第13話 機密騎士の忠誠心
アイニスの言葉を聞いた私は、怪訝な心境で目を細めた。
(王国機密騎士隊だと?)
その名前は聞いたことがある。
リュースが勇者になると決まった時、王国の内部構造について調査した際に知ったのだ。
王国機密騎士隊とは、一般には存在すら公表されていない秘密組織の名である。
所属する者は選りすぐりの腕利きばかりらしいが、書類上は殉職しているそうだ。
そもそも身分が存在しない者や種族が異なる者も在籍している。
私も詳しい構成員の情報は手に入らなかったので、具体的に誰がいるのかまでは知らない。
機密騎士隊の目的は、王国の治安維持だ。
主に不穏分子の捜索と監視が業務で、時には暗殺紛いのこともするという。
ようするに国の暗い部分を担う特殊部隊である。
そのような組織の一員がリュースに接触を図っているのだ。
「機密騎士の役割に勇者が関係あるのか」
「もちろん。リュース君には強くなってもらわないといけないからね」
「リュースは国に見放されている。だから単独行動という名の放棄状態なのだ」
「機密騎士隊は違うの。わたし達は勇者の才能を評価している。だから彼の旅の補助を企画した」
予想外の情報だった。
王国はリュースを放任しているはずだが、機密騎士隊には目をつけられていたらしい。
つまり彼に魔王を殺せるだけの可能性が眠っていると考えているのだ。
その力を引き出すためにこうして現れたに違いない。
「国王の判断を無視して動いているのか」
「うん、そうだよ。機密騎士隊は独自組織だからね。国のためなら王命にすら背くのさ」
「危険な部隊だ。そこまで独断的だと暴走しそうなものだが」
「そこは安心して。わたし達は契約魔術で縛られていて、王国を裏切ろうとした瞬間に死ぬんだ。王国所属の勇者であるリュース君と敵対することはないよ」
アイニスは断言する。
確かに彼女の目は嘘を語っていない。
心を揺らがせることなく、私の目を真っ直ぐと見つめていた。
その忠誠心は、王ではなく国そのものに向いている。
命令は最優先ではない。
時代で変動する王ではなく、歴史を刻み続ける国という概念に心身を捧げているのだ。
アイニスの覚悟を垣間見た私は、素直な意見を告げる。
「ひとまず信用しておくが、リュースに害を為せば殺す」
「遠慮なくどうぞ。その時はわたしも本気だから」
笑顔のアイニスも獰猛な気迫を覗かせていた。
状況が一つでも変われば、私達は殺し合うことになるだろう。
薄氷の上で手を結ぶことができている。
それを直感で理解した。




