第20話 敵対者
(明らかに敵だ。僕を……勇者を殺しに来たのか?)
心当たりと言えばそれしかない。
恰好からして暗殺者だろうか。
三人の佇まいからは、こういったことに慣れているのが分かる。
ほんのりと感じる魔力の大きさもかなりのものだった。
魔力がそのまま実力になるわけではないが、無視できない要素であるのは間違いない。
この三人は相当な手練れである。
一人だけでも僕ではまず敵わない。
そのような暗殺者が三人も集結していた。
(魔族側が派遣したのか? まさか人間側の仕業なのか?)
僕は咄嗟に様々な可能性を考える。
詳しくは知らないが、勇者にもなれば政治的な事情も絡んでくる。
実際に会ったことはないけれど、僕のことが目障りな人間だっているかもしれない。
そうだとすれば、やはり命を奪われてしまうのだろう。
きっと話し合いだって通用しないのだ。
考えているだけで震えが湧き上がってくる。
視界が急に狭まり、風が木々や茂みを揺らす音が遥か遠くに聞こえた。
いけない。
膨れ上がった恐怖が意識を奪おうとしている。
僕は唇を思い切り噛むと、ブーツの踵で踏み締める大地に集中する。
血の味を感じると共に、多少は冷静になれた。
一度だけ深呼吸をしてから、アイニスさんに教わった構えを取る。
もう僕には仲間がいるのだ。
いつまでも情けないままではいられない。
変わらなくてはいけないのである。
対する三人はやはり余裕綽々といった様子だった。
「緊張すんなよ。不必要に苦しめないのが俺達の信条なのさ」
「一瞬でぶっ殺してやるぜ」
「ヒハッ、楽しそうだ」
口々に好き勝手なことを言っている。
僕は杖に魔力を流しながら質問しようとした。
「あなた達は、どこの組織に――」
遮るようにナイフが飛んでくる。
その軌道は明らかに僕を狙っていた。
「な……ッ!?」
僕は咄嗟に盾を持ち上げて防御する。
弾いたナイフは高速回転しながら飛び、木の幹に突き立って止まった。
先ほどまでナイフを回転させた男の手には、何もなかった。
男は感心した様子で手を叩く。
「さっきもそうだが、よく防げたな。今代勇者はドジで弱いと聞いていたんだがね」
男は懐から新たなナイフを取り出す。
彼はそれを器用に弄びながら肩をすくめた。
「それと一つ忠告をしとこう。質問をするのは俺達だ。坊ちゃんはただ答えるだけでいい。余計な発言は寿命を縮めるぜ?」
「ま、待ってください! そんな滅茶苦茶な」
「忠告を聞けって」
無感情な声と共にナイフが飛んできた。
僕はまたも紙一重で防ぐ。
三人の男は、氷のように冷たい気配を纏ってこちらを見ていた。
そこに情けは存在しなかった。




