第22話 助けの声
その瞬間、僕は一つの決心をした。
奥歯を噛み締めると、闘気を燃やしながら動き出す。
(こうなったらやるしかない……!)
至近距離から盾を突き出して攻撃した。
頬に添えられていた刃が離れるも、男は盾による殴打を掴んで止めていた。
こちらの攻撃を読まれていたのだ。
「おっと」
男は掴んだ盾をひねって僕を地面に倒す。
あまりにもあっけなかった。
まるで力の流れを乱されたかのようだ。
きっと何かの武術なのだろう。
男は愉快そうに笑うと、僕に向かって拳を振り下ろしてきた。
「甘いぜ坊ちゃん」
「カハッ!?」
腹に強烈な衝撃が走る。
思い切り殴られた。
内臓が滅茶苦茶になったような痛みが襲ってくる。
転げ回りたいのに、男の足が僕を踏み付けているせいで動けない。
涙を流しながら、静かに悶絶するしかなかった。
男は足で僕を揺すりながら嘲笑う。
「力も速度も技も足りねぇな。そんなんで俺達を倒せると思っちゃいけないぜ」
「う、ぐぅ……」
僕は嘔吐する。
それでも容赦なく男は問いつめてくる。
「早くアイニスの居場所を吐け。そしたらすぐ楽にしてやるからよォ」
「いや、だ」
「じゃあもっと苦しめ」
その直後、顔面を踏み付けられた。
視界が真っ黒になり、熱い激痛が走る。
泥と草の臭いもした。
視界が開けると、僕を見下ろす男達がいた。
とても楽しそうだった。
涙と一緒に、鼻から液体が流れる感覚がある。
たぶん血だろう。
今ので鼻が折れたのではないか。
「今代勇者は弱虫で役立たず……裏社会の常識になってるんだぜ。全部てめぇのことだ。運だけが良かった坊や……いや、身分不相応な宿命を背負わされたんだ。運は悪いか」
男は嘆くように語る。
言われなくても知っている。
王城にいた時、陰で悪口を言われていた。
当然の扱いだろう。
僕は彼らの期待を裏切ったのだから。
「お前を助ける人間なんていない。アイニスは損得勘定で動いていやがる。勇者が死んだところでプランを変更するだけなんだよな。そこまで困りやしねぇんだ」
「う、そだ……」
「嘘だと思うなら呼んでみろ! 奇跡的に来てくれるかもしれないぜ」
朦朧とする意識の中、男の怒声が頭の中で響く。
僕は意を決して叫んだ。
「誰か、助けてぇ……っ!」
「――情けない」
心底から軽蔑するような声。
涙で滲む視界に意識を向ける。
三人の男達の後ろに、漆黒の人影が立っていた。




