第12話 邂逅
翌日以降もリュースとアイニスの鍛練は続く。
毎夜のごとく集まる二人は、模擬戦闘をひたすら繰り返していた。
負けるのはいつもリュースだ。
そのたびにアイニスが的確な助言を伝えて、頷いたリュースはそれを反復する。
一体アイニスは何が目的なのか。
それを確かめるために私は行動に出た。
ある日の鍛練終わりにアイニスの泊まる宿の部屋に潜入し、彼女の素性を暴こうと考えたのだ。
彼女が物陰で眠るのを待っていると、不意にアイニスが起き上がった。
その目が暗闇の中でこちらを注視する。
「乙女の部屋に忍び込むなんて無粋だね」
「…………」
私は物陰から滑り出る。
外套で顔を隠したまま問いかけた。
「何者だ」
「それはこっちのセリフだよ。ずっと監視してたくせに」
アイニスが嫌味を込めて言う。
やはり気付かれていた。
ここ数日の監視はすべて感知されていたと考えていいだろう。
一度察知されてから注意を払っていたが、それでも無駄だったらしい。
大した能力である。
観念した私は外套を脱ぎ捨てる。
するとアイニスは驚愕した。
「リュース君……?」
「違う。私は双子の姉だ」
私は端的に訂正する。
アイニスは意外そうに息を吐いた後、納得した様子で手を打った。
「へぇ、お姉さんだったんだ。顔はそっくりだけど実力はまるで似てないね」
「軟弱な弟と一緒にするな」
そう答えた私は前進して拳を打ち込む。
アイニスは棍棒を割り込ませて防御してみせた。
さらに後退して衝撃を逃がしつつ、部屋の壁に着地する。
魔力操作によるものか、足裏が壁に吸着していた。
アイニスは亀裂の入った棍棒を見て嘆息する。
「暴力的だね」
「よく言われる」
今度は飛び蹴りを見舞う。
アイニスは回避を試みるも、爪先が頬を掠めていった。
天井に着地した彼女は頬の傷を撫でる。
「いてて、さすがに強すぎない?」
「鍛え方が違うのだ」
「これでも部隊の中では最強格だったんだけどなぁ……」
そのぼやきを聞いた私は尋ねる。
「部隊? どこの部隊だ」
「知らないのに潜入していたの?」
「質問に答えろ」
「しょうがないなぁ」
面倒くさそうに言ったアイニスは床に着地する。
彼女は胸に手を当てて名乗りを上げた。
「わたしは王国機密騎士隊のアイニス。勇者リュースの実力を上げるのが目的だよ」
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