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第6話 妥当な評価

 掲示板を眺めていると、店の入り口から聞き慣れた声がした。

 直後にその人物が肩を組んでくる。


「おう、弱虫リュースじゃねぇか!」


 間近で笑うその男は、銀の短髪の戦士ウィルクだ。

 防御魔術の刻印された鎧を纏う傭兵で、街でも有名な双剣使いである。

 そして、僕をからかって楽しむ性格の悪い奴だった。


(しまった。鉢合わせしないように時間をずらしていたのに……)


 きっと仕事が早く終わったのだろう。

 そのせいで目を付けられたのだ。

 ウィルクは僕の背中を叩きながら大笑いする。


「傷だらけだな! 今度はどこのゴブリンに負けたんだ?」


「…………」


「おいおい、黙ってないで答えてくれよぉ! 俺達の仲だろうが!」


 ウィルクは茶化すように肩を揺らしてくる。

 振り返ると彼の仲間達も笑っていた。

 いや、酒場で飲む他の傭兵も笑っている。

 誰もが僕を馬鹿にしているのだ。


(どうして僕ばかりこんな目に……)


 原因は分かっている。

 僕が不甲斐ないせいだ。

 ここでは勇者の素性を隠しているが、きっと公表したところで信じてもらえない。

 実力不足がすべての原因であった。

 気弱で情けない僕だからこそ、こんな扱いを受けているのだ。


 ウィルクは僕の耳元で優しく囁いてくる。


「ほら、今夜は俺が奢ってやるぜ。何が飲みたい?」


「いらないです。自分で頼むので……」


「無理すんなって! お前の稼ぎじゃ大したもんは食えないんだからな! 酒だって注文していいぜ」


 ウィルクの提案に対し、僕はやんわりと拒絶の言葉を選ぶ。


「や、やめてください。僕はもう大丈夫です」


「……構うなってことか?」


「はい、そうで――」


 頷いたその瞬間、強烈な衝撃と共に吹き飛ばされた。

 床を転がった僕は壁に衝突する。

 鼻血を噴きながら立ち上がると、ウィルクが腕を振り抜いた姿勢になっていた。


 たぶん至近距離で肘打ちを受けたのだろう。

 ウィルクは歴戦の剣士で、優れた身体能力を持つ。

 僕が攻撃を見切れるはずもなかった。


 血だらけの鼻を押さえていると、無表情のウィルクが僕の襟首を掴んで持ち上げた。

 彼は殺気を隠さずに告げる。


「調子に乗んなよ、クソガキが。誰に意見してるか分かってんのか?」


「う、あぁ……ぐ……」


「俺達はこの街で最強の傭兵グループ"魔鋼の刃"だ。雑魚が盾突くなんざ百年早いんだよ」


 そう言ってウィルクは僕を投げ捨てた。


 彼らは嘲笑を残して酒場のテーブルに座る。

 取り残された僕を気遣う者は、この場に一人もいなかった。

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