第21話 言葉の重み
(どうする。戦うしかないのか?)
僕は判断に迷う。
ここで一つでも選択を誤れば、取り返しのつかないことになる。
それを確信しているから動けない。
どうすればいいのかまだ決められずにいた。
その間も三人を観察する。
彼らは対照的に冷静だった。
ふざけた態度を取っているが、決して気を抜いているわけではない。
心底では冷徹な感情を保っている。
自分達の為すべきことをよく分かっているのだろう。
僕とは大違いである。
(アイニスさんが来てくれるはずだ。それまで時間を稼ぐんだ)
結局、僕が行き着いたのはそんな他人任せな結論だった。
ほぼ同時に、男の一人がナイフをちらつかせながら話しかけてくる。
「質問だ。坊ちゃんと一緒にいた女傭兵……アイニスは今どこにいる?」
それを聞いた僕は小さな驚きを覚える。
予想外の内容だったのだ。
(こいつら、僕ではなくアイニスさんが狙いなのか?)
向こうの思惑について訊きたいが、質問するのは許されていない。
本気で攻撃されると死ぬのは僕だ。
今はあえて生かされている状況だった。
逆らいすぎると殺されてしまう。
僕が黙っていると、男は苛立った様子で舌打ちを連発する。
「早く答えろよ。しらばっくれるつもりかい?」
「僕も、知りません。行き先を言わずにいなくなりました」
「本当か? つまらん嘘をついてくれるなよ」
「本当に知らないんです! アイニスさんのことは何も教えてもらっていなくて……」
僕が懸命に主張すると、男は愉快そうに手を打った。
他の二人と顔を見合わせながら大笑いする。
ひとしきり笑った後、落ち着いた男は諭すように言う。
「坊ちゃん、そいつは信頼されてねぇってことだ」
「え……?」
「だってそうだろう。仲間になら素性だって明かすはずさ。多少は後ろめたくても、秘密にし続けることなんてない」
男は近付いてくる。
ナイフの刃先は気が付くと僕の頬に添えられていた。
いつの間にここまで近付かれたのか。
僕は気でも失っていたのか。
反応する間もなく、男は勝手に話を続ける。
「坊ちゃん。あんたは道具なのさ。勇者だから持て囃されている。アイニスだってそうさ。光魔術の特性がなければ、誰もあんたに目を向けない。ただの落ちこぼれなんだからな」
仮面の向こうの目は、無価値な物を眺める眼差しをしていた。




