表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/333

第129話 紹介2、襲撃


 セルフィナはソーン家の使いの者からクリスからの手紙をホテルで受け取り、その場で「楽しみにしている」と了承する旨ことづけた。



 そして約束の日。


 セルフィナは今日クリスに自分たちの素性を明かすつもりだ。そのためもあり、セルフィナとノートン姉妹は、モーデル聖王国の正装というわけではないが、かなり高級な衣装を着込んだ。サファイアは剣帯をして細剣を腰に下げ、ルビーは複数のナイフを上着やスラックスの中に仕込んでいる。実際その通りなのだが、どこかの王国の姫とその護衛と言われれば誰でも納得するような出で立ちである。




 これまでセルフィナは、約束の時間は相手が守るべきものなので気にしたことなどなかったが、これからは約束の時間に遅れてはならないため、セルフィナたちは早めにホテルを出ている。馬車で向かっても良かったのかもしれないが、劇場街周辺は道が混みあうという話をホテルの窓口で聞いていたため徒歩で時計台の前に向かった。そのため、セルフィナの身に着けた装飾品としては父聖王から手渡されたペンダントを首から下げているだけだ。



 道案内役のサファイアを先頭に3人が劇場街の先の時計台の近くまで行くとキーン・アービスが時計台の前で一人で立っていた。クリスはまだのようだ。


 約束の時間までまだ30分近くあるが、セルフィナはクリスに紹介される前に、勝手にキーン・アービスに話しかけるわけにもいかず、さりとて、時計台の前から離れるわけにもいかないので、キーンから少し離れてクリスを待つことにした。


 セルフィナたちがそうしてキーンとは少し離れた場所でクリスを待って立っていたら、時計台の前を行きう人の流れ中から、いきなり2人の男女が短剣を引き抜きセルフィナに向かって駆けだしてきた。


「お嬢さま!」


 サファイアが腰の剣帯に下げた細剣を引き抜きセルフィナをかばうように一歩前に出る。ルビーは上着の裏側に隠し持っていたナイフを2本引き抜き両手に構えて賊に向かっていった。


 それを横目で見たキーンは、賊があからさま過ぎると感じ、素早くガードミニオンをセルフィナの頭上に浮かべた。


 もちろん、ガードミニオンが頭の上で揺れていることにセルフィナたちは気づいてはいない。


 時計台のためキーンからは死角になるセルフィナの後方に向かってそのガードミニオンがいきなり1撃、2撃と電撃を放った。


 ドザリ。


 ガードミニオンの電撃を受けた女が、セルフィナのすぐ近くにうつぶせになって倒れ込んだ。倒れた拍子に女が手に持っていたらしいナイフが石畳の上に落ちてカチンと音がした。


 ナイフで2人の賊と切り結んでいるルビーは、何とか凌いではいるが明らかに劣勢で既に何個所か傷を負っている。




「ガードミニオン、アタックミニオン!」


 次にキーンは、劣勢の女性を守るためその頭上にガードミニオンを。賊の逃亡を阻止するため

アタックミニオンを作り出した。


 すぐにガードミニオンとアタックミニオンの電撃を受けた2人の賊はその場で倒れた。


「「ルビー!」」


 サファイアとセルフィナがルビーに駆け寄ったところ、体の数カ所から血を流していたルビーはその場で路面にひざを付き、そのまま前のめりに路上に倒れてしまった。


「ルビー!」


 サファイヤが周囲に気を配りながらルビーを抱き起し傷の様子を確認したところ、傷はかなり深い。持っていたハンカチだけでは足らず素早く自分の衣服を切り裂いたサファイアがルビーの手足を止血していくが、血は止まらずぽたぽた路上に垂れ続けた。




『マズい! ミニオンを出すくらいなら最初から全員強化しておけばよかった』


 とっさにミニオンを出してしまったが、少女の護衛と思われる女性が深手を負ってしまった。血も止まらないようだ。顔色がみるみる悪くなってきている。


――今からでも強化すれば何とかならないか? 放っておけばかなり危ない。運頼みで結果は分からないが、悪い方向には向かわないだろう。


「強化!」


 6色の光が倒れた女性を包んだ。


 キーンの強化の声にサファイアが振り向いたので、キーンが、


「その女性に強化魔術をかけました。うまくすれば血が止まるかもしれません」


 サファイアにはキーンの言葉は聞き取れたが、理解が及ばなかった。その代り、ルビーの傷から流れ出ていた血がぴたりと止まった。治癒魔法など聞いたことがないサファイアはあっけにとられた。恐る恐る傷口に巻いた布をずらして傷口を見ると傷口が塞がりつつあった。


