第100話 モーデル同盟
とうとう100話まで来てしまいました。フォロー、評価、誤字報告等ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
会議室の奥の扉から国王ローデム2世が現れたところで、一同は私語を止めて正面を向いた。
一段高い席に座ったローデム2世がマウリッツ宰相に、
「それではマウリッツ、会議を始めてくれ」
「はい陛下。
みなさん、それでは会議を始めます。
本日、宮殿にモーデル聖王国から聖王陛下の信任状を携えた使者が到着され陛下に書状をお渡しされました。使者によると、すでに聖王国を盟主として、ギレア、メイファン、ローム、ブレストの5か国が軍事同盟を結んでいるそうです。書状はわが国にその同盟への参加を要請するものでした。
同盟国の義務はある程度の兵、わが国ですと1万程度の兵を聖王国に常駐させ同盟国軍とすること。同盟国軍の総指揮は聖王国が執ること。いってみれば兵を拠出するということですな。同盟国が外部より攻められた時、同盟国軍が援軍として駆け付けるというものです。
因みに同盟国軍は名目上約5万だそうですが、拠出国が現在駐屯地などの整備を行っている状況で軍が実際に駐屯するのはあと2カ月はかかるという話です。さらに駐屯地の整備費用、駐屯中の兵の維持費用などは拠出国の負担ということです。
今回諸卿にお集まりに頂き、この同盟にわが国が参加するか否かについての忌憚のないご意見をお聞かせいただくため、陛下御臨席の会議を開きました。聖王国からの使者に対しては、即答できかねる案件ですので後日改めてお返事するということでお帰り願っています」
こういった状況を分析するのが対外部の仕事である。そう思い付いたトーマ大将が、
「ここにきていきなり同盟話というと、差し迫った何かがあるということかも知れません。対外部部長のコネリー大佐をこの会議に呼んではいかがでしょう? 何か情報を掴んでいるかもしれません」
と、提案してみたところ了承された。すぐに会議室にいた書記の一人が部屋を出ていったのでコネリー大佐を呼びに行ったのだろう。
しばらくしたところで先ほどの書記と一緒にコネリー対外部部長が会議室に現れた。
席に着いたコネリー大佐にボーア大将が、
「コネリー大佐、用件は聞いてきたと思うが、何か対外部の方で中央の情報を掴んでいないかね?」
「はい。
モーデルを盟主とした同盟については、私どもはその情報は掴んでいませんでした。弁解になりますが、これは中央に送り込んでいるわが方の現地活動員の数が少ないため、やむを得なかったと思っております。
現状わが方で得ている情報ですが、エルシンがギレアに対し南東部の割譲を求めているというものがあります。ただ、未確認の情報ですので報告は上げていませんでした。また、エルシンが軍を催しているという兆候も対外部では掴んではいません。
ギレアがエルシンの恫喝ないし軍事行動に屈し、ギレア南東部がエルシンに呑み込まれた場合、モーデル聖王国は直接エルシンと国境を接することになります」
このコネリー大佐の説明を受け、会議の参加者がおのおの意見を述べていった。参加者から質問があればコネリー大佐が適宜答えている。
「なるほど。同盟に参加した場合、わが国はエルシンとすぐにでも戦う可能性が出てくるわけか」
「とはいえ、いずれエルシンと戦うことがあれば、わが国一国で太刀打ちできないことは明白」
「ギレアと同盟軍がエルシンを跳ね返すことができるかが当面の山場でしょう。もし跳ね返すことができたのなら、同盟に参加しても良いのでは?」
「跳ね返せなかった場合は、同盟に参加しないのかね?」
「ご存じのように聖王国の軍事力は、聖王国が過日帝国と称していた時と異なり、ほとんどありませんので国境をエルシンと接した場合、同盟軍があったとしても、エルシンに対抗できないことは明らかです。わが国が同盟に参加する意味合いは現在のところあまりないと考えます」
「そうかもしれないな」
「ただ、エルシンが中央を取った場合、いずれわが国にも矛先を向けるのではないか? その時わが国単独では到底太刀打ちはできまい」
「結局のところ、ギレア南西部を同盟が守れるかどうかが問題となります。守るのなら全力でいかなければなりません。一つの手として、エルシンがギレア南西部に侵入した場合、わが国は同盟に参加することなく強力な援軍を送ることも考えられます。エルシンもソムネアが東に控えている以上ギレア南西部の攻略にはさほどの大軍を送れないでしょうし、時間をかけることもできないでしょう。
話は元に戻りますが、エルシンが軍を催しているという兆候を対外部では掴んではいません。エルシンがギレアに対しその南西部の割譲を迫るというのは擬態の可能性も捨てきれません」
「擬態?」
「本当の目的は他にあり、ギレアが要求に応じれば儲けもの」
「本当の目的とは?」
「例えば、ギレア軍、同盟国軍をギレア南西部に移動させ、北方のどこかの国、例えばセロトがギレア北方に攻め込むとか」
「セロトは現在ローエンに攻め込んでいるのではないか?」
「いつもどこかと争っているセロトにとって2正面も3正面も同じでしょう。ただ、ローエンに攻め込んだのも擬態の可能性もあります」
「なるほど。結局わが方は全く動けないという訳か」
「南か北か、それがはっきりしてから行動を起こす方が無難と思います。対外部ではエルシン軍の動きに注意するよう現場に指示を出しています」
「それこそ、光の騎兵隊の出番かもしれませんな。あの機動力があれば、ギレアの北でも南でもすぐに駆け付けることができる。アービス少尉次第ということか」
……。
「なかなか、結論が出そうにはないようだな。今日の会議はこのくらいにしておくか。また明日みなで集まり議論しよう」
「かしこまりました」
その日の会議はローデム2世の言葉で結論の出ないまま散会となった。
会議に参加していた各人は状況をある程度理解したが、国の行く末の問題であるためそう簡単に結論の出るような案件ではない。
これまで通り単独主義を続けていくのか? 中小国の互助組織のようなモーデル陣営に与するのか?
100話にしてやっと本作の副題『-帝国の藩屏-』での『帝国』という名前が出てきました。




