第4話 勇者の目覚め
深く沈んでいた意識が浮上し始める。
僕は頭痛を感じながら目を開けた。
「ん……うぅ……」
地面に倒れていた僕は口に入った土を吐き出す。
頭を振って意識をはっきりさせると、直前の状況を思い出した。
(僕、気絶してしまったんだ)
盗賊団に圧倒されて斜面を転がり落ちた。
そこで意識を失ったことまでは憶えている。
まだ生きているということは、殺されていないのだろう。
それなら盗賊達はどうなったのか。
今更ながらに気付いた僕は、焦りながら跳ね起きる。
そして、目の前の光景に凍り付いた。
「えっ」
辺りにはたくさんの死体が転がっている。
恰好からして盗賊達だ。
誰もが死んでいる。
首が折れていたり、顔面が潰れて動かなかった。
むせ返る血の臭いに気付いて、僕は思わず嘔吐した。
何度も咳き込んで涙を流しながら後悔する。
(また僕は暴走したんだ。生きるのに必死で盗賊を殺してしまった)
いつの頃からだろうか。
たまに僕は記憶を失って、目の前の敵を殺すようになった。
知り合いの魔術師に相談したところ、生存本能の暴走だと説明された。
死にたくないという気持ちが、勝手に身体を動かしたのだという。
そういった現象は珍しいものの、ありえない話ではないらしい。
実際にそれを逆手に取って活躍する戦士もいるそうだ。
僕には大きな力が眠っている。
運命によって選ばれた勇者なのだから当然だろう。
決して僕自身の能力ではないけれど、光魔術は世界で僕だけが扱うことができる。
ただ運が良かった。
それだけで力を授かってしまったのである。
しかし、結果がこの虐殺だった。
僕は自分の能力を制御できていない。
こうしてすべてが終わった後で後悔している。
しばらく泣いた後、僕は涙を拭いて立ち上がった。
自己嫌悪は疼いているけど、ぼんやりしている場合ではない。
やるべきことがまだ残っているのだ。
「村の人達を助けに行かないと」
きっと盗賊のアジトで不安がっているはずだ。
僕が救出しなければいけない。
剣と盾を持って僕は歩き出した。
死体はなるべく見ずに進んでいく。
(故郷で姉さんが待っている。早く世界を救って勇者をやめるんだ)
その日はまだ遠い。
けれども僕は諦めない。
二人で平穏な暮らしをするのが僕の夢だった。