「血も止まり傷が少しずつ塞がっています。ありがとうございました」




 人通りの多い時計台広場の真ん中での騒ぎで、道行く人たちが周りを取り囲み様子を見ている。


 その中から、


「キーン、セルフィナ! 何があったの?」


 クリスが人の輪から抜け出してキーンたちのところまで駆けてきた。さすがにこの状況ではクリスの護衛も遠くから見守っているわけにもいかなかったため、偶然を装い「クリスお嬢さま」と言ってクリスの後に続きキーンたちの元まで駆け付けた。


「ルビーが私を守るために賊に傷つけられ大けがをしたところをこの方に助けられました」


 いちおうセルフィナはキーンのことは知らないことにしているのでキーンの名は出さなかった。


「キーンが助けたの?」


「先に強化すればよかったんだけど、その女子を守ろうと先にミニオンを出したんだ。賊はミニオンが倒したけど、その女の人には間に合わなかった。傷がひどかったので、ダメもとで強化したら何とか傷が塞がって血も止まったようなんだ。

 クリスはこの人たちのこと知ってるの?」


「キーン、後で話すから、ちょっと待っててね」


 クリスのところまでやってきていたソーン家の護衛の二人に向かって、クリスが指図した。


「あなたたちがいてくれてちょうどよかった。近くに近衛の詰所があるから人を呼んで、それから担架を借りてきてちょうだい」


「はい、お嬢さま」


 一人がすぐに駆けだしていった。


「残ったあなたは、周囲を警戒してて。担架が来たら、ソーン家(うち)に運んでお医者さまに診てもらって」


「はい、お嬢さま」


 こういったことに慣れているとはとても思えないクリスがてきぱきと指示を出していくのを見て、キーンもセルフィナもサファイアまでも驚いた。


「キーン、ごめんなさい。

 それで、さっきのキーンの質問だけど、ここにいる人たちを今日キーンに紹介しようと思ってたの」


「そうだったんだ」


「ルビーさんが大変なことになっちゃったけど、セルフィナは無事だし、ルビーさんは命に別状ないみたいだから少し安心したわ。お互い名前も知らない同士だと話もできないでしょうから、簡単に紹介するわね。

 セルフィナ、こちらがキーン・アービスくん。この前も言ったけど私の友達。

 キーン、こちらがセルフィナさん、そしていま看護しているのがサファイア・ノートンさん、ケガをして横になっているのがルビー・ノートンさん。サファイアさんはルビーさんのお姉さん」


「セルフィナです。キーンさん、危ないところを救っていただきありがとうございます」


「サファイア・ノートンです。お嬢さまのみならず、妹まで救っていただきありがとうございます」


「キーン・アービスです。もう少し何とかできたハズだったんですが、申し訳ありません」


「キーンは頑張ったんでしょ。キーンが謝るとややこしくなるわよ」


「そうだね」



 簡単な紹介をしていたら、人混みが割れて、近衛の兵隊たちと近衛を呼びにいったクリスの護衛が担架を抱えて戻ってきた。


「それではお嬢さま、この方を屋敷に運んでしまいます」


「お願いね」


 クリスの護衛二人がルビーを担架に乗せて運んで行った。


 クリスの護衛が呼んできた近衛兵の一団に対して、キーンが、


「アービス中隊、中隊長のキーン・アービス中尉です」


 そう言ったところ、一団の指揮官らしい下士官が、


「これはアービス中尉、いかがしました?」


「そこに倒れている3名の暴漢が、その若い女性に襲い掛かってきたため撃退しました。その女性の護衛らしき1名が暴漢との戦いにより負傷したため担架をお借りし、ソーン侯爵家に運んでいきました」


「了解しました。われわれは賊を連行し尋問しますので、何かありましたらお知らせします」


「よろしくお願いします」


 近衛兵たちは電撃で気絶した3人の目を覚まし、捕縛した上で連行していった。



 近衛兵たちが去っていったところで、


「ルビーさんを一人にしておけないから、みんなでルビーさんについてうちに行きましょう」とクリスが先頭に立って担架を運ぶ二人を追っていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