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3話 内に秘めた力

俺は死ぬ。

 そう覚悟して最後の瞬間を待ったが――


 ガキィーンッ!


 俺をめがけて振り下ろされた鎌は、何か硬いものにぶつかったような音を発してはじかれた。


 「ちょっと、どういうこと!?あなた何をしたの?」

 

 どうやら死神にも何が起こったかわからないらしい


 「いや……知らないけど」


 聞きたいのはこっちの方だ。

 生き残れたのはありがたいが、なぜ死神の攻撃をはじけたのかはわからない。

 

 「まずいまずいまずい…こんなこと他の死神に知られたら…」


 どうやら死神は何か心配事があるらしい。

 ひどくうろたえている。

 何かにおびえているようにも見えた。

 頭を抱えたまま部屋の中を落ち着きなく歩き回っている。


 すると突然部屋のテレビの電源が入った。

 びっくりしてそちらを見ると、目の前でうろたえている死神と同じ格好をした人物が写っていた。


 「……!もう気づかれた…」


 ポルターガイスト現象を起こしたテレビの画面に自分と同じ格好の者が表示されていることを認めると、死神はバツが悪そうな顔をして、テレビをにらんだ。

 

 テレビから声がする。

 「見てたわよサキちゃ~ん。あなた、魂を狩るの失敗してたわよね?」


 女性の声だ。

 おそらく画面の向こうにいる死神の声だろう。


 「だって、あんな強力な守護の印が施されてるなんて思わないでしょ!」

 こちらの死神が必死に弁明する。


 「そうねぇ。あのレベルで守られてる人間に呼び出されるなんて災難だったわねぇ。でも契約は絶対なのよ。だから、ね?わかってるでしょ?」


 二人にしかわからない会話をしている。

 守護の印?契約?何のことだろう。


 「わかってるわよ!でもあれはそう簡単に破れないわ。突破するにはかなり時間がかかりそう」


 こちらの死神が俺の方を見ながら苦い顔をしている。


 「大丈夫よ~、あなたの失敗は私しか知らないわ。他のことも私が何とかしといてあげる。だからあなたはその子を殺すことに専念しなさい。じゃあ頑張ってね」


 プツン


 テレビの電源は切れた。

 もう画面には何も映っておらす、俺の呆けた顔を反射していた。


 てかもう一人の死神、最後に物騒なこと言ってなかった?

 俺を殺すことに専念しろ?

 もしかしてさっきの会話全部俺を殺すことについて話してたの?


 説明を求めて死神の方を向くと、死神は俺の胸ぐらをつかんで堰が切れたように怒鳴り散らした。


 「あんた…やってくれたわね!!!これで私は死神界に帰れなくなったわ。早く死んでちょうだい!」

 「ちょっとまて、順を追って説明してくれ!」


 死神が突然俺を離したのでうまく受け身が取れず床にしりもちをついた。 

まずは説明が必要と判断したのか、死神は向かいに座って説明を始めた。


 「まずは自己紹介から。私の名前はサキ。死神よ」


 死神はサキと名乗った。


 「どうも、宮代紘希みやしろこうきです」


 俺も倣って自分の名前を名乗った。

 死神はよろしくと小さく返して説明を続けた。 


 「いろいろ話すべきことはあるけど、まずはわかっていることから話すわ。まず私は故郷に帰れなくなった。死神は一度契約を交わした相手の魂は刈り取らないといけないという決まりがあるの。だからアンタを殺して魂を手に入れないと帰れないの」

 

 なるほど、だからあの人は俺を殺すことに専念しろと言ったのか。

 続けてサキは苦々しい顔をして説明を続行した。


 「だけど私はアンタの魂を刈ることができなかった。アンタの体に鎌の刃が触れる直前、何かの力によってはじかれたのよ。その力の正体は守護の印の類と考えて間違えないと思う」


 だから俺は生きているのか。

 しかし聞きなれない言葉が出てきた。

 

 「守護の印って何のこと?」

 

 「アンタの体に施されてる…結解みたいなものよ」

 

 無知な人間相手に説明するのは難しいものなのか、多少言葉に詰まりながら説明してくれた。

 つまり俺はその守護の印というものに守られていたから魂を刈られずに済んだというわけだ。

 俺が生きていた理由、そしてこの先も命を狙われなければならない理由のどうしても確認しておきたかった理由二つを聞くことができたので、今度は俺の方から質問をしてみることにした。


 「気になってること聞けたし、ずっと気になってた質問があるんだけど」

 「なによ」

 「どうしてサキはさっきまでと口調が違うの?」


 沈黙が部屋を支配した。

 しかし俺はなおも質問を続ける。

 守護の印とやらで守られているとわかった以上、サキを恐れる必要はない。


 「ねえ、もしかしてかっこつけちゃった?俺を殺せなかった事がショックすぎてキャラ付け忘れちゃった?ねえ、どうしてどうして?」


 俺はわざとらしく煽るように質問をした。

 自分でも引くくらいうざい顔をしていると思う。

 あ、先のこめかみに青筋が浮かんでる。

 相当イラついているようだ


 しかしこっちは殺されかけたのだ。

 これくらいの些細な仕返しは許されるだろう。

 守護の印で守られている俺には先の攻撃は効かないわけどぅぶぉは!


 「うるっさいわね!ええそうよ、キャラ作ってたわよ!別にいいでしょ、私にも死神としてのプライドがあるの。威厳ある振る舞いしてもいいでしょ!」


 サキが何か叫んでいるが、殴られた痛くてそれどころではない。

 あれ……守護の印は?

 俺を守ってくれるんじゃなかったの?

 

 その違和感にサキも気が付いたらしく、自分の手を見下ろして不思議そうにつぶやいた。


 「あれ……なんで私こいつを殴れたんだろう?」


 しばらく考え込んだと思ったら突然サキは「そっか!」と何かにひらめいたような声を上げた。

そして俺の方を向いて、たどり着いた結論を述べた。


 「さっきは魂を刈るために霊力を込めて攻撃したからはじかれたのよ!でも今は何も込めずに殴ったからはじかれなかったんだわ!」


 なるほど……よく覚えておこう。

 つまりサキに逆らってはいけないということだ。


 「さて、私はアンタを痛めつける手段を発見したわけだけど……何か申し開きはある?」

 「調子に乗ってしまい本当に申し訳ありませんでした」

 「よろしい」


 こういう時はさっさと謝るのが一番だ。

 もちろん土下座をしている。

 言われるまでもない。

 何で自分を殺そうとした相手に土下座をしているのだろうとか、決して考えてはならない。

 そう、たとえ力の加減ができない怪力人外女がか弱い男子高校生を大人げなく虐げていることが現実でも決して口に出してはいけない。

 心の中で一言「今に見てろよ、お前の砥石みたいな胸でその鎌研いでやるからな」とつぶやいてほとぼりが冷めるまで心を殺していれば――


 「聞こえてるんだけど♡」

 

 サキが発した明るさの裏に隠しきれていない殺意が見え隠れする言葉を最後に、俺の記憶は途切れていた。


 


 こうして、好奇心で身を滅ぼしかけた男子高校生宮代凪人の死神であるサキに命を狙われる生活が幕を開けた。

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