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ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第7章 アービス小隊

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第97話 長剣『ボルタのカミソリ』、大剣『銘なし』


 期末休暇明けのこの日、軍学校では入学式が行われた。キーンたち新2号生徒に出番は無かったが、新1号生徒の生徒代表と新3号生徒の生徒代表が校長の挨拶のあと、それぞれ挨拶したそうだ。


 キーンたち新2号生徒は、これまでの教室をそのまま使っている。担当教官も持ち上がりでゲレード少佐のままだ。担当教官の方は分からないがこのまま卒業するまで同じ教室を使うようだ。入学式に全く関係のないキーンたちは朝から普段通りの授業が始まった。教科書などもそのままなので進級した目新しさなど全くない。


 それでも、普段通りキーンは真面目に授業を受けている。そしていつものように4限が終わるとすぐに食堂で昼食をとって、厩舎に急ぎブラックビューティーに乗って訓練場に向かった。



 訓練場に到着すると、古参兵たちは10キロの砂の入った背嚢を背負って駆足の最中で、新兵たちは、黒玉を頭の上に漂わせたボルタ曹長を先頭に行進していた。昨日の状態よりも明らかに新兵たちの行進がまともになっている。


 キーンを見つけたボルタ曹長が、新兵たちにはそのまま行進を続けさせ、キーンの方に駆けてやってきた。


「小隊長殿、ご苦労さまです。近衛兵団の人事から連絡があり、第5分隊を任しているカーター兵長が兵曹に進級しました。その他兵の中にも兵長に進級したものが5人ほどいます」


「それはよかった」


「小隊長殿のおかげとみんな感謝しています」


「僕のおかげ?」


「もちろんです。うちにいる古参兵たちはこれまでとても進級するような考課を得ていたものはいませんでした。これがいきなり6人も進級したということは小隊長殿の考課が高かったおかげです」


「そうなのかなー。兵隊たちの考課はボルタ兵曹の考課そのままだったんだけどね」


「兵隊たちの平均は70点となるよう人事では求めていましたが、わたしの段階では80点ほどでした。そのままというのは、もしかして、小隊長殿は点数を1点も下げずにそのままで?」


「うん、そのまま」


「そ、そうでしたか」


「どこからも文句はなかったようだから、それでよかったんでしょう」


「そうですね。ハハ、ハハハハ」




「なんだか、新兵たちの行進が見違えるように良くなってますが?」


「午前中、古参兵と一緒に行進させたのがよかったようです。きっちり行進する古参兵に挟まれていい加減な行進ができなかったようですな。さすがは小隊長殿です。みごとに当たりました。アハハハ」


