妖精な彼女
「昌一郎さん、速く、私を召し上がっていただきたいんです!」
彼女は俺の手を強く握ると、想像の倍くらいの力で俺を引っ張りあげた。そして、俺の部屋のドアを開ける。
「え……」
背筋が凍った。俺はこの二日間、鍵を開けっぱなしで会社に行っていたのだ。しかし、この少女の手のぬくもりを感じているうちはそんなことどうだっていいと感じた。二日ぶりに踏み入れた俺の部屋は、客観視してみれば相当汚かった。いわゆるゴミ屋敷というやつだった。さすがに少女もドン引きしているんじゃないかと思ってみてみたら、彼女は全く動じず、むしろ楽し気な笑みを浮かべている。
「まずはちょっと片付けて、それからにしましょう!」
彼女は俺の手をひいてゴミ山をまたぎ越すと、カップ麺の容器がたまりにたまって異臭を発しているキッチンへと歩いていく。そして、彼女は俺の手を離し、自分の胸の前で手を合わせた。
「あ、今から妖精の力を使いますけど、驚かないでくださいね!」
彼女はその柔らかくかわいらしい声で、俺に忠告した。何が始まるのだろうと俺は若干期待する。彼女はその杏色の唇を動かし、何かを呟きはじめた。そして、彼女は手を高く上げる。その瞬間、彼女が伸ばした人差し指から虹色の光があふれ出した。あまりのまぶしさに瞼を閉じる。数秒たち、光が収まったと分かると俺は再び瞼を開く。
「え……」
思わず声が漏れる。そこにはありえない光景が広がっていた。
「どうです?妖精の力、すごいでしょう!」
彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべた。俺は激しくうなずく。俺の部屋に大量の溜まっていたはずのゴミはどこかに消え、床やシンクも素晴らしく綺麗になっている。本当にこれは、人の行為とは思えない。俺があっけに取られていると、彼女は急に声を上げた。
「そうだ!自己紹介を忘れてました!」
彼女はその桃色の長い髪をかき上げて、俺のそばへと寄ってくる。彼女はだいぶ身長差のある俺にできる限り顔を近づけ、満面の笑みを浮かべて言う。
「妖精族で生ハムの妖精、公子です!昌一郎さん、これからお願いします!」