはセルフィナにそのペンダントを渡した。


 セルフィナはキーンから受け取ったペンダントと自分が首から下げているペンダントを首から外して、それぞれを右左の手に持ち見比べた。


「飾り模様が左右で逆ですが、全く同じものに見えます」


 そう言ってキーンにペンダントを返し、


「本当に同じものか確かめるため、キーンさん、強化を解除した上で、そのペンダントを手に持ち『インペルム』と口に出してもらえますか?」


 ペンダントを受け取ったキーンが、良く分からないなりに、


「? 『インペルム』」


 キーンの手にしたペンダントが輝き始めその表面に十字の4つの先端が上下左右で円を貫いた模様が現れた。それと同時に、発光はしなかったがキーンは強化した時と同じような状態になった。


「?」


 セルフィナ、サファイア、ルビーは3人揃ってキーンの持つペンダントの光とキーンを交互に凝視している。


「セルフィナ、どういうこと?」


 クリスがキーンの代わりにセルフィナに聞いた。


「キーンさんの持っているそのペンダントは私のこのペンダントと対になった双子のペンダントです。さきほど口に出していってもらった言葉は、聖王家の姓に当たります」


「ということは、キーンはモーデル聖王国の聖王家にゆかりがあるってこと?」


「そうなります。しかもそのペンダントは父がある人物に直接渡したものだったそうです。おそらく渡された人物は父の愛妾だった方だったと思います」


「キーンがセルフィナの兄弟ってこと?」


「おそらく。私の方が1歳年下のはずですからキーンさんは異母兄妹いぼきょうだいの兄にあたるかと思います」


 物心ついてからテンダロスとアイヴィーによって育てられたキーンの頭は、事態の進展についていけなくなったようで、全く動かなくなってしまった。


「キーン、キーン、しっかりして。きみが聖王の子でセルフィナのお兄さんだとしても何が変わるわけでもなく、キーン・アービスなのよ」


 クリスはそうは言ったが、このことがエルシンに伝われば今度はセルフィナではなくキーンが狙われることになるだろうし、かなり世の中は変わるだろう。キーンなら以前ダレンから送られた刺客を簡単に撃退しているから、エルシンから刺客が送られてきても簡単に撃退できるかもしれないが、ことはそんなに単純ではないはずだ。自分では判断できないので、クリスは祖父に相談しなければならないと思った。


 やっと起動したキーンは、


「僕はどうすればいいんだろ?」


「キーンは今まで通りでいいと思うわ」


「それでいいの?」


「ほかになにもないじゃない」


「そ、そうだよね」


 その時、キーンに何か言おうとルビーが一歩前に出たが、サファイアに止められて、また後ろに退いた。



 衝撃の事実の中、何となくその場が気まずくなってしまったので、クリスが、


「今日のセルフィナの訓練はこれくらいにしない?」


「うん。そうだね。今日はこれくらいにしよう」


「キーンさん、びっくりさせるようなことを言ってしまってごめんなさい」


「セルフィナさんが謝るようなことじゃないから。でも正直驚いた。

 クリス、悪いけど僕はうちに帰って、少しアイヴィーと相談してみようと思う」


「それがいいわ」


「キーンさん、今日はありがとうございました」


「うん。セルフィナさん、それじゃあ。

 みんな、それじゃあ」


 そう言ってキーンは、居合わせた侍女に案内されて帰っていった。


「クリス、私も離れに帰っておくわ」


「うん、セルフィナも考えることがあるでしょうし、それじゃあ」


 セルフィナたちも離れに帰っていき、その日はそれで散会となった。






 クリスはその日の夜、キーンの出自について祖父に話をした。


「なるほど。

 クリス、わしによう相談してくれた。兄が妹のために何かしてやりたいと思うのは人情じゃろうから、キーンくんはセルフィナ殿下のために働きたいと思うかもしれん。じゃが、いまやキーンくんはわが国になくてはならない存在のようじゃから、この国に繋ぎ留めておかんとならん。

 うーん。……。

 そうじゃ! クリス、キーンくんと結婚してみんか? 二人ともまだ成人ではないから婚約からじゃがな」


「おじいさま、結婚って、してみるものなの?」


「言い方が悪かったの。クリスもキーンくんが嫌いじゃないんじゃろ?」


「キーンと一緒にいると楽しいし、好きか嫌いかって聞かれたら、もちろん好きよ」


「そうじゃろ。しかもキーンくんは永代貴族じゃし、いずれは伯爵とも聞いておるぞ」


「そうね。侯爵令嬢といっても3女のとつぎ先としては悪くはないというか相当いい嫁ぎ先と思うわ」


「じゃろ? じゃからクリスがキーンくんのところに嫁に行って、この国に繋ぎとめるんじゃ」


「おじいさま、私もキーンと一緒にセルフィナのもとにいっちゃったらどうするの?」


「そうしたら、この儂もクリスと一緒にセルフィナ殿下のもとに走ろうかの」


「おじいさまったら。フフフ」




 翌朝、クリスの祖父ウィンストン・ソーンは息子ネヴィル・ソーンが宮殿に出仕する前に、キーンがセルフィナ王女の兄、モーデル聖王国の王子らしいということを伝えている。




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