「それは良かった。行進がさまになってきたなら、次は駆足ですね」


「まだまだ体が訓練に慣れていないので、駆足の方は時間がかかりそうですが、あと一月ひちつきで新兵どもを10キロ駆足できるようにしてみせます」


「早いことに越したことはないけど、無理はしないように」


「もちろんです。そういえば少尉殿、新兵たちにも少尉殿の魔術なり剣術を見せていただけませんか?」


「それはいつでもいいよ。大剣は持っていないけど、ここの訓練用の大剣を借りればいいし」


「やはり、早いうちに小隊長殿の凄さを教えてやった方がいいと思いまして」


「それじゃあ、行進が終わったらやってみようか。ところで、ここの訓練用の大剣を1本僕が貰ってもいいかな?」


「本来はマズいでしょうが、自分が適当に処理しますから大丈夫です。どうなされるのですか?」


「ある程度は強化しておかないと、振り回した時、タダの木の大剣だと壊れてしまいそうな気がして」


「なるほど。それでは、武器庫に行ってみましょう」




 二人連れだって武器庫の中に入り、キーンはあまり傷んでいない大剣を1本手に取った。


「そう言えば、今まで材質が木のものばかり強化してたけど、はがねの剣なんかを強化したらどうなるんだろう?」


「小隊長殿に見せていただいたあの真っ黒い大剣には刃がありませんでしたが、鋼の剣を強化すると刃の付いたとんでもない剣ができるのではないでしょうか」


「一度試してみたいけど、ここの剣を使っちゃマズそうだし」


「それでしたら、自分の私物の剣を強化していただけませんか?」


「いいの? 一度強化の定着が起こると真っ黒になって元に戻らないよ?」


「小隊長殿のあの大剣の黒さと同じ剣なら望むところです」


「それじゃあ、やってみよう」


「小隊長殿はここの表でお待ちください。すぐに剣を持ってきます」


 武器庫から出て扉を閉めたら、ボルタ曹長が兵舎の方に駆けて行った。



 数分でボルタ曹長は装飾された鞘に入った長剣を持ってきた。


「この剣です」


 ボルタ曹長から鞘ごと渡された長剣を引き抜くと、きれいに研がれて手入れのされた立派な両刃の長剣だった。


「かなり立派な剣だけどほんとにいいの?」


「もちろんです」


「鞘と剣を同時に強化できるけど、この鞘は象嵌ぞうがんされているし真っ黒にするわけにはいかないから、剣だけ強化しよう。強化3000」


 キーンが手にした長剣が光り輝きそのまま3分ほど時間が経ったところで光が収まった。キーンの手にした長剣は、柄から剣先まで真っ黒に変色していた。ただ、剣の刃にあたる部分だけやや黒さが薄くなってはっきり刃であることが分かる。キーンの『龍のアギト』と違っていかにも切れそうだ。


「できたけど、どうかな?」


 キーンがボルタ曹長に今できた黒い長剣を渡す。


「刃先を見ているだけでこちらが切れてしまうような迫力が出ましたな。結構重くなりましたが何とか片手でも扱えそうです。試しに何か切ってみましょう。何かなかったかな? ちょっとそこの木の枝でも払ってみますか」


 近くに植えられていた大きな木の下の方の枝の先をボルタ曹長が手にした長剣で払ったところ、音もなく枝が落っこちてきた。


「小隊長殿、枝を払った感触がほとんどなく切れてしまいました。刃先の方はびくともしていません。これは王宮に保管されているアーティファクト級の長剣になったのでは?」


「ボルタ曹長、それは大げさでしょう。ほんの3分でアーティファクトができたらそれはそれで問題ですよ」


「そうかもしれませんが、おそらくこの剣なら相手の持つ鋼の剣を簡単に切り飛ばせますよ。うーん、こうなるとめいをつけたくなりますな。小隊長殿この剣にふさわしい良い名前はありませんか?」


「そうだなー、ボルタ曹長のよく切れる剣ということで『ボルタのカミソリ』ってのはどうかな?」


「ほー、いいですなー。『ボルタのカミソリ』。実際ひげも簡単に剃れそうですものな」


「よかった。それじゃあ、僕の方もこの大剣を強化しよう」


 地面に一度置いていた訓練用の木の大剣を手にして、


「強化3000」


 こちらも同じように3分ほど光り輝いて光が消えた後、真っ黒い大剣ができ上った。銘を付けるほどでもないのでキーンはあえてその大剣に銘を付けなかったが、ボルタ曹長が勝手に『銘なし』などという銘を後で付けたようだ。



「これもものすごいものです。何というか、小隊長のあの黒い大剣と同じように怖いくらいの禍々(まがまが)しさがありますな」


「そうかなー。みんな禍々しいとか言うけど、これくらい普通だと思うけどなー。ちょっとどんな具合か試してみよう。ボルタ曹長、危なくはないと思うけれど少し後ろに下がってて」


「はい」


 ボルタ曹長が後ろに下がったのを確認して、キーンが軽く剣を振ってみる。こちらの方が『龍のアギト』と比べて刃渡りで5センチほど長く重さもやや重いようだ。武器庫の中でも確かめたが、バランスはとれているようなので問題はない。


「行きます!」


 そう一声かけたキーンがいつものように突きからの八方向への素振りをしてみる。もちろんボルタ曹長の目ではキーンの腕から先の動きは目で追えていない。


「小隊長殿の素振りは、わたしでは見えてはいませんが、いつ見てもものすごいものですな」


「小さな時から大剣を振り回しているからできるだけだよ」


「幼い時から剣を振り回すだけで小隊長殿ほどになるなら、誰も苦労しないと思いますが。

 そろそろ駆足も終わる時間ですので戻りましょう」


 駆足もちょうど終わったようで、古参兵たちはいつもの場所に整列している。行進中の新兵たちもいつもの場所に向かい始めたようだ。


 キーンたちも急いでそこに行き、新兵たちが整列するのを待って、ボルタ曹長が小休止の号令をかけた。


「全隊、小休止! 少し休んだら、小隊長殿が魔術と剣技を披露してくださる。小休止の後、古参兵は長槍の隊列訓練だから背嚢を置いて長槍を用意するように。新兵たちは行進だ」


 また行進と聞いた新兵たちが何か言いたそうな顔をしてボルタ曹長を見ているが、口に出して不平を言う者はいなかった。


 小休止の合図で地面に座る者や、水を飲みに行くものを見ながら、キーンはさて今日はどんなことをみんなの前でやって見せようかと考えていた。前回と同じでは古参兵が退屈するだろうからここは考えどころだ。






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